本物の家族みたいに
ミリエラはアンナたちと今後について話し合っていた。
「スポンサーさんとの交渉がうまくいったんでしょ? よかったね、ミリエラさん」
アンナはわざと子供らしくミリエラに語りかけている。
「ええ。アンナちゃんがマスターの記憶を読み取って、彼らの秘密を教えてくれたでしょう? それを交渉の材料にして、上手く立ち回ることが出来たの。それに、スポンサーのお爺さんたちも内心ではマスターを恐れていたみたいだったわ。本当にありがとうね」
「スポンサーはみんなとんでもない人ばかりだったみたいね。やっぱり悪いことをしないと儲けられないってことなのかなあ。でも、お金だけじゃなくて、人材まで提供してくれたんだよね? やっぱりいろんな意味ですごい人たちなんだね」
「彼らは人身売買なんかもやっていたわ。今みたいに治安が悪くなる前から、人攫いなんかをして売物にする人間を集めてたみたい。それで、奴隷として大勢の人を国外に売り飛ばしていたみたいなの。魔道炉の事故の後はみんな魔素に汚染されてしまったから、流石に売物にはならなくなってしまって、国外には売れなくなったみたいね。それでだぶついていた奴隷が結構いて、金持ちたちの娯楽用として、人間狩りのターゲットとかに使っていたみたい。そういう人たちをこちらに提供するってことなの」
「そんな胸糞悪くなるような連中から、金をもらうのは癪だけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないからね。スポンサーから送られてきた人間は、あなたの教団で一度保護して、身分を保証してあげるといいと思うわ」
子供の前でそんな話をするなとでもいいたげに、アロウラがミリエラを睨みながら答えた。
「もちろんそうするつもりよ。新しい組織では、役割は明確にするけど、階級は作らないつもりなの。誰もが気兼ねなく意見を言い合える関係でいてほしいからね。それで、みんな同じ目線で戦ってもらう。アンナちゃん、どうかな?」
「いいんじゃないかな。今回はマスターから国を守るというわかりやすい目標があるし、なにより、あのお姫様がトップにいるからね。それで、みんな一つにまとまると思うよ」
相変わらず子供のフリをしながらアンナが答えた。
「アンナちゃんがそう言うなら、大丈夫ね。ありがとう。それじゃあ、それでいくことにするわ。組織として、まずは各地にシェルターを作ろうと思うの。マスターが何をしてくるのかはまだわからないけど、とりあえず大勢の人々が安全に避難できるシェルターは絶対に必要でしょ? 大規模な災害と同じようなことが起きると思って、住民の避難を最優先にすることにしたの。そして、当面はそれと並行して組織作りと情報収集にあたっていくわ」
「ミリエラさんも大変ねえ。でも、きっと上手くいくわ。私、そんな気がするの」
アンナは子供っぽい微笑みを浮かべながら、ミリエラに答えた。
「ありがとう。あなたたちには当面の間、情報収集をお願いするわね。何かあったら、すぐに知らせてくれると助かるわ」
「わかった。何かあったら連絡するね」
「最後に聞いて。私、正直にいうと、あなたたちが羨ましいの。だって、あなたたち三人は、本物の家族みたいに仲がいいんですもの。私もね、マテウスとメローネと、あなたたちみたいな家族になりたいの。だから、この戦いが終わったら、マテウスとメローネと三人で暮らそうと考えてるんだ。だから、この国を守りたいの。この国を守り抜いて、三人で平和に暮らす。──それが私が戦う目的で、私の夢なのよ」




