怒りで覚醒して無双した息子に母さんと呼ばれた件
飛ばされた三人はなんとか受け身を取って立ち上がった。
「二人とも、大丈夫?」
「ええ、なんとかね」
アンナは素早く二人に回復魔法をかけた。
三人はアンナから教えてもらった体内の生体エネルギーをコントロールする技術を使い、生体エネルギーを一時的に体外に集中させることで防御力を高めていたので、深傷を負わずにすんだ。
魔力と生体エネルギーは似て非なるもの。
かなり強引に言えば魔力から魔素を取り除いたものだ。
生体エネルギーとオーラは同一で、ヴォルフラムが全身からオーラが溢れ出ているのは彼の体内の生体エネルギー量が極めて多くなっているからだ。
「まずは、風の魔法で!」
アンナはヴォルフラムの攻撃をかわしながら風の魔法を使うが、ヴォルフラムは何事もなかったかのように暴風の中を飛び回っている。
「どうした? これで終わりかあ?」
ヴォルフラムは不敵な笑みを浮かべている。
「うそでしょ。この強風の中でも余裕なの!?」
「これならどう?」
アロウラは雷の魔法で、ヴォルフラムに雷を直撃させた。
「ぐうううう……」
雷はヴォルフラムにも効果があったようで、一瞬動きが止まった。しかし、彼ははすぐに動き出す。
「こいつ、バケモノなの?」
「今のは痛かった。痛かったぞおおおおお!」
ヴォルフラムはアロウラを睨みつけると、オーラを槍の形に変化させて、彼女に襲いかかった。
「ウオオオオッ!」
「危ない!」
アンナはとっさにアロウラを庇って、ヴォルフラムの攻撃を受け止めた。
「アンナ!」
ヴォルフラムの槍が、アンナの身体を貫通する。
「がはぁっ!」
「かあさぁぁぁぁん!」
スクネは、思わずアンナを母さんと呼んでしまう。
「よくも、母さんを! 絶対に許さない! 許さないぞお前!」
スクネが怒りで覚醒した。
青白いオーラを全身に纏ったスクネが、目にもとまらぬ速さで、ヴォルフラムを攻撃していく。
スクネは、魔素を解毒するたびに、体内の生体エネルギーの量が増加していた。その体内に溜め込んでいた膨大な生体エネルギーを、怒りで解放したのだ。
「なんだ、こいつ。こんなガキに俺が、押されているだと!?」
スクネは体内の生体エネルギーを全て解放した。その結果、彼の身体能力は人間の限界を超えて強化されていた。
ヴォルフラムはもう、今のスクネに対抗することが出来なかった。一方的にスクネの攻撃を受け続け、ヴォルフラムはやられていく。
「お前にも、母さんと同じ痛みを味合わせてやる──」
スクネは、凍りつくような眼でヴォルフラムを見つめている。そして、全身のオーラを自身の剣に集中させて、ヴォルフラムの身体を貫いた。
「ぐぅぅ──クソがっ! この俺が──俺がこんなガキにやられる──とは」
そのままヴォルフラムは意識を失った。
ヴォルフラムを倒したことで、スクネは正気を取り戻し、すぐにアンナに駆け寄った。
「大丈夫、母さん? あれ、傷が治りかけている?」
彼は、アンナが超再生能力を持っていることを知らなかった。
「あなた、私が母親だって、知っていたの?」
「なんとなくね。でも、なかなか言い出せなかったんだ。ごめんね」
アンナは何も言わず、スクネを抱きしめた。
◇◇◇
「やっとあの金髪の少年が覚醒したか」
マグナスは遠方の風景を覗き見ることが出来る魔道具で、スクネの戦いを眺めていた。
「あのクロウドという少年ですか?」
「そうだよレベッカ。やはり、あの少年はスペリアだった。ふふ、近いうちにまた会いにいくとするか──」
「私たちも連れて行ってくれますか?」
ジェシカが顔を赤らめながらマグナスに尋ねた。
「君たちがそうしたいのなら、また三人で会いに行くとしよう」
マグナスは振り返ると、後ろにいた二人に優しく微笑んだ。
◇◇◇
アンナたちとヴォルフラムの戦いの最中に、マテウスとメローネがミリエラの元へ駆けつけていた。アンナたちの本当の狙いはヴォルフラムをなるべくミリエラから遠ざけることだった。
「大丈夫? 助けにきたよミリエラ」
「遅くなってすまないミリエラ。怖い思いをしただろう?」
「──私はなんとか大丈夫よ。助けにきてくれて、ありがとう」
ミリエラは二人の姿をみて、泣き出してしまった。
「ごめんなさいね。私、本当に嬉しいの。あなたたちが来てくれたから」
呪いが解けてから、メローネの能力は進化していた。メローネに触れた人間の気配も消して、認識されないようになっていたのだ。
「おやおや、誰かと思えば、お飾りのマテウスと牛娘じゃないか。残念だけど、ミリエラのことを弟がえらく気に入ったみたいでね。彼女は渡さないよ!」
三人の後方からケイトが現れた。
「ケイト、お前が裏切るとは思わなかったよ。私は教主として、お前に罰をあたえる。お前たちがミリエラにしたことは、許されることではないからな!」
マテウスがケイトを睨みつける。
「メローネ、ミリエラを頼むよ」
「マテウス様、まかせて。さあ、私たちは行くよ、ミリエラ」
メローネがミリエラの身体に触れると、二人の気配が消えて、完全に認識出来なくなった。
「ちっ、牛娘の能力も進化していたのか。逃がすものかよ!」
ケイトはアジトの出口へ向かおうとするが、マテウスが足止めする。
「君の相手は僕だ。さあ、お仕置きの時間だ。覚悟するがいい!」
「舐めるな! お前など、すぐに倒してやる!」
◇◇◇
(──ヴォルフラムの生体エネルギーが感知できなくなった?)
マテウスとしばらく交戦していたケイトは、ヴォルフラムが倒されたことに気づき、マテウスを風の魔法で吹き飛ばして、ヴォルフラムのもとへと駆けつけた。
「いやあああああぁーっ! ヴォルフラムゥー!」
ヴォルフラムを倒されたケイトは怒りで発狂して、自身の姿を魔物の姿へと変化させた。
「はぁっ、はぁっ。痛かっただろう? ヴォルフラム。今、姉さんの中に入れてあげるからね」
ケイトは自身の身体の一部を液体状に変化させて、弟の身体を包み込むと、自身の体内へと取り込んだ。
そしてケイトは、翼の生えた堕天使のような姿に変貌した。
「あの子のいない世界なんて必要ない。こんな世界、滅ぼしてやるわ。みんな消し去ってやるよ!」




