新たな依頼と新たな敵
魔道獣を持った人物たちが動き出してから、ローゼンブルグの各地で失踪事件が多発した。
事態を重く見たミリエラは組織から調査員を派遣して、事件の調査を開始する。
しかし、調査に派遣した諜報員からの連絡が途絶えてしまった。
◇◇◇
アンナたち三人の元へ、ミリエラからの特使がやってきた。
「なるほど、それで私たちに冒険のついでに、事件の調査をしてほしいということなのね」
「調査に出た組織の諜報員が何人も行方不明となっています。ミリエラ様は、これ以上無駄に人員をかけるより、実績のあるあなたたちに依頼した方が良いと判断されたようです」
アンナたちの元に派遣されたのは、ミリエラの新しい秘書、ケイトだった。
ケイトはミリエラと同じく、ひつじの見た目が混ざった女性で、特徴的な丸メガネをかけている。
「せっかく三人でゆっくり冒険しようと思ったのに。ま、ミリエラの頼みなら仕方ないか」
肩をすくめながらアロウラがつぶやいた。
「調査対象となっている場所は複数あるので、アロウラ様たちの冒険のルートを教えていただければ、こちらでそれに近い場所を選定します。場所が決まれば、後日、詳細な情報を私から皆様に報告しますね。では、また」
「うん、またね。ケイトさん」
後日、ケイトから情報をもらった三人は、調査のために、ハウルという名前の村を訪れた。
「わかってはいたけど、やっぱり誰もいないわね」
「まって、今周囲の音を感知してみるから」
村には人がいなかったので、アロウラが耳で音を感知すると、近くの山から物音が聞こえてきた。
「近くの山から物音が聞こえるわ。とりあえずそこへいってみましょう」
三人が山を探索すると、大きな洞窟と、その入口を見張っているらしい一人の男を発見した。
その男は、三人を見かけるといきなり襲いかかってきたので、スクネが男を返り討ちにして気絶させた。
「こいつは見張りのようね。明らかに普通じゃなかったのが気になるけど──」
「えっ!」
洞窟内部の音を確認したアロウラは入口で二人を止めた。
「──アンナ、ここでクロウドと待っていてくれる? クロウドには、この先で起こっていることを見せたくないの」
「わかったわ。でも、何かあったらすぐに私たちを呼んでね」
アロウラは手を挙げてアンナに合図すると、厳しい表情をしながら洞窟の中へと進んでいった。
村人たちは洞窟の奥の広間にいた。
ここには拷問の道具が置かれており、村の少女や女性たちが男たちから、ここではとても言えないようなひどいことをされていた。
「やめて! お願いだから、子供には手を出さないで!」
「いたい! いたいいたい! いたいよおおお!」
「いやあああああ!」
女性たちの悲鳴が部屋中に響いていた。
「なんてことを──」
その光景を見たアロウラは、たまらずその場にいた人間たちを魔法で眠らせた。
(なんなのこいつら。子供にまで手を出すなんて。こんなの、明らかに正気じゃない。誰かに操られているんだわ)
男たちに襲われていた少女はすぐに起き上がり、アロウラに礼をする。
「私たち、村の男たちに突然襲われて、ここまで連れてこられたんです。助けていただきありがとうございました。お礼に──今ここで殺して差し上げますわ!」
突然、少女がアロウラに襲いかかってきた。
アロウラは襲いかかってきた少女を風の魔法で弾き飛ばすと、彼女の周囲を氷の壁で覆って閉じ込めた。
「バレバレの演技はやめなさい。あなただけ私の魔法にかからないなんて、おかしいでしょう?」
少女は氷の壁を炎の魔法で溶かすと、変装を解いて魔族のような姿に変わった。
「えー、そう言わないでよ、私がんばって演技したんだから。私たちね、今、村の人たちを操って大切な儀式をしていたの。邪魔をしないでくれるかな? ね、かわいいウサギさん」
突然、眠っていた二人の女性が起き上がり、彼女たちも魔族のような姿に変身した。
「ソニアはがんばってたのにひどいじゃない、ウサギさん。まあでも、あなたかわいいから、このまま何もしないっていうのなら、見逃してあげてもいいわよ?」
「外にいる二人の子供もね。さあ、どうする?」
この三人のヴィランたちはサキュバスのような姿をした女性だった。
三人とも服は身につけておらず、背中に黒い羽根が生えていて、身体中に黒い模様が浮かび上がっていた。
(また変態が現れた──どうして私の相手は変態ばかりなのかしら?)
アロウラはうんざりしながらも、戦う決意を固めた。




