死闘の果てに
「これは挨拶代わりだ。くらえ!」
ケイトは上空から光の矢を降らせて三人を攻撃する。そのまま、地上に降り立ち、アンナとアロウラに素早く近づくと、二人を蹴り飛ばした。
「お前たちは邪魔だ、そこで大人しくしていろ!」
蹴り飛ばされたアンナとアロウラの背後に黒い十字架が出現する。そのまま、十字架の周囲を赤い薔薇をつけたイバラが覆い、イバラの蔓が二人の身体を締め上げて拘束した。
アンナとアロウラは十字架に磔にされてしまった。
(このイバラ、ものすごい力で締め付けてくるわ。身体がちぎれてしまいそう)
「アロウラ、大丈夫?」
「なんとかね。全身を魔力で強化して耐えてるわ」
「私が無理矢理拘束を外すから、もう少しだけ我慢して」
女神の姿となったケイトがスクネを睨みつける。
(お前だけは許さない。ヴォルフラムは、私の唯一の肉親だったんだ。それを奪ったお前を殺すまで、私の怒りは収まらない。収まるわけがない!)
「うおおおおお!」
ケイトは全力で叫び声をあげた。
「──ふう。少し落ち着いたわ。ふふ、いいことを思いついた。少し遊んでやるよ」
そう話すと、ケイトはアンナとアロウラの姿を模した人形を大量に造り出す。
「ふふふ、どう? あなたの仲間をたくさん造ってあげたわよ」
「なっ!」
「あなたの大好きなアンナとアロウラを攻撃出来るかしら?」
「バカにするな!」
スクネは怒りに任せて人形を切りつけた。
「何をするのクロウド。痛い。痛いよ。やめて。やめてよ!」
ケイトの造り出した人形がアンナの声で叫び声を上げた。
「ぐっ! こんなことで、こんなことで惑わされるものかあああ!」
スクネは叫びながらアンナの姿をした人形を切りつけ続ける。
「ふぅん。強がるのねえ。でもぉ──」
バァァン。
次の瞬間、人形が爆発した。
「ぐぅっ!」
スクネは爆発に巻き込まれてダメージを受けた。
(思ったより頑丈ねえ。手足とか吹き飛ぶかと思ったんだけど。流石に生体エネルギーの量が多いだけのことはあるか)
「その子たち、手荒に扱うと爆発するわよ。女の子はもっと繊細に扱わないとダメじゃない」
「くっ! 駄目だ! こいつらが近づく前になんとかしないと!」
スクネは剣にオーラを集中させて、斬撃を飛ばす。
斬撃が人形にぶつかると、周囲の人形を巻き込んで、一気に爆発した。スクネも爆発に巻き込まれて、ダメージを受けてしまった。
「あらあら駄目じゃない。あなたの大切なアンナとアロウラが吹き飛んじゃったわよ? あなたって、仲間にこんなひどいことをするのねえ。あはははははぁ!」
スクネはケイトを無言で睨みつける。
「あはは、楽しい。それじゃあ、次はこんなのはどう?」
ケイトは自身をアロウラと同じ姿に変化させた。
「ふふふ、今度は人形じゃないわよ」
ケイトは、アロウラの声までそっくりに再現していた。
「さあて、続きを始めようかしら」
ケイトは服を脱ぎ、裸の姿になった。
「まだ子供のあなたには、大好きなお姉さんの裸の姿は耐えられないでしょう? この姿の私を攻撃できるぅ? あなたにアロウラを傷つけられるかしら?」
裸のアロウラの姿でスクネを執拗に攻撃するケイト。
「生体エネルギーは力の源。身体能力を含めて戦闘に必要な全ての能力が強化される。あなたよりも生体エネルギーの多い私はもう武器すら必要ないわ。このまま殴り殺してあげようか?」
ケイトは拳にオーラを集中させてスクネを殴り続けた。
スクネは防戦一方になってしまう。
(クソッ、頭ではわかっているのに。こいつの攻撃に反応するので精一杯だ)
「裸の姿には惑わされないか。マセたガキだこと!」
次にケイトは聖剣を具現化して、素早くスクネに斬りつける。スクネは斬撃に反応するが、腕を斬りつけられてしまう。
「ぐぅっ!」
「ふふ、ギリギリのところで急所を外して致命傷を回避するねえ。だが、それでいい。お前をすぐに殺してしまっては、私の気持ちが晴れないからな。もうしばらく、楽しませてくれよ」
「スクネ、今助けに行くよ!」
アンナに拘束を解いてもらったアロウラはスクネを助けにいこうとする。
しかし、それをアンナが止めた。
「アンナ、どうして!?」
「アロウラ、多分、スクネは勝てる。もう少し見ていましょう」
「でも──」
「スクネが自分より強い相手と戦うことは良い経験になる。その経験はスクネ自身を大きく成長させるわ。だから、私たちはもう少しだけ、見守っていましよう」
スクネは、ギリギリでケイトの斬撃が自身の急所から外れるように防ぎながら、徐々にケイトの攻撃スピードが落ちてきていることに気づいた。
実は、アンナがケイトに蹴り飛ばされる寸前に、レオニードにもらった魔道具をケイトの身体にこっそり取り付け、ケイトの生体エネルギーを強制的に魔力に変換していた。アロウラが、ブレスレット型の魔道具の形状を改造して、対象の身体に取り付けるタイプのものに改良していたのだ。
アンナはこの魔道具に、完全に気配を消す魔法を応用して、物体を感知されなくなる魔法をかけていたので、ケイトはこの魔道具が取り付けられていたことに気づくことができなかった。
気づかぬうちに体内の生体エネルギーを強制的に魔力に変換させられていたケイトは、生体エネルギーによる身体能力の強化が弱まってきたのだ。
そして、ついにスクネがケイトの斬撃を完全に回避した。
「何故だ。何故かわされた!?」
「バカな、こいつ、急に速くなって──い、いや、私が遅くなっているのか?」
ケイトは突然の出来事に困惑している。
「力が、力が抜けていっている? 何が起きた! ふざけるな! こんなことが、こんなことがあってたまるか!」
「アロウラは、お前なんかよりずっとやさしくて、お前なんかよりずっとキレイなんだ! いくら見た目を似せたって、お前なんかじゃ足元にも及ばないよ!」
冷たい目をしたスクネが、ケイトの胸を剣で貫いた。
「かはぁっ!」
胸を貫かれたケイトは彼女の本来の姿へと戻っていった。
「ヴォルフラム、ごめん。今行くからね──。だが、私だけ行くものか。お前も道連れにしてやる!」
鬼の形相をしたケイトが、スクネを逃がさないように、自身を貫いた剣を両手で握りしめた。
「マズい。スクネ、離れて!」
「キィィィィィィィ!」
ケイトは最後におぞましい金切り声をあげて、スクネに呪いをかけようとする。
間一髪のところで、アンナがスクネを突き飛ばして、スクネを庇う。
しかし、アンナはケイトの呪いを一身に受けてしまった。
「母さん!」
「アンナ、アンナ。大丈夫? しっかりして! 返事をして!」
アンナは遠くを見つめるような目をしたまま、何も答えなかった。




