伝説の冒険者が教えるダンジョン探索の基本手技
二人は検問所を通過して、砂漠の中に作られた道を進み、風の遺跡の近くまで到着した。
しかし、風の遺跡は全体が砂嵐に覆われていて、二人は入口に近づくことが出来なかった。
「この砂嵐をなんとかしないと遺跡の中に入れないんだ。だから、私が防御魔法で一時的にシールドをかける。それで強行突破するよ」
「わかりました。お願いします」
レベッカが防御魔法をかけてくれたおかげで、二人は無傷で砂嵐の中を通過して遺跡内に進入することが出来た。
「よし、遺跡の中に着いた。スクネくんは大丈夫かな?」
「ええ、全然大丈夫です。レベッカさんがシールドを貼ってくれたおかげです。ありがとうございました」
「それはよかった。ところで、君はダンジョンの探索は初めてかな?」
「うーん、少し前に母さんたちと鉱山にあった坑道を探索したくらいですね」
「そうか、じゃあ今回は基本に忠実に探索してみようか。私が簡単に探索のやり方を教えるよ」
レベッカはスクネにダンジョン探索の基本をレクチャーすることにした。
「まずはダンジョンの地図を描こう。紙とペンを使って、今、自分で見渡せる範囲の地図を描くんだ」
レベッカは図版に紙とペンを載せて、スクネに手渡した。
「この紙に地図を描いていけばいいんですね」
「紙の表面に沢山の小さな四角が描いてあるだろ? これは地図を描くための専用の紙なんだ。部屋や通路はその四角を上手く使うとキレイに描けるよ」
レベッカは図版の上の紙に書いてある小さな正方形の四角を指で指して、スクネに説明をしている。
「なるほど、確かにこの四角を使うと簡単に描けそうですね」
「でも、地図を描く前に一つ大切なことがある。必ずコンパスで方角を調べるんだ。方角がわからないと地図が書けないからね。紙に地図を描く時は大体北を上にして描くんだよ」
レベッカはカバンから小さなコンパスを取り出して、スクネに手渡した。
「へえ、地図の方角って北が上って決まっていたんですね。僕、知らなかったですよ」
「そうなんだ。これはどの地図でも同じだから、必ず覚えておいてくれ。地図を見る時に役立つからね」
「わかりました。北が上、ですね」
スクネは周囲を見渡しながら、紙に地図の線を描き込んでいく。
「よし、大体描けたね。それじゃあ、探索しながらこの地図の範囲を拡げていこう。階段とかオブジェみたいな特徴的な目標をみつけたら、それも地図に描き込んでおいてくれ」
「はい。何か気になるものがあれば、書き込むようにします。でも、目標になるものが何も無いような場所もあると思うんですけど、そういう時はどうするんですか?」
「何も目標になるものが無いような場所は、わかりやすい印をつけてマーキングするんだ。私が壁や床に魔法で印をつけるよ。魔法なら簡単に描けるし、消すのも簡単だからね」
話終わると、レベッカはダンジョンの壁に魔法で◯を描く。しばらくすると、白色で描かれた◯が光り出した。
「こうやって魔法で印を描いて光らせておくと見やすいだろう? 探索が終わった部屋には、次に来た時に探索済みだってわかるように、入口に×印と番号をつけていくよ。もちろん地図上にも同じ×と番号を描いておくんだ」
「確かに、地図だけじゃなくて、壁や床に直接印を描くとわかりやすいですね」
「そう、わかりやすくするってことが大事なんだよ。普通の冒険者だと、面倒くさがってここまでやらない人も多いんだけど、私は絶対にやるんだ。探索の効率が良くなるし、取りこぼしが無くなるからね」
「私は魔法で描くけど、大きな白いチョークでマーキングする冒険者もいる。だから、スクネくんがマーキングする時は、このチョークを使ってくれ」
レベッカはスクネに大型の白チョークを手渡した。
「通路には適当な間隔を開けて進行方向の矢印を描いていくよ。迷った時に、一度通ったルートはすぐにわかるようにしたいからね」
「それと、コンパスは常に持っておいてくれ。方角がわからないと、私たちが今どこにいて、どこに向かっているかわからなくなるからね」
「わかりました。常に持っておきますね」
「ふふ、上手に地図を描くじゃないか。要領がいいね、スクネ君。君は冒険者に向いてるよ。私が保証する」
「レベッカさんの説明の仕方が上手なんですよ」
(受付のお姉さんの言っていたことは本当かもしれない。レベッカさんは本物だ。本当にすごい冒険者なんだ)
「ふふ、君が真剣に説明を聞いてくれるから、私はうれしいよ」
レベッカはスクネの顔を見て微笑んだ。
「あとは──」
レベッカは、自分の周囲に魔力を飛ばした。魔法が使えないスクネにも、レベッカの魔力が彼女の身体から溢れ出しているのが見える。
「これは魔法を使えない君には多分出来ないやり方だけど、一応こういうやり方もあるってことを覚えておいてくれ。自分の周りに魔力を飛ばして、周囲の状況を感知するんだ」
「こういう方法があるってことは聞いたことがあります。でも、実際にやっているところを見るのは初めてです」
「それならちょうど良かった。この方法は主に敵を感知する時に使うんだ。後は視界が悪い時にも効果的だよ。目で直接見るのには劣るが、ある程度周囲の状態がわかるからね。だけど、欠点として、敵も感知が出来る場合、こちらの位置が相手にバレてしまうリスクがある。こちらから飛ばした魔力を感知して場所を逆探知されてしまうんだ」
そこまで話終えると、レベッカの顔が険しい表情に変わった。
「気配を消してるけど、そこに二人いるね。出てきな」
レベッカの魔力感知に二人の人物が引っかかったようだ。
「流石レジェンド冒険者のレベッカ様。噂以上だわ」




