表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/81

ミリエラの覚悟

 新月の教団の新しい教主となったミリエラは宇魅那と会談していた。


「宇魅那様、私たちの教団の創設者だった女性が、イバラ姫の身体を乗っ取ったのは聞いていますね?」


「ええ。伺っています」


「その女性を、私たちはマスターと呼んでいたので、今はマスターと言わせていただきます。このマスターは最後に、身につけていた仮面を私たちに残していきました。そして、私たちと現在協力関係にある女性が、この仮面から魔法でマスターの記憶を読み取ることに成功したのです。結論からいいます。彼女はこの国を完全に破壊するつもりです」


「破壊って? どういうことなんですか?」


 ミリエラから想定外の言葉が出てきたことに、宇魅那は驚いている。


「彼女のやろうとしていることは、言葉の通り、この国にある全てのものを破壊しようとしているのです。建物も、人間も、全てです。そして、全てを破壊した後、一からこの国を作り直すことを考えているようです」


「そんな! 人も全てですか! ひどい! その方は命をなんだと思ってるんですか!」


「宇魅那様、残念ながら、今、この国の人々の命はあってないようなものです。魔道炉が崩壊したあの日から、ほとんどの人間が、明日生きられるかどうかのギリギリの生活を強いられています。私たちは少なからず魔素の影響を受けていますし、その中には完全に魔物化してしまった人たちもいます。しかしながら、それでもこの国が復興することを信じて、懸命に生きている人々もいるのです。私は、その人たちの気持ちを無駄にしたくない。私たちの教団の信者たちも、皆同じ想いを持って活動しています」


「私も、可能なら、この国を元の、皆が平和に暮らすことのできた状態に戻したいです」


 その言葉を聞いたミリエラは少し考え込んでから、覚悟を決めて宇魅那に話しかけた。


「──宇魅那様は、本気ですか?」


「本気というのは、どういう意味で?」


「あなたの覚悟のことです」


 ミリエラは宇魅那の目をまっすぐに見つめながら問いかけた。


「覚悟ですか? もちろん、あります。私の命にかけてでも──」


「あなたの命だけではありません。この国を守るためには、少なくない犠牲者が出るはずです。それでも、あなたは最後まで責任を持って、この国の人々にこの国を守れと言えますか? あなたは彼らに、この国のために死ねと言えますか?」


「それは──」


 厳しい現実を突きつけるミリエラの問いに、宇魅那は口ごもってしまう。


「宇魅那様、口先だけの理想では、何も変えられません。物事を大きく変えるためには、それ相応の代償が必要になります。私は、これからマスターに対抗する新しい組織を作ります。この教団だけでなく、この国を守る意思のある全ての人に参加してもらうつもりです。もし、宇魅那様に本当の覚悟がおありなら、私はあなたにこの組織のトップになっていただきたいと考えています。是非、あなたにその覚悟を持っていただき、その姿勢を皆に示していただきたい」


「私にですか?」


「ええ、宇魅那様以外に適任者はいません。あなたなら、きっとこの国の人々をまとめ上げ、必ずマスターを倒すことができます。それだけの才能を持っているからです。何も持たない私にはできないことです」


「私を買い被りすぎです。そんな才能があれば、今頃この国は変わっていたはずです。でも、私には何もできなかったし、誰も救えなかった。何度も変えようとしたけど、できなかった無能なんです」


「それは宇魅那様自身の覚悟が足りなかったからです。ですから、今ここで覚悟を決めてください。そうすれば、皆あなたについていくはずです。もちろん、我々の教団も全力でサポートします」


 ミリエラは宇魅那の目をまっすぐ見据えている。


「──わかりました。私もできるだけのことをやりましょう。私は何も知らなかった。国民の方々が今を生きるために必死に働いていることも、ミリエラさんたちのようにこの国を良い方向に導こうとしている人たちがいることも、何も知らなかった。そんな皆さんががんばっているのに、私だけ逃げ出すわけにはいかないですから」


 宇魅那は覚悟を決めてミリエラを見つめ直した。


「それを聞いて安心しました。では、私も覚悟を決めて行動しますね。まずはお金を集めるために教団のスポンサーに会って資金調達のお願いをします。とにかくお金が無いと何も準備できませんし、志だけで動く人間ばかりだけではないので、必要な人材の中には傭兵のように金銭契約が必要な人物もいるでしょうから」


「確かに、短期間で人と物資を集めるにはまとまったお金が必要ですね」


「この教団のスポンサーはマスターと個人的な繋がりがあった人達です。詳しくはわかりませんが、マスターは接待として自分の身体を彼らに差し出していたようです。必要であれば、私も彼らを満足させましょう」


(それでも、必要な人数は集まらないだろう。教団の信者たちにも、命をかけてもらう必要がある。この国には守るだけの価値がある。そう思って戦うしかない。私にも、守りたい人がいるからね)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ミリエラの覚悟が壮絶なのと、身体のところを持ち出す御作のリアリティが作品を通して素敵です。さらりと人間性に言及できているのが、素晴らしいと思います。人間の根本が抜けた作品は空虚ですからね。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ