ルーシーを守りきれ!
ステラは、突如現れた人型の魔物と対峙していた。
エリックはすでに完全に魔物化していて、顔以外に人間だった頃の面影は無くなっている。
(クソッ! 身体が麻痺して動かないだと?)
「魔族といえど、動けなければただのゴミだな。そこで、大人しくしていろ!」
エリックは動けないステラを突き飛ばした。
(奴と視線があった瞬間に身体が動かなくなった。まるでヘビに睨まれたカエルだね。すぐに解除するのは難しそうだ……)
飛ばされたステラは立ち上がれずに、そのまま倒れ込んでしまう。
◇◇◇
エリックはルーシーを見つけると雄叫びをあげた。
「見つけたぞ、ルゥゥゥシィィィィ!」
「いやあああああ!」
エリックの面影のある顔をした魔物を見たルーシーは恐怖で動けなくなってしまう。
「そうか、こいつがルーシーの……しかし、魔物化してまで追いかけてくるとは、なんて執念だ!」
「こいつの相手は僕がします。レベッカさんはルーシーたちを連れて逃げてください!」
「私にも戦わせて。ルーシーを酷い目に合わせたこいつだけは許せない、許せないの! こいつだけは、私の手で!」
「サンディ、気持ちはわかるが、あいつはヤバいよ。下手したら、全員やられてしまうぐらいにね。とにかく、君はルーシーを守ることに専念するんだ、いいね? スクネくん、無理はするな。なんとか時間を稼いでくれればいい。さあサンディ、ルーシーを連れてこの森から離脱するよ!」
「せっかく会えたのに、逃がすかよ!」
エリックの瞳が怪しく光ると、レベッカたちは身体が麻痺して動けなくなった。
「何これ、身体が痺れて、動けない!」
「しまった! 身体を麻痺させられたか!」
動けないレベッカたちはその場で立ちすくんでいる。
「こんなものがなんだっ!」
スクネは気合でエリックの術を跳ね除けた。
「ほう、このガキ、俺の術を跳ね除けたか。実力が高い相手にはこうした術は効かないと聞いたことがあるが……見た目によらず、お前は強いってことかな」
「お前はルーシーさんを傷つけた。ルーシーさんに謝れ! そして二度と近づかないと言え!」
スクネはエリックを睨みつけながら剣を構える。
「ふん。まだ女を知らねえガキが、知ったような口をきくんじゃねえ! 二度とそんな生意気な口をきけねえようにしてやるよ!」
エリックの全身から漆黒のオーラが溢れ出る。
そして、彼はそのオーラから黒い刃を作り出して、スクネに激しく斬りつけてきた。
スクネは自身の剣にオーラを込めて、斬撃を受け止める。
「こいつ、ガキのくせにやるじゃねえか。だが、これならどうだ!」
エリックはもう一つ刃を作り出して、二刀流となった。
二つの刃がスクネを襲う。
しかし、スクネは冷静に刃を受け流すと、エリックに自身のオーラを乗せた斬撃を放った。
「ぐぅっ!」
エリックは近距離で斬撃を身体に受けて、そのまま弾き飛ばされた。
「はぁ、はぁ……。驚いたぜ。お前みたいなガキがいるとはな。最強になったはずの俺が……押されているとは……」
エリックはかなりのダメージを受けているのか、なかなか起き上がれずによろけている。しかし、彼は何故か不適に笑っていた。
「だがな。勝利に必要なのは力だけじゃないんだぜ」
エリックは自身のオーラを無数のナイフの形に変化させて、レベッカたちの方へと飛ばす。
「させるか!」
スクネは剣でナイフを受け流しつつ、レベッカたちを庇った。
「おい、よそ見している暇はねえぞ!」
その隙を逃さなかったエリックは、自身の尻尾でスクネに不意打ちする。
スクネは咄嗟に反応したが、攻撃を避けきれず腕にダメージを受けた。
「くっ!」
攻撃を受けたスクネの腕から、血が流れ出す。
「そいつらを庇いつつ、致命傷を避けるとは、さすがだねえ。だが、かすり傷でも負ったら俺の勝ちは確定なんだよ!」
エリックは尻尾をスクネに見せつけながら、勝ち誇った表情をしていた。
「はははははぁ! 尻尾には俺が体内で生成した特別な毒を仕込んでおいたんだよ。俺の毒をじっくり味わうんだなああ!」
エリックに寄生した古代種は、体内でさまざまな毒を生成ことが出来る能力を持っていたのだ。
スクネは、エリックから受けた毒が徐々に全身に回ってきて、動きが鈍くなってきている。
「お前がいくら強くても、毒に耐性が無ければ、いずれ動けなくなる。故に、俺の勝ちは揺るがない。はっはっはあ! 最高の気分だぜ! やはり、俺は最高に幸運だああ!」
毒が効いてきたスクネは、エリックの攻撃を回避するのに精一杯となってしまう。
「身体が思うように動かない。このままではルーシーさんを、みんなを守れない。どうすれば……」
ついにスクネは片膝を地面についてしまう。
「ようやく毒が全身に回ってきたようだなあ! これで、終わりだああ!」
エリックはスクネに刃を突き立てようとした。
しかし、次の瞬間、エリックは閃光魔法で吹き飛ばされていた。
そして、懐かしい声が聞こえてきた。
「立ちなさい、スクネ。あなたがそんな奴に負けるはずがないわ」
アンナの声だ。




