赤い流れ星のレベッカ
二人は冒険者の女性で、オレンジ色の髪の女性がサンディ、水色の髪の女性がルーシーと名乗った。
「私たち、ギルドであなたを見かけたから、気になってついてきたんです。レベッカ様みたいなトップランクの冒険者に会う機会なんて、なかなか無いですから」
レベッカの噂を聞いていたサンディたちは、ギルドからずっと二人を追いかけてきていたのだ。
「レベッカさんはそんなに有名なんですか?」
「あなた、レベッカ様と一緒にいて、そんなことも知らないの? まあいいわ、教えてあげる。レベッカ様はこの国では数人しかいない、ローラシア大陸にある七つのS級ダンジョンを全て攻略した冒険者なの。しかもこれら全てのダンジョンで最年少攻略記録を持っているのよ。この国の冒険者で、知らない人はいないわ」
「そうよ。レベッカ様は赤い流れ星と呼ばれている伝説の冒険者なのよ」
(レベッカさん、そんなにすごい冒険者だったんだ)
サンディとルーシーは赤い流れ星のレベッカを崇拝していて、彼女たちに同行したいと話す。
「まあ、他の冒険者と一緒に探索するのもスクネくんの勉強になるからね。それでいいかな、スクネくん?」
「もちろんです。よろしくね、サンディさん、ルーシーさん」
「こちらこそ。伝説のレベッカ様の冒険スキル、全てこの目に焼き付けて学ばさせてもらいます」
「ふふ、私はそんな大した冒険者じゃないよ。みんな私を過大評価しているだけさ」
レベッカは照れているような仕草を見せているが、実はその間もずっと周囲を警戒していた。
(この二人はなんてことはない普通の冒険者だ。だが、さっき私の感知からうまく逃れた奴はヤバい。あいつはおそらく私と同等か、それ以上に強い。であれば、この二人をこのままここに置いていくのは危険だからな)
実はレベッカはあの時、この二人の他にもう一人の人間を感知していた。
しかし、その人物はレベッカの感知に引っかかった瞬間に、すぐに感知から外れて姿を消していたのだ。
とりあえず、レベッカたちは四人でパーティーを組んで一緒に探索することにした。
仲間が増えたので、レベッカはパーティーとしての活動時の簡単な注意点について、説明を始める。
「とりあえず、何か行動する時は必ず声を出そう。マーキングする時も、敵を攻撃する時も、仲間を回復する時もだ。自分が今何をしているのかがはっきりとするし、周りに今自分がしていることが伝わるからね」
「確かに、何かをする時に声を出すと、周りの人も今その人が何をしているのかがわかりますね」
「そうだね。私も余裕がない時は、みんなが今何をしているのか確認することが出来ない場合もあるからね。こうやって、何か行動する前に声を出して周りに知らせてくれると助かるよ」
「わかったわ。きちんとみんなに知らせるね」
サンディとルーシーがうなづく。
「次に、話を聞く時は、必ず相手の言ったことを復唱して相手に返答するんだ。その時に、少しでも疑問に思ったことはすぐに相手に確認してくれ。そうすることで、相手が伝えたいことと自分が感じたことのズレを修正することが出来て、コミュニケーションミスを防げるんだ」
「復唱ね。これは私もミスを無くすのに有効だと聞いたことがあるわ」
「そう、復唱はとても大事なんだ。これに関しては、スクネくんは私が言ったことをきちんと復唱してくれるから、とても助かっているよ」
「レベッカさんにそう言ってもらえると、うれしいです」
スクネはうれしそうに頭を手でかいている。
「あとは、私が間違っていると感じたら遠慮なく指摘してくれ。常に私が正しい判断をしているとは限らないからな」
「もちろん、言いたいことは言わせてもらうわ。それにしても、的確な説明ねえ。さすが伝説の冒険者様だわ」
サンディたちは感心した表情でレベッカを見つめている。
「最後に、このダンジョンのモンスターは風の属性を持っているから気をつけよう。それは、ここのダンジョンの最奥にいる風の精霊の影響を受けているからだと言われている。だから、ここの魔物たちは風の属性の影響を受けて通常よりも強化されているんだ」
遺跡内には風の属性を持ったモンスターが多数生息しており、並の冒険者では探索が容易ではなかった。
「確かにここのモンスターは手強いわね。正直私たち二人だけではそのうちやられてしまうかもしれないわ。だから気配を消してなるべく戦闘を回避してたんだけど──」
「実は、ここにいるスクネくんは、私よりずっと強いんだ。戦闘では、スクネくんと私で前衛をやろう。サンディとルーシーは後方から私たちのサポートをしてくれ」
「わかったわ。私もルーシーも補助魔法と回復魔法はバッチリ使えるから、まかせてね」
こうして即席のパーティーとなった四人は遺跡内を探索していく。レベッカの的確な指示のおかげで、四人は難なく遺跡の最深部まで到達することができた。
「さて、ダンジョンマスターのお出ましだ」
「ダンジョンマスターですか?」
「ああ、このダンジョンのボスってやつさ。どのダンジョンにも、何故かダンジョンマスターっていうボスモンスターがいてね。この遺跡だと、風の精霊が作り出した風のゴーレムなんだ。こいつを倒さないと風の魔鉱石は入手出来ないよ」
しかし、突然上空から古代竜と呼ばれる漆黒のドラゴンが現れて、正規のダンジョンマスターだった風のゴーレムを倒してしまった。
「古代竜だと!? なんでこんな化物がここにいる?」
「古代竜って確かS級の討伐対象モンスターよね? こんなダンジョンにいていいランクのモンスターじゃないのに!」
実は、あの時レベッカの感知から逃れた人物が、古代竜を召喚していたのだ。
「レベッカ、なんで君はいつもマグナスなんかと一緒にいるんだよ? 許せない。君はいつも赤い流れ星みたいに煌めいて、最高の冒険者じゃなきゃいけないのに。許せない。君は、ボクの気持ちを裏切ったんだ!」
四人を遠巻きに見つめていた人物がレベッカを睨みつけながら叫んだ。
「──でも、また冒険者としてこの国のダンジョンに来てくれたんだね。うれしいよ、レベッカ。でも、君はこんなダンジョンマスターじゃつまらないだろう? だから、ボクが君にふさわしいボスを用意してあげたよ。だけど、ボクが呼び寄せた古代竜ごときにやられるようじゃ、許さない。早くこいつを倒してボクを満足させてくれなきゃ、許さないよ!」




