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マスターの逆襲

「クソッ。あの程度の魔法で機械人形を破裂させただと──。あの小娘、何をしやがった?」


 古代の魔法には術式という概念が存在した。

 術式の手順に従って魔法を使うことを、古代の魔法使いたちは術式を組み立てると表現していた。

 高等魔術言語という言語を使って、正しい手順にそって術式を記述するか詠唱すると、魔法の威力や効果が格段に上がる。例えば、古代の魔法使いが呪文を詠唱するのは、高等魔術言語で組み立てた術式を読み上げて発動するためだ。


 現代の魔法使いは、この術式の概念を知らずにイメージだけをたよりにして魔法を使っていた。

 そのため、古代の魔法に比べて、威力や効果が劣っていたり、より多くの魔力を消費していたのだ。


 アンナは高等魔術言語を使って術式を正しく組み立ててから魔法を発動したので、見た目よりはるかに強力な威力となったのだ。


「私の機械人形をよくも──絶対に許さんぞ!」


 マスターは、素早くアンナの髪を掴むと、そのままひっぱり顔面を地面に叩きつける。

 そして、後頭部を何度も足で踏みつけた。


「がはぁっ! がはぁっ!」


「私の怒りはこの程度ではおさまらんぞ。お前、身体は再生出来ても、痛みはカット出来ないだろう? 痛みで気絶しても何度でも叩き起こしてやる。次は身体を切り刻んでやるよ!」


 マスターはアンナの髪を引っ張って再度身体を持ち上げる。


 マスターは左手でアンナの身体が浮くまで上に引っ張り上げると、右手に魔法でロングソードを具現化した。


「どうした? その腹、ずいぶんと膨らんでいるじゃないか。なるほど、私と違って、魔素を解毒出来ずに腹に溜めてしまうようだな。それで動けないでいるのか。なら、まずはその膨らんだ腹を突き刺してやるよ」


 マスターはアンナの下腹部に剣を突き刺した。


「あぐぅっ!」


「ああ、いい声で鳴くなあ。なあ、もっと聞かせてくれよ」


 マスターは怒りに任せて何度も何度もアンナの下腹部に剣を突き刺していく。


「あぐぅっ! あぐぅっ! あぐぅっ! あがぁっ! あがぁっ!」


 マスターが剣を突き刺すたびにアンナは悲鳴をあげる。


「いいねえ! ゾクゾクしてきたよ! 今度はこのまま上に突き上げてやる!」


 マスターはアンナの下腹部に突き刺した剣を、そのまま上に突き上げた。


「あああああっ!」


 しかしその瞬間、何かに気づいたマスターは動きを止めた。


「──なんだこれは?」


 マスターの周囲を無数の光の円盤が取り囲んでいる。


 アンナはマスターにいたぶられながら、周囲に高速で回転する無数の光の円盤を魔法で作り出していた。

 しかし、マスターはアンナをいたぶるのに夢中でそれに気づかなかった。


 高速で回転する光の円盤がマスターに向かっていく。


「ふん、悪あがきをしやがって。こんなもの、かわすまでもない。すべて受け止めてやる」


 光の円盤を大したことがない攻撃と判断したマスターは、アンナの攻撃をすべて受け止めた。


 しかし、その判断は間違っていた。


 アンナの作り出した光の円盤は、かまいたちのような姿へと変化して、マスターの全身を細切れになる寸前まで切り刻んだ。


「があああああぁぁぁっ! がぁっ! はぁっ! はぁっ! くっ! まさか──まさか私が──これほどまでのダメージを喰らうとは! だが、お前も──もう動けないだろう? この傷を治すのに──しばらく時間がかかりそうだが、私の勝ちは──揺るがない!」


 話しながらマスターは、漆黒の壁を二人の周囲に作り出した。


「私の身体が──回復するまでに──他の奴らに邪魔をされると──面倒だからな。ぐぅっ! 魔法の壁で──仕切らせてもらった。後は、私の身体が──回復するのを待つだけだ。ははっ! お前は──魔力を使いすぎたな。腹の傷は治ってきても──膨れた腹は戻らないようだなぁ。はぁっ! はあっ! 私の勝ちだぁ!」


 しかし、いくら待ってもマスターの身体は回復しなかった。


(──おかしい。身体が回復しない。それどころか動かすことも出来ないだと。どうなっている?)


 アンナは突き刺された下腹部を押さえて、痛みをこらえながら笑っていた。


「はぁっ、はぁっ。ふふ、この私が──何もしないとでも思った? あなたより──この超再生能力の身体とは──長く付き合っているからね。弱点も、調べてあるの。一見無敵にみえる能力だけど──この回復には、酸素が必要なの。酸素欠乏の状態になってしまうと、細胞自体の──はぁっ、はぁっ──再生能力が──著しく低下してしまうからね。だから──ずっとあなたの周囲の空気を操作して──酸素濃度を低くしておいたの。それだけじゃないわ。さっきの魔法に──はぁっ、はぁっ──麻痺性の毒を仕込んでおいたの。細胞が麻痺していくと──再生能力はさらに鈍くなるわ。ふふ、あんたも──そろそろ、出血多量でヤバいんでしょう?さっきから──声も出せないみたいだし」


 しかし、追い詰められたようにみえたマスターも不敵な笑みを浮かべた。


 彼女は宇宙から隕石を召喚していた。

 巨大な隕石をこの世界に落下させて全てを破壊する。

 それがマスターの奥の手、最後の作戦だった。


(ここまで私を追い詰めたことを褒めてやるよ、小娘。だが、私だけ死ぬと思うなよ。確実にこの国を破壊するために、上空に隕石を召喚してやった。あれが落ちれば、この国どころかこの世界の人間は全て終わりだ。みんな道連れだ!)

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― 新着の感想 ―
[良い点] マスターが意外と激昂すると視野が狭くなるのが、読んでいて面白かったです。楽しそうな時の敵役は、だいたい、裏をかかれますよね。絵に描いたような、逆転劇が読んでいてスカッとしました。とても面白…
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