レベッカと魔道獣
古代竜になんとか勝利した四人はダンジョンから風の魔鉱石の塊を持ち帰り、冒険者ギルドに実績を登録した。
その後、レベッカはベルグムンドの冒険者ギルド長のブライアンに今回の経緯を報告していた。
「まさか、風の遺跡に古代竜が出てくるとは──早急に調査して、場合によってはダンジョンの適正ランクの見直しが必要になるな」
ブライアンはレベッカの話を聞きながら、ボサボサの髪をかきあげている。
「いや、私はあの古代竜はダンジョン固有のモンスターではないと思っている。あいつは私たちと戦う前に、ダンジョンマスターを襲って倒していたからね。ダンジョン内で発生したモンスターなら、ダンジョンの主であるダンジョンマスターを襲うことはしないだろう? だから、何者かが故意に古代竜を召喚した可能性があるよ」
「確かに、ダンジョン内で生まれたモンスターが主であるダンジョンマスターを襲うとは考えられないな」
「それに、ダンジョンの中に、私たちを監視しているあやしい人物がいたんだ。その人物は、私たちを試しているようだったよ。もしくは、私への嫌がらせかもしれないね」
「君ぐらいの有名人になると、ファンばかりじゃなくて、残念ながらアンチもいるだろうからな」
ブライアンはレベッカを見つめながら苦笑いをしている。
「まあ、私が狙いなら、また私に何かしらのアクションを起こしてくるだろうからね。次は逃さないよ」
「古代竜を召喚出来るとなると、かなりの手練れだ。こんなことを君に言うのもなんだけど、気をつけてくれよ」
「ああ、わかってるよブライアン。心配してくれてありがとう」
レベッカはブライアンに手で返事をした。
「君一人なら何とかなると思うが、今は連れの子がいるみたいだしなあ──」
「それでも、何とかするんだ。私は、赤い流れ星のレベッカだからな。ところで、次は焔岩ほむらいわ鉱山に行くつもりなんだ。入山許可証を発行してくれるかな?」
「焔岩鉱山か。また高難度のダンジョンに行くんだねえ。まあ、君にはどうってことないだろうけど。わかった。準備しておくよ」
ギルド長との話が終わったレベッカが部屋を出ると、ギルドの受付でスクネとエレナが待っていた。
「えへへ、レベッカさん。今日はよろしくお願いしますよお。私、待ってますからねえ」
エレナは眼をギラギラさせながらレベッカに話しかけた。
レベッカはエレナに手で「了解」のジェスチャーを送って返答した。
「エレナさん、本気ですけど、大丈夫なんですか?」
「ふふ、とりあえず彼女にはすぐに睡眠魔法で眠ってもらうことにするよ。後は朝まで一緒に添い寝でもして誤魔化しておくことにする。私はお腹の中に魔道獣がいるから、彼女が期待しているようなことは出来ないんだ」
「──なるほど」
「そうだ。君にはまだ私のことを詳しく話してなかったね。場所を変えて、少しお話しようか」
◇◇◇
二人は街の宿屋へと移動した。
部屋に着くと、レベッカはスクネに自分の過去を話し始めた。
「私は以前、ダンジョンの攻略中に高い場所から転落してしまったことがあってね。その時の怪我で身体が動かなくなってしまったんだ」
「そんなことがあったんですか。首か背中を打ったんですか?」
「ああ。打ち所が悪くてね。首をやってしまったんだ。それで、しばらく私は失意に落ちていた。もう冒険が出来なくなったという絶望感に打ちひしがれていたよ」
レベッカは顔を下に向けて視線を落とした。
「でも、そんな時に私の噂を聞いていたマグナス様がやってきて、『私が開発した魔道獣を使えば君の身体をまた動くように出来るかもしれない』と提案してくれたんだ。マグナス様からは、『まだ実験段階だから成功は保証出来ない。君がそれでもいいならば』と言われた。私には願ってもないチャンスだったから、その場でお願いしたよ」
「レベッカさんはマグナスさんの提案を受け入れたんですね」
「そうなんだ。マグナス様が私に与えてくれた魔道獣は、治療用にカスタマイズされていて、私の途切れた神経を完璧に修復してくれた。そして、私はまた自由に身体を動かせるようになったんだ。だから、私はマグナス様に感謝していて、今もマグナス様の下で働いて恩返しをしているってわけさ」
「なるほど。それでレベッカさんはいつもマグナスさんと一緒にいたんですね」
「まあね。でも、魔道獣の影響で、私の身体は少しずつ魔物化してきてしまっているんだ。ご覧の通り、尻尾まで生えてきてしまったからね」
話しながらレベッカは、自身のお尻から生えている尻尾を上下に動かしてみせた。
「実は私と一緒にいたジェシカも、難病にかかっていたところを同じようにマグナス様に助けられたんだ」
「そうだったんですね」
(レベッカさんもジェシカさんも僕の母さんと同じで、大変な過去を抱えていたんだ。そんな感じには全然見えなかったから、わからなかったけど──)
「話は変わるけど、ギルドにいた時にサンディとルーシーがお礼を言いにきたんだ。そして、二人は次の冒険にも同行したい言ってきたんだが、どうする? よかったら、君が決めてくれないか?」
「僕は一緒に行っても構わないです。今回、僕は彼女たちに助けられましたから」
「よし。それじゃ、彼女たちにも同行してもらおう。それじゃあ、ギルドから二人に連絡してもらうよ」
「そうですね。是非お願いします」
「ところで、スクネくんの話すローラシア共通言語はとても聞き取りやすいね。君はローゼンブルグの出身だろう?どこで習ったんだい?」
「僕のいた村の魔法学校でローラシア共通言語を教わったんです。魔法学校では、僕たちが国外で活動することも想定していたようで、色々な国の言語を教えていました。それで僕も日常会話ぐらいなら話せるようになったんです」
「なるほど。君はきちんと言語を習っていたんだね。どうりで話すのが上手いわけだ。とりあえず、食事をしたら、エレナに会ってくるよ。明日の朝には戻ってくるつもりだ」
「わかりました。気をつけて」
レベッカはスクネに右手をあげて返答した。
◇◇◇
エリシャたちを監視していたジェシカはすでにアロウラに見つかっていて、エリシャたちと一緒にお茶を飲んでいた。
「ふーん、あなたとレベッカはマグナスに助けられたから、彼に従ってるってわけね?」
「そうよ。私とレベッカはマグナス様に命を助けられたの」
ジェシカはローラシア大陸の南部にある大国ブラウハントの国家認定第一級魔法使いとして活動していたが、全身が徐々に動かせなくなる難病に冒されていた。
そこにマグナスが現れて、レベッカと同じように治療用の魔道獣で治してくれたのだ。
「私たちはマグナス様に恩義を感じているの。だからマグナス様に仕えているのよ」




