新たな冒険と陰謀の始まり
マスターとの戦いから半年が経過した。
アンナたちは、新たな冒険の準備をしている。
アンナはヨナから、ローゼンブルグの王族や一部の貴族が、魔素を解毒する特別な魔道具を体内に装着していたことを聞いていた。これは、かつてこの国にいたエリシャという天才魔道具職人のエルフが作ったものだった。
このエルフがいなくなった今となっては、誰もその製作方法がわからないオーパーツとなってしまっていた。
彼女なら魔素を解毒する方法がわかるかもしれないということで、アンナたちはエリシャを探すことにしたのだ。
「ヨナから聞いたエルフのエリシャさんをダウジングしてみたんだけど、反応がないの。この国にはもういないか、お亡くなりになっているかのどちらかかもしれないわ」
「焦る必要は無いわアンナ。まずはこの国に残っている彼女の手がかりを探しにいきましょう。彼女の持ち物を発見できれば、そこから魔法で記憶を辿れるからね」
焦る必要は無いということで、今回は三人でゆっくりと冒険を楽しむつもりでいた。
宇魅那は国の再興を目指して、近隣の同盟国から食糧を買い付けて市民に配布していた。
食糧の供給が安定しはじめたことで、宇魅那たちはようやくインフラの再建などを始めることができた。
組織は現在、ミリエラが中心となって国内の治安維持活動にあたっている。
だが、それを快く思わない人物たちがいた。
「まったく、自由で何でもありな今の世界がいいっていうのに、余計なことしやがって──正直ムカつくぜ」
「ふふ、こちらもようやく魔道獣の準備が整ったのだから、邪魔してやればいい」
この男たちは、中に奇妙な魔物の入ったカプセルを握っていた。
魔道獣は、寄生型の魔物を利用した改造生物である。
古代、魔道具職人は、魔物を素材にして、魔道具を作ることを思いついた。
人間に寄生する小型の魔物の身体を改造して、特殊な能力を持たせてから、人間に寄生させる。この魔道獣は強力なスキルを人間に与えたが、人間の身体を乗っ取ったり、体内に魔素を発生させて魔物化させてしまう事例が頻発してしまった。そのため、魔道獣の製作は禁止されて、その後の時代に魔道獣が製作されることはなかった。
この世界では、忘れ去られた技術のはずだった。
「この魔道獣が人間に寄生すると、その人間の能力を限界まで引き出して、新しいスキルを与える。寄生された人間は、もはや人間を超えた新しい存在になるといってもいい」
「こいつがあれば、俺たちは人間の枷を外して、もっと自由に生きられるからな。クソみたいなルールに縛られて、抑圧されながら生きる世界は、もう終わりだ。新世界を作るのは俺たちだってことを、姫様にわからせてやる」
「それで、魔道獣を寄生させる人間はある程度選別するのか?」
「ああ、それは俺が選別しよう。実は、こいつを使ったとあるイベントを考えているんだ」
「なるほど。では、君に任せるよ」
「ああ、俺にまかせてくれ。こいつに能力を引き出された人間がどんどん増えていけば、この世界はもっと面白くなるぜ。強者が自由に生きられる世界の誕生だ」
「これでようやく、私たちの理想の世界が完成するわけだな」
「それじゃあ、そろそろ動き出すとするか。姫様にもそのうち挨拶にいってやろう。宣戦布告ってやつだ」




