交錯する運命
アンナたちは研究所内を探索している。研究所内部は予想以上に広く、探索には時間がかかりそうだ。
「ここは古代の魔法研究所だったみたいね」
「どう、アロウラ。人の気配は感じる?」
「全て探知できたわけじゃないけど、人がいるような音は聞こえないわ。相変わらず機械の音は聞こえるけどね」
アロウラの探知だと研究所内に人間が動いているような音は無く、すでに無人となっていたようだ。
「ありがとう。この施設に人がいないのは、大分前からここが廃墟になっていたからかな? 古代の人々は、何らかの理由で、この施設を捨てた? それとも、この施設で何かが起きたのかな?」
「怖いこと言わないでよ。今は私たちだけの方が都合がいいでしょ?」
「それもそうね。ねえ、二人とも、これを見て。ここには魔道炉があるみたいよ」
アンナは、拾っていたスマートボードを二人に見せる。
彼女が魔力を流さなくても、スマートボードが起動していた。
「すごい。魔力を流さなくても動くんだね」
「研究用の魔道炉が置いてあって、まだ動いているのかもしれない。外にいた機械人形の彼女も、そこから魔力を受けていたのかも」
この施設には地下に魔道炉があるため、研究所内の魔道具や機械はそこから魔力を受けて動き続けている。
そして、ここには古代の高等魔法について書かれた魔道書や、たくさんの魔道具とその製造方法の記録などが残されていた。
「すごい。ここにいれば、古代の魔法の全てがわかるんじゃない?」
「残念なことに、ここの書物は古代の言語で書かれているの」
アンナは魔道書の一つを手に取り、中身を開いて二人に見せる。本の中には、現在ではすでに使われていないと思われる文字が書かれている。
「これ、ネブラ語に似てるわね。アンナ、読めるの?」
ネブラ語は、この時代の魔法使いの共通言語の一つである。
しかし、この本が書かれている言語は、現在のネブラ語の原型となった、古代のネブラ語であった。
「これは古代のネブラ語ね。昔調べたことがあるけど、現在のネブラ語とはまるで別物なの。今とは違う部分がほとんどだから、すぐには読めないわ。解読魔法で少しずつ翻訳していくしかないわね」
「じゃあ、しばらくここにいて、古代の魔法を研究するのはどう? 魔道書を解読していけば、魔素を無毒化する方法もわかるかもしれないし」
「そうね。少し時間をもらえると助かる」
「ここには生活出来る空間もありそうだし、アンナが納得するまでここにいようよ」
「その前に、この研究所は広いから、もう少し内部を探索してみましょう。他にも何かあるかもしれない」
三人はまだ知らなかったが、この施設の地下深くでは、新月の教団の信者たちが必死になって探している【イバラ姫】が眠っている。
そして、教団の信者たちが、この施設に迫りつつあった。




