メローネに秘密をバラされるレオニード
教団施設内の個室で、レオニードとヨナはメローネに会った。
「久しぶりだね、メローネ。倒れていたと聞いたけど、体調は大丈夫かな?」
「大丈夫よ、ありがとう、レオニード。といいたいところだけど、レディに会いに来るのに女連れで来るなんて、失礼ね。あなたらしくないわ」
メローネは平然を装っているが、ヨナは彼女の手が震えていることに気づいた。
ヨナはレオニードの背中を軽く叩いてそれを知らせようとするが、逆にレオニードにお尻を軽く叩かれてしまった。
「それはよかった。ごめんねメローネ。彼女はヨナ。今回の任務で僕たちをサポートすることになったから、君にも覚えてもらおうと思って連れてきたんだよ」
「初めましてメローネ様。ヨナと申します。私は今、レオニード様のお手伝いをしています」
ヨナはメローネにていねいに頭を下げる。
「ふぅん、ヨナさんね。メローネよ、よろしくね。あなた、このレオニードには気をつけた方がいいわよ。この人、イケてるおじさんだけど、変態だから、仲良くなるとすぐに身体を触ってくるからね」
「──つい先ほどもお尻を触られました」
「もう、相変わらず変態なのは直ってないのね。まったく、マテウス様を見習って、少しは真面目になったらどうなの?」
メローネは冷たい目線をレオニードに向ける。
「相変わらずメローネは厳しいなぁ。君だって、能力で姿を消せることをいいことに、いつも裸で過ごしていたじゃないか。でも、最近は服を着るようになったって聞いたけど、何かあったのかい?」
「以前に任務で出会った人に、怒られたの。その人、すごく素敵だったから──」
メローネは、以前街で出会ったアロウラのことを思い出していた。
「なるほどね。その人のこと、好きになっちゃったのかな?」
「まあね。ウサギのお姉さんで、すごく素敵だったの。でも、私の一番はマテウス様なんだから、勘違いしないでよね!」
「へえ。君が女性を好きになるなんて、その人、相当いい女の人なんだね。一度会ってお話ししてみたいなあ」
「レディの前でそういうことを平気で言うのやめなさいよ! だからあなたはイケオジなのに、残念な男なのよ」
メローネがレオニードの手をパチンと叩く。二人のやりとりを見ていたヨナは、本当に仲が良いのだと感じて、思わず笑みがこぼれた。
「ごめんごめん。それじゃあ、そろそろ本題に入ろうか。今回の任務でいく遺跡の入口に、強力な魔法を使う機械人形がいる話はもうミリエラから聞いたよね? 僕は魔法には詳しくないから、君の意見を聞きにきたんだ」
「あなた、私より強いんだから、自分で何とかしなさいよ」
「そういうなよー。魔法が苦手な僕ではどうにもならないんだから。実はここに来る前に、実際に機械人形と戦った信者たちから状況を聞いてきたんだ。簡単にいうと、とにかく機械人形の攻撃魔法の威力が強くて、こちらの防御魔法のシールドを貫通してしまったみたいだ。それで、犠牲者が出てしまったようだね。防御の魔法を使っていたのは教団の中でもそれなりに魔法が使える子たちだったみたいなんだけどね」
「──まあ、実際見てみないとよくわからないけど、多分、貫通能力に特化させた魔法なんじゃないかな? 魔法って、頭の中のイメージを具現化させて実行する感じだと思うんだけど、イメージが具体的で強いほど、少ない魔力で強力な魔法が発動するの。きっと物体を貫通するイメージを強く持って魔法を使えば、そうなるのかもしれないよ。そもそも機械人形にそういう思考能力があるのかどうかわからないけど──」
「それじゃ、いくら強力に防御魔法を使っても、貫通される可能性が高いってことか。その攻撃が直撃したら終わりだね」
先ほどまでとは打って変わってレオニードは真剣な表情で話しかけている。
「何らかの方法で攻撃魔法の軌道をズラすとかして対応出来ればいいけど、それをとっさにやるのはむずかしいと思う。だから、やっぱり攻撃を回避するしかないと思うわ」
「機械人形と交戦した信者の説明では、攻撃魔法は真っ直ぐ自分たちの方へ飛んできたらしい。直線上に飛んでくるだけなら少し横にズレるだけで回避出来るから、そうであってほしいね」
「機械人形の魔法がそれだけとは限らないけどね。いずれにせよ、機械人形の魔力の絶対量は決まってるでしょうから、そいつが機能停止するまで魔法を使わせることが出来たら最高だけど」
「それは高望みってやつだよ。僕たちの目標はあくまで君が遺跡に入るまでの足止めだからね。それも、君の姿を感知されなくなる能力が機械人形にも通用するという前提の作戦だけど──」
「まあ、想定外なことは起こると思って行動した方がいいわね」
「その通りだよ。だから、準備をするだけではダメなんだ。任務が始まったらスイッチを切り替えて、常に何が起こっても大丈夫なように、頭をフル回転させて備えておくことが重要なんだよ。ヨナもよく覚えておいてね」
レオニードはヨナの肩を軽く叩く。
「──わかりました、レオニード様」
「それじゃ、お互いがんばろうね、メローネ。何かあればまた連絡するよ」
「わかったわ。ヨナさん、レオニードは強いし、仕事はキッチリやるけど、とにかく変態だから気をつけるのよ」
「はい、メローネ様。お気遣いありがとうございます」
◇◇◇
個室から出ると、レオニードはヨナに話しかけた。
「うーん、メローネちゃんは思ったより重症だね」
「何もないように振る舞ってはいましたが、ずっと手が震えていましたね」
「本当なら任務には出てほしくないんだけど、どうしようもないからね。メローネちゃんを守って、君も守る。これは大変な任務になりそうだ」
「確認なのですが、レオニード様はお尻が好きなのですか? 私のお尻でよければ、いくらでも触っていいです。減るものでもないですし」
「勘違いしないでくれ。メローネちゃんが言うほど、僕は変態ではないよ」
レオニードは頭をかきあげながら、バツが悪そうにヨナに答えた。




