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ミリエラが用意してくれたバケーション

 ミリエラのもとに帰還したアンナは状況を報告していた。


「それで、天使様が現れて、マスターを石像に変えてくれたのね?」


「そうなの。でも、あまり私たちには協力的ではなさそうだったわ。面倒な事を起こすなって感じだった」


「そうだったの。確かに、私たちに協力的なら、魔道炉の事故の時点で私たちを助けてくれるはずよねえ」


「天使様からは、私たちのことなんて、小さなアリみたいにしか見えてないと思うよ。私たちが普段アリのことなんて気にしていないのと同じ。今回は、自分たちにも被害が出そうになったから、ようやくやってきたって感じだもの」


 アンナはシンシアが微笑みながらも、冷たい視線で自分を見つめていたことを思い出した。


「そうよね。天使様は、私たち一人一人のことなんて、いちいち気にしてないわよねえ。それはそうと、ありがとう、アンナちゃん。あなたがいなかったら、この国はもっとめちゃくちゃになっていて、再起不能になっていたわ」


「ミリエラさんだってそうだよ。ミリエラさんがこの組織を作ってくれなかったら、もっと早くマスターと機械人形にめちゃくちゃにされていたと思う」


「うふふ。ありがとうアンナちゃん。私、アンナちゃんみたいに頭のいい子、好きよ。話が合うんだもの」


 アンナは相変わらず子供のふりをしてミリエラに話しかけている。ミリエラはそんなアンナににっこりと微笑んだ。


「私もミリエラさんとは楽しくお話出来るわ。それで、これからどうするの? 取り逃がした機械人形の行方とか、スポンサーさんの動向とか──」


「そう、まだ終わりじゃないの。だから、もうしばらくは気を引き締めて、警戒していかなくちゃいけないわ」


「相変わらずミリエラさんは大変ねえ。マテウスさんとメローネさんには会いにいかないの?」


「今ここで手を抜くわけにはいかないからね。もう少しだけ我慢するわ。それより、アンナちゃんたちこそ、三人でどこかに出かけてきたらどう?私からアロウラさんに掛け合ってあげようか?」


「お出かけか。ずっと三人で旅してたけど、三人で気を抜いてゆっくりと過ごしたことはあまりなかったな」


「きっと楽しいひとときを過ごせるわよ。私がおすすめの場所をアロウラさんに教えておくから、楽しんできて」


「わかったわ。ありがとう、ミリエラさん」


◇◇◇


 三人は、ミリエラに勧められた港へ向かった。


「ボク、海に来るのって初めてだよ」


「私たちだってほとんど来たことはないわ。でも、今の時期はまだ泳ぐほど暖かくはないけど、どうして海なのかしら?」


 三人の目の前に小さな船がやってきた。


「これは、海賊船?」


「お待ちしておりました。船長のベティです。どうぞ、船の中に」


中から女性の船長が出てきて三人に挨拶した。


「すごい。海賊船なんて初めてみるわ。それにしては小さいけど……」


「この船は観光用に造られたレプリカです。ここの港に放置されていた船を、ミリエラ様が修復されたのです。煙突があるの、珍しいでしょう? 蒸気機関で動いているんですよ」


「蒸気機関? 魔法とはまた違った力で動いているのね。確かに珍しいわ」


「それでは、エターナルサニー号、出発ですっ!」


 船が動き出すと、船の周りにカモメが集まってきて、船と一緒に移動を始めた。


「カモメさんだ! ボク、初めてみるよ!」


「ここにエサがあります。エサを投げると、カモメさんが近寄って食べてくれますよ」


 船長はカモメのエサとして、小さなお菓子のようなものを三人に手渡した。


「すごい、カモメって飛んでいても器用にエサを食べるのね」


 三人はカモメにどんどんエサを投げて、食べさせていった。


 船は港から外海へ出ると、何回も周回をして、カモメたちを引き連れて港へ戻ってきた。


「どうです。航海は楽しんでいただけましたか?」


「最高だったよ。ベティさん、どうもありがとう」


「うれしいですっ。また、遊びにきてくださいね。ミリエラ様にお話ししていただければ、いつでも船を出しますよー」


 海賊船のクルーズを楽しんだ三人は、次にミリエラに勧められた山に登ることにした。


「お待ちしておりました。この山のガイドのドーラです。薄暗くなってきたので、気をつけて登りましょう」


「よろしくね、ドーラさん。でも、この時間に登るのは、危なくないの?」


「ミリエラ様は三人に、どうしてもこの山からみる夜景を見ていただきたいとのことでした。ですので、がんばって登りましょう。私もいますし、この山では強い魔物は発見されていませんので、問題ないかと思います」


 三人とドーラは、山をどんどん登っていった。

 あまり高い山ではなかったが、ローゼンブルグは平地が多く、南部には山自体が少ないので、ここは南部で一番高い山であった。


 頂上に着く頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。

 山頂からはローゼンブルグの国中を見下ろすことが出来た。


「すごい。街の光がキレイに見えるよ」


「こうやって高いところからみると、荒廃したこの国でも、人々がきちんと生活しているっていうのがわかるわね」


「この光の一つ一つで、みんなが必死に暮らしているのね」


「そうよ。そして、その人たちを、あなたたちが守ってくれたのよ」


「ミリエラさん? 来ていたのね」


 三人の後ろからミリエラが現れた。


「ふふ、あなたたちにどうしてもこの景色を見せたかったの。気に入ってもらえたかしら?」


「もちろんです。どうもありがとう。ミリエラさん」


「それはよかった。ドーラ、あなたも三人を案内してくれてありがとうね」


 山からの夜景を見て、遠くまで灯りがついているのを見て、この世界を守ったことを改めて実感する三人。


 そして、お話は、ローゼンブルグを再興しようとするミリエラたちと、弱肉強食の世界を力で支配しようとする勢力との争いへと移っていく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 3人へのご褒美回でしたね。こういう面々もこの世界にはいて、3人はそこで生きているのだと感じることが出来ました。この場面もとてもほのぼのとしていて、また趣向が違って面白かったです。
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