天使様との交信
「アンナさん。アロウラさん。初めまして。わたしは天使のアンクです。わたしはずっとあなたたちを見つめていました」
アンクは、誰もが落ち着くような優しい声で話しかけた。
「アンクさん、わたしたちを知っているの?」
「ええ、わたしはこの世界の管理者の一人ですから」
アンクは、女神ドロシーから、この世界の監視と記録を任されていた。
「そして、あなたたちのことも、ずっと見ていましたよ。それが、天使としての、わたしの役目ですので」
「そうだったの。ねえ、アンクさん……」
アンナは、覚悟を決めて、少しだけ強い口調でアンクに話しかけようとした。
「わかっていますよアンナさん。シンシア様について、聞きたいのでしょう?」
アンクは、何故かアンナが何を言いたいのがすでにわかっているようだった。
「そうなんです。彼女は……」
「残念ですが、お願いしようというのは無理です。シンシア様はドロシー様以外の言うことは絶対に聞き入れません。わたしたちですら、です」
アンクは、厳しい口調でアンナの話を遮った。
「そんな……。それじゃあ、シンシア様に依頼するというのは完全に無理だって……」
アロウラたちは唖然としていた。
「問題無いわ」
「え?」
「私たちのお話を聞いてくれないなら、聞いてもらえるようにするだけよ、力づくでもね」
アンナが、きびしい表情をしたまま、つぶやいた。
「……止めても無駄なようですね。わたしはあなたたちをずっと見ているから、わかります。いいでしょう。わたしがあなたたちが神界まで行くのを手助けしましょう。確か、座標がわかればいいのですね?」
「あなたにも迷惑をかけてしまうけど、本当にいいの?」
「あなたたちと交信することを決意した時点で、覚悟はしていますから」
「ありがとう、アンクさん」
(これで、シンシアに会うのは何とかなりそう。だけど、やっぱり彼女が時間を巻き戻せるのがやっかいねえ。なんとか対策を考えないと……)
アンナはアンクから神界の座標を教えてもらった。
レベッカがスマートボードで連絡をすると、すぐにマグナスが空間転移の魔法を使ってやってきた。
「天使様から上手く座標を聞き出せたようだね。アンナちゃん、私たちも同行してもいいかな?」
マグナスは優しい声でアンナに頼み込んだ。
「もちろんよ。ねえマグナス、いざとなったらあなたの能力でシンシアをどこか遠くへ飛ばしてくれる?」
「大天使さまがそんな隙を作ってくれるとは思えないが……、何か策はあるのかい?」
マグナスはアンナを真っ直ぐに見つめながら質問した。
「もちろん、なかなか隙は見せないだろうし、仮に遠くに飛ばしたところで、時間を巻き戻されてしまうだろうけど。でも、時間を戻すなんて、そんなすごい能力、何度も連続では使えないと思うから、それに賭けてみましょう」
「なるほど、彼女の能力にクールタイムがあることを利用するわけだね?」
マグナスは感心したように小さくうなづいた。
「ええ、あれだけの能力だもの、間違いなく再度使用が可能になるまでには時間がかかるはず。そこを突くしかないわね」
「とにかく、やってみるしかないわ。失敗しても恨みっこなしで。みんな、いいわね?」
アンナの代わりにアロウラがみんなに確認した。
返事の代わりに、全員が手を上にあげた。
こうして、アンナたちに、マグナス、レベッカ、ジェシカの三人が同行して、神界へと向かうことになった。




