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迷いを捨てた御曹司さま

「レベッカたちは現在幻影の森に向かっている。頼んだぞ、メラネウス」


 幻影の森はアレスタニアの西部にある。この森は常に霧に包まれていて、この霧には幻覚を引き起こす作用があるため、森へ入った者はさまざまな幻影を見るという。

 そのため、一度森の中へ入ると二度と出られないとまで言われていた。


 レベッカたちは、幻影の森にのみ生えると言われている「幻花」と呼ばれる花の蜜を探していた。


 幻花の蜜は、高級な魔法薬やハイポーションの調合に用いられる貴重な素材である。

 しかし、探索者に幻覚や幻影が襲いかかるため、幻花の蜜を手に入れることは容易ではなかった。


(幻影の森であれば、ルーシーという女が姿を消したところで、誰も疑問に思わない。森で幻覚に惑わされて行方不明になったことに出来るからな。人を攫うには最高の場所だ)


 エリックと別れたメラネウスはほくそ笑んでいた。


「まさか、幻影の森にいるとは思わなかったよ。ははは、ようやく私にも運が巡ってきたようだな」


◇◇◇


 メラネウスたちは幻影の森の入口で打ち合わせをしている。


「幻影の森の幻覚は霧によるものだ。風の魔法を身体に纏って霧を吹き飛ばしながら移動すれば、影響は受けないはずだ」


 そういうと、メラネウスは同行している魔族たちに風の魔法をかけた。


「これで大丈夫だ。では、先に進むとしよう」


 しばらく森を探索してから、占いに長けた魔族の一人が、ダウジングのようなおまじないを行って、レベッカたちの居場所を探し当てた。


「メラネウス様、レベッカたちはこの先にいるようです」


「よし、まず私がレベッカの注意を引く。その間に、気配を消した君たちが、ルーシーを捕縛して、連行するんだ。いいね?」


 しかし、不用意にレベッカに近づいたことで、メラネウスたちは彼女を見守っていたステラに見つかってしまう。


「何をしているのかな、君たちは?」


「お前は、ステラ!? どうしてここにいる?」


 メラネウスは同族のステラがレベッカたちと一緒にいたことに驚きを隠せない。


「おや、見たことある顔がいるね。メラネウスか。どうやら、レベッカの冒険を邪魔しに来たようだね。でも、今君たちにそんなことをされたら、ボクが彼女との約束を破ったと勘違いされてしまうだろう? そうなったら、ボクはお前たちを許さないよ」


 ステラはメラネウスたちを睨みつけた。


(ステラは我々魔族の中でも上位の存在だ。我々下層の魔族が束になっても敵うわけがない)


メラネウスは自分の不運を嘆いた。


(くっ、せっかく運が巡ってきたと思ったのに──。ここは大人しく従うしか──)


◇◇◇


「なるほど、あの水色の髪の子を攫えと依頼されたわけか。メラネウス、今すぐボクの前にその依頼主を連れてこい。レベッカの冒険の邪魔をしようとしたそいつに罰を与えてやる。連れてこなければ、代わりにお前の仲間に罰を与えるよ」


「わかりました。すぐに依頼主を連れてきますので、どうか仲間には手を出さないでいただけますか?」


 メラネウスは狼狽しながら、エリックのもとへと戻っていった。


◇◇◇


「それでおめおめと帰ってきたわけか。情けないやつだな君は……」


 エリックは呆れた顔をしてメラネウスを見つめている。


「事の重大さに気づいていないようだな、エリック。私と君はよほど運が悪かったようだ。彼女は魔族の中でも上位の存在だ。君は、決して怒らせてはいけない人物を怒らせてしまったぞ。そのせいで、今すぐ君を彼女のもとへ連れていかないと、私の同胞が大変な目にあってしまうんだ。悪いが、私と一緒に来てもらうぞ」


「ははははは」


 突然、エリックがメラネウスを嘲笑するように笑い出した。


「何がおかしい!」


「メラネウス、君は一つ思い違いをしているよ。運命とは、他人に強制されるものではない。自分自身で切り開くものだ。そして、迷いを断ち切る強い意志が、幸運を呼び寄せる。俺は今、迷いを完全に捨てた。この意味がわかるか?」


(こいつ、ついに気が触れたのか?)


「──私には、君が何を言いたいのかさっぱりわからないが?」


「何も持たないお前と俺は違うってことだ! 俺にはあるんだよ。この事態を突破できる最高の切り札がな! そして、覚悟を決めた今の俺はお前と違って、最高に幸運で最強ってことだ!」


 エリックは、メラネウスが自分を裏切って捕えようとしたことで、覚悟を決めた。

 そして、カバンから魔物のミイラを取り出し、自分の身体に押し付け始めた。


「これはエリオダス遺跡で発見された古代の魔物のミイラだ。古代種と呼ばれている伝説の魔物のな。不思議なことに、この状態でもまだかすかに生体反応があるんだ。感謝するよ、メラネウス。お前のおかげで迷いを断ち切れた。そしてルーシー、君を手に入れるためなら、俺は人間だってやめてやるよ!」


 ミイラだった魔物は息を吹き返したかのように動き出し、すぐにエリックの身体を乗っ取っていった。

 

 そして、エリックは完全に魔物と化した。


「魔物を自分の身体に寄生させるとは! すでにトチ狂っていたか!」


 命の危険を感じたメラネウスはすぐにその場を立ち去った。


「メラネウスめ、逃げ足の早い奴だ。まあいい。ルーシーを連れ戻せばいいだけのことだ。お前のことなど、もうどうでもいい。ふふ、全身から力が溢れてくる。これなら、誰がいようと関係ない。俺の邪魔をする奴は全員ぶっ潰してやるよ!」


 こうして、伝説の魔物と一体化して人間を捨てたエリックは、ルーシーを奪還するために、幻影の森へと向かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エリックのトチ狂いぶりが振り切っていて素晴らしかったです。そんなものをお持ちだったのですね。ステラに手下を脅されて終わりかと思っていたので、見事な逆転への布石でした。あとはミイラがどれほど…
[良い点] 伝説の魔物ミイラぁっ!! やべぇ、マジで人間やめちゃいましたやんエリックさん!!(゜ロ゜) お顔が恐ろしい。そしておっしゃることも恐ろしい。 ルーシー、ほんとにやべぇお人のところにいたので…
[良い点] ついにエリックが人間を捨てたとは……これはもう、戦うしか方法はないですね。 果たしてどうなるのか……
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