暴走する姉妹
「ソニアをやったわね!」
「許さない! 絶対に許さないわよあんた! 今すぐぶっ殺してやる!」
ソニアがやられたことで、ベッキーとイザベラは我を忘れて怒り狂う。その時、二人に寄生していた魔道獣が怒りの感情に反応した。
二人の全身がどんどん魔物へと変化していき、完全に魔物化した。残りの二人は、無意識のうちに体術でも絶対に負けない強靭な身体を欲していた。魔道獣は、二人の欲望に応えて、二人を魔物化させて、絶対的な力を与えたのだ。
「ああ、いい、いいよ。力がみなぎってくるわ。もう負ける気がしないよ」
「私たちがこんな奴らに負けるなんて、ありえないもの。まずはこいつをやっつけるよ。イザベラ」
「了解ベッキー。ボコボコにしてやる」
圧倒的な力とスピードで二人はアンナに攻撃をしかける。
(ちっ、こいつら、魔物化したら、身体能力がかなり強化されたわね。これでは体術で体格差を補えないか──)
アンナは自分にバフの魔法をかけて身体能力を強化するが、二人の攻撃を回避するのに精一杯となってしまう。
しかし、それでも避けきれず、何度か攻撃を受けてしまう。
「ぐっ!」
「あはは。私たちのスピードについてこれないようね。もう私たちにダメージを与えられないよ。このまま三人ともミンチにしてやるから!」
「ふふ、まずはその腹を貫いて、ソニアと同じ痛みを味あわせてあげるわ!」
「…………」
アンナはわざと二人の攻撃をくらいながら、相手の身体を掴んで動きを封じた。
「えっ! この子、なんて力なの!」
「ちょっとあんた! 早く手を離しなさいよ!」
「離すわけないでしょ。バカなの?」
アンナは自分の両腕に体内の生体エネルギーを集中させて、自身の限界まで力を強化していた。アンナが二人の身体を掴んで動きを止めている隙に、アロウラとスクネが二人の魔物を武器で突き刺す。二人の武器は、バリアントたちの魔力を奪っていった。
「そんな、不意打ちなんて、ひどいじゃない」
アロウラとスクネの武器に魔力を吸い尽くされた二人の魔物は、その場に倒れこんだ。
アンナは、ソニアと同じようにナイフで倒れている二人の腹を裂いて魔道獣を引きずり出し、炎の魔法で仕留めた。
三姉妹は自分たちの過去を思い出していた。
彼女たちは元奴隷だった。
ローゼンブルグのとある地方都市の置屋で働かされていたところをヴォルフラムという男に保護されて、バリアントにスカウトされた。
三姉妹は自分たちを救い出してくれたヴォルフラムへの感謝の気持ちから、彼に協力を申し出て、自ら魔道獣を寄生させたのだ。
「ごめんねヴォルフラム。私たち、負けちゃったよ」
アンナは何故か体内に魔道獣がいなくなった三姉妹を治療し始めた。
「なんで、私たちを回復するの? 敵なんだよ?」
「勘違いしないでよね。あらかた傷が治ったらあんたたちからいろいろ聞き出してやるから、覚悟しなさいよ」
ある程度傷が回復したところで、アンナは三姉妹に尋問しようとする。
「待ってアンナ。向こうから誰かが近づいてくるわ」
黒ずくめの人間たちが近づいてくるのに、アロウラが気づく。彼らはいきなり閃光弾のような魔道具を使い、アンナたちの視界を奪う。
「やられた! 閃光弾をつかうとは!」
アンナたちは閃光弾の影響で視力と聴力を奪われ、周囲の状況が確認できない。
その隙に黒ずくめの人間たちは素早く三姉妹に近づき、三姉妹を連れ去っていった。
しばらくたって、視力と聴力が回復した時には、すでに黒ずくめの人間たちと三姉妹はいなくなっていた。
「みんな、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。でも、敵さんを連れて行かれてしまったわ」
アンナは、黒ずくめの人間たちが現れたタイミングが良すぎることを怪しんでいる。
「どうやら、組織の中に内通者がいるようね」
◇◇◇
三人と三姉妹の戦いの様子を遠くから眺めていた男がいた。
彼は人間の生体エネルギーの量を測定出来る眼鏡型の魔道具を装着している。
「ほう、あの金髪の少年の生体エネルギーは、通常では考えられないほどの高い数値を出している。ふふ、こんなところで『スペリア』に出会えるとは、本当に私はついているな」
男は、スクネの体内の生体エネルギーの高さに驚いていた。
「レベッカたちに彼を監視させるか。隙を見て、私のもとへ連れてこさせるとしよう」
男は、スクネを手に入れようと画策した。
魔道獣は寄生した人間の生体エネルギーが多ければ多いほど成長が早くなり、強力になるからだ。
「ヴォルフラムには黙っておくとしよう。彼に勝手に動かれるといろいろと面倒だからな」




