明かされたこの世界の真実
「待ってよ、僕が悪かったよ。だから、もう少しだけ、ここにいて、僕とお話してよ!」
そう話しかけると、アステリオスは、小さな少年の姿に変化した。
(子供だと? この姿に変化したということは、降参したという意思表示か? まあ、脱出の方法が見つかったからな。罠でももう問題は無いが……)
「なるほど、君がこの夢幻迷宮の本来の姿ってわけだね。いいだろう、話を聞いてあげるよ」
レベッカとステラは少年の方へと引き返してきた。
「ごめんね。君たちを見ていたら、ローラを思い出して、さみしくなったんだ。金髪の君が、何となくローラに似ていたからね」
「ローラって、あの冒険者のローラのこと?」
「ああ、そうだよ。ローラはアステリオスじゃなくて、僕の存在に気付いてくれた最初の冒険者なんだ」
「なるほどね」
レベッカは神妙な顔でつぶやいた。
「スクネくん。ローラは伝説の冒険者なんだ。かつてこの世界に存在した未攻略ダンジョンはほとんど彼女が攻略したんだよ。そして、私は彼女に憧れて、冒険者になったんだよ」
「レベッカさんがそこまで言うなんて、本当にすごい冒険者だったんですね」
「そうだよ。ダンジョン攻略中にローラは僕の存在に気づいて、話しかけてくれたんだ。それで、僕とローラは仲良くなった」
少年の姿をした夢幻迷宮は、うれしそうな顔で話し始めた。
「でも、ローラは不治の病を患っていてね、自分の命がもう長くないことを知っていたんだ。だから彼女は、当時の女神様に、女神様からの依頼を達成することを条件に、自分をドロシーという少女に転生してもらうことをお願いしていると言っていた。そして、女神様はローラの願いを聞き入れてくれたみたいで、ローラはドロシーという女の子になってから、もう一度僕に会いに来てくれたんだよ。シンシアという女の子と一緒にね」
少年は身振り手振りを加えながら、楽しそうにローラのことを話している。
「……本当にうれしかったよ」
「今、君はドロシーとシンシアって言ったね?ドロシーというのは、今の女神の名前だ。そして、シンシアは、彼女に仕える天使の名前だ。まさかと思うが……」
ドロシーとシンシアの名前を聞いたステラが、驚いた表情で少年に問いかけた。
女神たちの存在と名前については、魔族の中でもステラを含めた上層部の一部しか知らない情報だった。
「ああ、そうだよ。ドロシーとシンシアは先代の女神を倒して、今の女神と天使になったんだ」
少年の告白に、ステラはさらに驚いた表情をする。
「あのローラが転生して女神様になっていたなんて、信じられないよ」
レベッカも驚きを隠せなかった。
「だけど、そのシンシアって子が厄介なんだ。ドロシーをいいように操って、彼女の思い通りの世界にこの世界を作り変えてしまったんだ」
「ちょっと待ってくれ。この世界は、天使のシンシアが作り変えた世界なのか?」
深刻な表情でステラが問いかける。
「そうだよ。そしてその時に彼女は自分の都合のいいように、君たち人間や魔族を転生しなおしたんだ。これは僕の知り合いで、この世界の出来事を記録しているアンクっていう天使がこっそり教えてくれたことだから、間違い無いよ」
「そんな、私たちは彼女に都合がいいように調整された存在だとでもいうのか?」
レベッカは驚きの中に怒りの混じった表情で問いかけた。
「残念だけど、そういうことになるね。そして君たちは認識出来ていないだろうけど、シンシアは何度もこの世界の時間を巻き戻しているみたいなんだ。実際に僕は何度か時間が巻き戻っていくのを感知している。アンクの話だと、彼女は自分に都合が悪いことが起きると、時間を巻き戻す能力を使うみたいだね。そして、彼女が直接介入して、そういう状況を変えてしまっているようなんだ」
「そんな、時間まで操作出来るなんて、この世界はシンシアの思うがままってことじゃないか!」
「そうだよ。だから、この世界では誰も彼女に逆らうことは出来ないんだ。彼女に目をつけられたら終わりだからね。アンクも気づいているけど、シンシアは天使たちをまとめている大天使だから、彼女には逆らえないらしい」
少年はうつむきながら答えた。
「おそらく、私たちの記憶も、シンシアの都合の良いように改竄されているんだろう。私は今でもローラのことを覚えているが、これもシンシアに作られた偽りの記憶かもしれないというわけだ」
レベッカたちは何も話すことが出来なかった。
しばらく沈黙が続いたあと、夢幻迷宮が何かを思い出したように語りかけてきた。
「ああそうだ。ローラから預かっているアイテムがあるんだ。ローラは、いつか私よりすごい冒険者が来たら、そいつに渡してくれって言ってたんだ。だから、君たちに渡しておくよ」
◇◇◇
スクネたちが夢幻迷宮から出てくると、メラネウスが仲間を引き連れてやってきた。
「探しましたよ。ステラ」
「メラネウスか。なんの用だい?」
「魔物化したエリックが来た時に、私の同胞を庇って、逃げる時間を稼いでくれたと聞きました。そのお礼を言いに来たんです」
「ありがとうございました」
メラネウスたちはステラに深々と頭を下げた。
「お礼をいうためにわざわざ会いにきたのか。意外と律儀なんだな。そういうところは嫌いじゃないよ」
ステラは満更でもない笑みを浮かべながら、メラネウスの肩を叩いた。




