夢幻迷宮の迷路を攻略せよ
最後の素材はローラシア大陸の辺境にある伝説のダンジョンである夢幻迷宮の中にある。
このダンジョンの内部は地下へと続いていく巨大な迷路となっている。これまでに多くの冒険者がこのダンジョンに挑戦したが、迷宮の最深部に到達できた冒険者は、レベッカを含めて数えるほどしか存在しない。
レベッカたちは夢幻迷宮の入口についた。彼女は自身の装備を丁寧に確認すると、スクネの装備を確認しながら彼に話しかける。
「スクネくん、この夢幻迷宮はとにかく広くて最深部までの道のりが長い。そして多くの冒険者がここで命を落としている。覚悟はいいかい?」
「もちろんです」
「リストにある聖晶石は、ここではない他の場所でも手に入れることは可能だ。だけど、どうせならこの夢幻迷宮の最深部まで進んで入手したい。このダンジョンで手に入るものの方が品質が良いし、何よりこれは私たちの最後の冒険だからね」
「わかりました。お願いします」
ひと通り装備を確認してもらったスクネはレベッカに頭を下げる。その時、彼の目の前から女性の声が聞こえてくる。
「ふふ、最後の冒険の舞台が、君と初めて出会ったこの夢幻迷宮とはね。ああそうだ、スクネくんにもボクの姿を見せてあげよう。君には幻影の森で助けてもらったからね」
ステラは姿を消す魔法を解いて、スクネの前にその姿を現した。
「あなたは?」
「やあ、スクネくん。ボクはレベッカのファンのステラだ。ファンとして彼女の『追っかけ』をしているんだ。まあ、ボクはただレベッカについていくだけだから、君はボクのことは気にせずに冒険してくれていいよ」
ステラはスクネににっこりと微笑んだ。
「……というわけで、スクネくん、今回は私のファンのステラが同行するけど、いいかな?」
「もちろんです、ステラさん。こちらこそ、幻影の森ではお世話になりました。よろしくお願いします」
「よし、それじゃあ二人とも、よろしく頼むよ」
夢幻迷宮に入りながら、レベッカはスクネにこのダンジョンの説明をしていた。
「夢幻迷宮の厄介なところは、まるで生きているみたいにダンジョン全体が少しずつ変化しているところなんだ。だから、私が以前攻略した時とは、まるで別物のダンジョンになっているはずだよ」
このダンジョンの内部は、巨大な迷路となっている。永遠に続くような広さの迷路は、時空が捻じ曲がっているかの如く、まるで時間がゆっくりと流れているように冒険者を錯覚させた。
永遠に近い時間、このダンジョンを探索しているような感覚を冒険者にあたえるのだ。
「このダンジョンで必要なのは忍耐だ。根気よく探索する必要があるからね。マーキングしながら、しらみつぶしに探索していく必要がある」
そういうと、レベッカは左の壁に魔法で白いラインをマーキングしていった。
「これは左手法といってね。左の壁に手をつけながら進んでいくと、必ず出口に辿り着くという迷路の攻略法なんだ。だけど、今回はこいつも試してみたくてね」
レベッカはカバンからL字型のダウジングロッドを取り出す。
「このダウジングロッドを使って、正解のルートを導き出してみようと思うんだ。左手法だけだと、出口に到達するまでに時間がかかりすぎてしまうからね」
気が遠くなりそうなほど広い迷宮だったが、レベッカのダウジングロッドが正解のルートを導き出したおかげで、スクネたちは順調に迷宮内の迷路を進んでいく。
道中、彼らは強力なモンスターや複雑な罠に遭遇した。
しかし、経験豊富なレベッカの的確な助言によって、スクネたちはそれらを乗り越えて、ダンジョンの奥へと進むことができた。
そして、スクネたちは夢幻迷宮の最深部にたどり着くことができた。
しかし、このダンジョン最深部には聖晶石を守護する強力なボスが待ち構えていた。
このボスモンスターはアステリオスという、牛の頭を持ったダンジョンマスターである。アステリオスは星の名を持つ古代の神の化身と言われており、その力は絶大であった。
スクネたちは最後の試練として、この迷宮の守護者に立ち向かわなくてはならなかった。
スクネは剣で攻撃するためにアステリオスに近づこうとしたが、レベッカに手で静止させられた。
「アステリオスは雷の神の化身と言われている。彼は不死身で、私たち人間ではとても倒すことはできない存在らしい。だから、この化物とまともに戦うという選択肢はあまりよくないんだ」
「では、どうすれば?」
「今回、私はマグナス様に作ってもらった囮の人形を持っているんだ。こいつを使おう」
レベッカはカバンから小さな少女の姿をした人形を取り出して、スクネに見せる。
「囮ですか?」
「そう。これは魔力で遠隔操作できる人形型の魔道具でね。こいつを囮として使う。そして、この空間の外まであいつを誘導させるんだ」
レベッカの魔力で起動した囮の人形はレベッカに一礼すると、アステリオスへと向かっていき、彼の周りをぐるぐると周って挑発し始める。
アステリオスは人形の動きにつられて、ダンジョン最奥部の空間から通路の方へと移動しはじめた。
「よし、アステリオスがうまく囮に反応している。でも、長くは持たないだろうから、あいつが戻ってくる前に素早く聖晶石を回収しよう」
しかし、レベッカの予想に反して、アステリオスは雷の魔法を使い、囮の人形をすぐに破壊してしまった。
「ちっ、思ったより早く壊されたか。それでは、アステリオスは私が引きつけるよ。スクネくんは聖晶石の回収を頼む」
「わかりました。出来るだけ早く回収します!」
「ボクも手伝うよレベッカ。君と一緒に戦うのは楽しそうだ」
「ありがとうステラ。とりあえずスクネくんの回収を終えるまで、こいつをここにはりつけておこう」
「ふふ、ボクに任せてくれ」
レベッカとステラがアステリオスの前に飛び出した。
二人を見つけたアステリオスは咆哮を上げて襲いかかってくる。
レベッカたちは素早く後ろに下がってアステリオスの攻撃をかわすと、連携してアステリオスに魔法で攻撃を加え続ける。二人は常にアステリオスの周囲を動き続けて、アステリオスに攻撃の的を絞らせない。
「私の動きに完璧に合わせて動いてくれる。さすが私のファンなだけあるね、ステラ」
「ふふ、君の動きは手に取るようにわかるのさ。ずっと見ていたからね」
「レベッカさん、ステラさん、聖晶石の回収が終わりましたよ!」
回収を終えたスクネが二人に叫んだ。その声を聞いたレベッカたちはアステリオスへの攻撃を止めて、敵から一気に離れる。
「よし。スクネくん、そのまま私たちの方に来てくれ。もう一つの迷路の攻略方法を試してみよう。このままアステリオスに私たちを追いかけさせるんだ」
「何か理由があるんですね?」
「ああ、アステリオスは、聖晶石を持っている私たちをいつまでも追いかけてくる。その時に、出口とは反対側の方向に私たちを追い込もうとするんだ。こいつはこのダンジョンから私たちを逃したくないからね」
「ということは、アステリオスが僕たちを追い込もうとするルートを避け続ければ、いずれ出口に繋がるというわけですね」
「そのとおり。攻撃を避けながら、うまくあいつを利用して出口を目指すよ。戦うふりをして、あいつに出口まで案内させるんだ」
レベッカたちは、アステリオスを牽制しながら彼に自分たちを追いかけさせることにした。




