生きているダンジョン
三人はアステリオスの攻撃を避けながらダンジョンの出口を目指していたが、いつまでたっても出口は見えてこなかった。
「おかしい、まだ出口に到達出来ないなんて」
「確かに、ここまで長い距離を進んで出口に辿りつかないのはおかしいですね」
「私のダウジングロッドで出口を探してみようとしても、ロッドが反応しなくなっているよ」
レベッカが手に持ったダウジングロッドを横に振りながら答えた。
「どうやらアステリオスは、どうしても私たちをここから出したくないようだね」
「ああ、私たちが決して出口に辿り着けないように迷路を変化させたみたいだ。それならば、今、私たちを追いかけてきているダンジョンマスターのこいつを倒すしかない」
「こいつはこのダンジョンの管理者のようなものだからね。だが、足止めだけならそう難しくはないが、倒すとなると厄介だよ」
いつも冷静なステラが珍しく困惑した表情を見せる。
「アステリオスは不死身らしいからな。だが、どうやってその不死身の身体を維持しているのか、その方法がわかれば、何か対策をとれるかもしれない」
レベッカはアステリオスの動きを警戒しながら、スクネに近づいて話しかける。
「スクネくん、私たちの中で一番強いのは君だ。私とステラで援護するから、君がアステリオスを攻撃してくれ。アステリオスが君の攻撃にどうやって対処するのか、それを調べることでこいつの不死身の仕組みがわかるかもしれない。だから、私たちがこいつを詳しく観察するよ。いいね、ステラ?」
「もちろんだ。スクネくん、頼んだよ」
二人はスクネの背中を軽く叩く。それに応えるように、彼は右手を上にあげた。
「わかりました。やってみます」
(母さんは、自分の再生能力は身体を麻痺させるような毒に弱いって言ってたけど、こいつの対処法は違うかもしれないってことか……)
そして、スクネたちはアステリオスを何度も倒した。
ある時は首を斬り落とし、ある時は心臓を突き刺し、またある時は魔法で具現化した粘着するゴムのような物質でアステリオスの鼻と口を覆って窒息させた。
しかし、どんな手段で倒しても、アステリオスは何事も無かったように復活した。
スクネがアステリオスを細切れにして、レベッカたちがその肉片を炎の魔法で燃やし尽くしても、肉片から立ち上がった黒い煙が集積して、魔物の姿へと変化し、アステリオスは復活したのだ。
「こんな状態からも復活出来るだと? 跡形も無く消し去ったはずなのに!」
「やっぱりこいつが神の化身というのは本当なのかな?」
「いや、私たちはとんだ勘違いをしていたようだ。アステリオスがダンジョンを管理しているんじゃない。この夢幻迷宮がこいつを操っているんだ。こいつは夢幻迷宮自身が作り出した操り人形のような存在なんだろう。だから、このダンジョンが存在する限り、何度でも復活するんだ」
レベッカは肩をすくめながら二人に話した。
「まさにこの夢幻迷宮は生きているダンジョンというわけだ。それにしても、私たちはこの迷宮にえらく気に入られてしまったようだね。意地でも私たちをここから出す気は無いらしい」
「そうだとしたら、ボクたちは戦うたびに消耗していくから、このままでは勝ち目は無いね。何か打開策を見つけないと」
レベッカはしばらく考え込んだあと、覚悟を決めた顔をして二人に話しかけた。
「──考え方を変えよう。出口が無ければ作ればいい」
「無理矢理出口を作るんですか?」
予想外の発言に、スクネは驚いていて思わず聞き返した。
「ああ、コンパスがあるから、出口のある方向はわかる。魔法で壁を破壊してそこまで強行突破しよう。冒険者としては、ダンジョンを傷つけるようなやり方は本当はやりたくはないが、緊急事態だから仕方がない。それに、先に出口を隠したのはこの夢幻迷宮の方だからな。壊されても文句は言えないはずだ。まあ、ダンジョン自身で形を変えることが出来るなら、自分で修復することも出来るだろうからね」
(……遺跡が大好きなアロウラが聞いたらカンカンに怒りそうだなあ)
「夢幻迷宮はアステリオスを使って必死に妨害してくるはずだ。スクネくん、足止めを頼んでもいいかい? その間に私とステラで壁を壊して脱出路を作るよ」
「任せてください!」
スクネは時間を稼ぐために、アステリオスの前に立ちはだかる。
「ウオオオオォォォッ!」
アステリオスは雄叫びをあげると、雷の魔法で激しくスクネを攻撃する。
しかし、スクネは魔法を吸収出来る剣をかざして、この魔法を全て吸収した。
(足を集中攻撃してダメージを与えれば、動きが鈍って時間を稼げるはずだ)
スクネはアステリオスの動きを止めるために、魔物の足に連続して斬撃を放つ。足を攻撃されたアステリオスは、堪えきれずに膝をついた。
その間にレベッカとステラは魔法でダンジョンの壁を吹き飛ばしている。
魔法で壁が吹き飛ぶたびに、まるでダンジョンが悲鳴をあげているように、地面が激しく揺れた。
「よし、出口が見えた。スクネくん来てくれ! 一気に走って脱出するよ!」




