二人の過去と冒険する理由と愛
ルーシーはグッタリとして、熱中症のような状態になっていた。レベッカたちはダンジョンを脱出した後に、すぐに水を飲ませてから回復魔法をかけて、彼女をしばらく休ませることにした。
ルーシーが回復するのを待っている間も、まだレベッカは胸騒ぎがしていた。
「ダンジョンを離れてもまだ嫌な予感がしているんだ。早めにギルドへ戻ろうか」
少し経つとルーシーが歩ける程度まで回復したので、四人はすぐにギルドへと向かうことにした。
レベッカたちがレスピオ火山を出発してから三時間後に、大地が大きく揺れて、火山が噴火した。
◇◇◇
火山から十分離れた場所まで来たので、四人は簡易テントを張って休息をとることにした。
「まさか、レスピオ火山が噴火するとは思わなかったわ」
「あのまま残っていたら、大変なことになっていましたね」
スクネたちはあのまま火山に残っていた時のことを考えて、顔が青ざめている。
「みんなは虫の知らせって聞いたことあるかな? 悪いことが起きる前に、嫌な感覚を感じることなんだけど、今回はそれに従って正解だったよ。冒険者には危険を察知することが重要だから、こういう感覚を感じたら、素直に従った方がいいんだ」
「確かに、悪いことが起きる予兆というか、そういう感覚を感じる時はありますね」
スクネが納得したという表情でレベッカにうなづく。
「もう一度言うけど、危険を察知する能力は冒険者にとって、もっとも重要なんだ。三人もよく覚えておいてくれ。スクネくんには話したけど、私は昔、事故で身体が動かなくなったことがあってね。それからは特に気をつけるようにしているんだ」
「わかりました。レベッカ様、私たちも気をつけるようにします」
「ここも、火山灰が降ってくるかもしれないから、念のため顔を布で覆っておこう。火山灰は吸い込むと身体に有害なんだ」
レベッカは三人に顔を覆うための布を渡すと、テントの外に出て空の様子を確認する。
「まだ火山灰は飛んできていないようだが、時間の問題だな。ここも早く移動した方が良さそうだ」
レベッカが中に戻ると、サンディとルーシーがかしこまっていた。
「私たち、今回はたくさん迷惑をかけてしまって、すいませんでした」
二人はレベッカに深々と頭を下げた。
「気にしなくていいよ。私は君たちが大丈夫なら次も一緒に冒険したいと思ってるんだけど、スクネくんはどうかな?」
「僕も同じ気持ちです。お二人には助けられていますし」
スクネとレベッカは二人に微笑みながら応えた。
「本当ですか? 私たちも同行したいです。よろしくお願いします」
「あ、私たちのこと、まだ詳しく話してなかったですよね? よかったら聞いてくれますか?」
サンディたちは自分たちの境遇を二人に話し始めた。
サンディはローラシア大陸中央にあるアレスタニアの上流貴族の娘だった。
しかし、好奇心旺盛な彼女は日々の退屈な暮らしに嫌気がさして、家を飛び出した。
そして、いつのまにか彼女は冒険者になっていた。彼女は基本的な魔法を習っていたので、なんとか冒険者として生活していくことが出来たのだ。
ルーシーはアレスタニアの隣国リーベルからアレスタニアに連れてこられた奴隷だった。ルーシーは元々の身分が高く、顔立ちが良かったため、通常の奴隷よりも高値で売られていた。
彼女を買ったのはアレスタニアの中流貴族で、一人息子へのプレゼントだった。
そして、ルーシーは主人となった貴族の息子から夜の相手をさせられていた。この息子は徐々にルーシーを人間として扱わなくなっていき、ここではとても言えないような酷いことをするようになった。
それに耐えられなくなったルーシーは主人のもとから逃げ出したのだ。
その時にサンディと出会い、仲良くなった。
サンディはこの息子に雇われた追手たちからルーシーを助けてくれた。
そして、サンディはルーシーを守るために、共に行動することに決めた。
「一応ルーシーを買ったやつよりうちの親の方が爵位は上だからね。だから、私が一緒にいれば、やつらは表立っては手を出せないの」
それ以来、サンディとルーシーは共に冒険を続けている。冒険中にサンディはルーシーに基本的な魔法を全て教えていた。
「でも、ルーシーの方が魔法の才能があったみたいで、私よりも上手に魔法を使えるの」
サンディは自然にルーシーの手を取った。
「それで、二人で何をしようかと考えた時に、この世界の色々なことをもっと知りたいなって思ったの。だから、私たちは二人で冒険するようになったのよ」
ルーシーはサンディの顔を見つめている。
「私ね、家にいた時には、ほとんど自由がなかったの。だから冒険者になるまでは、この世界のことを全然知らなかった。だから今、冒険者としていろんな場所にいって、自分の知らなかったことを知ることが出来るのが最高に楽しいの。それに、ルーシーとずっと一緒にいられるしね」
サンディはずっと真剣な表情で話していた。
「私もね、サンディと冒険していると楽しいし、サンディは私を助けてくれたから、今度は私が助けてあげようって決めたの。だから、私も冒険者になったんだよ」
ルーシーはそう話すと、サンディの手を握りしめた。
(やっぱり二人とも、ちゃんと冒険をする理由があるんだ。でもそれ以上に、お互いのことを好きになってるから、ずっと二人で一緒に冒険しているんだろうな)
「それで、次はどこに行く予定なんですか?」
「次はノートルバムにある氷晶の谷に行って、精霊の涙という素材を手に入れようと思ってるんだ。暑いのはもうこりごりだからね」
「ノートルバムですか。ここからだと結構距離がありますね」
「そうだね。さすがに徒歩で行くには時間がかかりすぎるから、今回は近くまで列車に乗っていこうか」
ローラシア大陸には、東西と南北に大陸横断鉄道が走っている。
蒸気機関で動く列車が毎日大陸間を往復しているのだ。
「ベルグムンドにはちょうど大陸横断鉄道の駅があるからね。そこから乗っていこう。ノートルバムまでは丸一日かかるけどね」
四人の次の目的地であるノートルバムはローラシア大陸の一番北側に位置する国で、ベルグムンドから向かうには、大陸横断鉄道でひたすら北に進む必要があった。
「その前にギルドに寄っていこうか。ギルド長のブライアンに頼んで、大陸横断鉄道のフリーパスを取得してもらうよ。高ランク冒険者はギルドに移動の費用を立て替えてもらえるんだ。同行者の分もね」
「大陸横断鉄道は料金が結構高いから、それは助かるわね」
こうして、レベッカたちは、精霊の涙と呼ばれる貴重な魔道具の素材を求めて、ローラシア大陸最北端にある氷晶の谷に向かった。




