優しいアロウラ
アンナたちは夜の丘で簡易テントを張って休息していた。
アンナとアロウラは、クロウドが寝静まってから、テントの外に出て星空を眺めていた。夜空には満点の星々が輝いている。
ときおり、星空の中を流星が降り注いでいる。
「へえ、綺麗なものね。今の時期だと、エルゼウス流星群か」
「この辺は周りに明かりがないから、本当に綺麗に見えるのねえ」
「ここは標高が高くて空気も澄んでいるからね」
二人は時おり夜空を流れる星を見つめている。
「それにしても、バギーってすごいわね。こんな高いところまで余裕で登って来れるんだから」
「あなたのおかげよアンナ。だって、あなたの魔力で走ってるんだもの。それよりアンナ、あなたお腹は大丈夫なの?」
アロウラは、アンナのお腹を心配そうに見つめている。
「なんとかね。もう少しいけると思うわ」
(もう、無理しちゃって。妊婦さんみたいにお腹がパンパンに膨れてるじゃない……)
「無理しないでアンナ。もうお腹ぱんぱんで苦しいでしょ? 動けなくなる前に、魔素を解毒しなさいよ」
「大丈夫。動けなくなる前にはスクネにお願いするから」
「──スクネに魔素を解毒しているところを見られたくないんでしょう?」
「まあね。一応、私の息子だし……。そりゃあ、気持ちよくなっているところは見せたくないよ」
「だよね。それじゃあ私が……」
突然アロウラはアンナを押し倒す。
「ちょっと! 何するの!?」
アンナはアロウラの行動に驚いている。
「私がアンナの魔素を吸ってあげる。そして代わりに解毒してもらうわ」
「バカなこと言わないでよ! そんなことしたら、あなたの身体がダメになるでしょう!」
「アンナにばかり負担はかけられないもの。これぐらいどうってことないわ」
アロウラは、アンナのお腹の中に溜まっている魔素の量が多いので、無毒化するときに、彼女の心と身体に負担がかかりすぎてしまうことを心配していた。
「……大丈夫よ。私が寝ているスクネの手を握るから。そして、なんとか耐えればいいだけだし」
アンナは魔法を無毒化するところをクロウドに見られたくないので、クロウドが寝ている時にこっそり手を繋いで無毒化しようとしていたのだ。
「じゃあ、アンナの魔素を吸いながら、私も一緒にスクネと手を繋いで解毒してもらうわ。二人で一緒にやれば、負担も軽くなるでしょう?」
「……私が嫌だっていっても聞かないでしょう? まったく、アロウラって変態なんだから」
「アンナだって、むっつりスケベなくせに……」
「でもありがとう。あなたが私のことこんなに心配してくれてるなんて思わなかったから、嬉しいわ」
「だって、仲間じゃないの」
(それに大好きだし……)
「里を出る時、あなたのことを誘わなくてごめんね。ここまで私たちのこと大事にしてくれるなんて思わなかったから」
「もういいよ。今、最高に楽しいからさ。こちらこそ、旅に連れて行ってくれてありがとう」
そういうと、アロウラはアンナににっこりと微笑んだ。
◇◇◇
新月の教団の施設で、仮面の人物が赤い長髪の女性に話しかけている。
「マテウスは無能だけど、何故か信者たちには人気なんだ。だから、お飾りとして教主のまま置いておくことにした」
彼女は顔色一つ変えず、仮面の人物の話を聞いている。
「そこで、君の出番だよ、ミリエラ。今日から教団の実務は君に任せることにする。無能なマテウスの代わりにボクの言う通りに教団を動かしてくれるとうれしいな」
「仰せのままに。マスター」
ミリエラと呼ばれた女性は、腕を胸の下に置きながら、マスターに頭を下げる。
「あの指示待ち人間とは違って、君なら僕の考えていることをきちんと理解して行動できるだろうからね。君の任務はイバラ姫を探し出すことだ。無能なマテウスに代わって、教団を指揮して探し出してくれ。期待しているよ。ミリエラ」
「ありがとうございます。必ずやマスターの期待に応えて見せます」
相変わらず顔色を変えずに返答するミリエラ。
(この娘はマテウスよりは仕事が出来るからね。まあ、君もただの駒にすぎないけど、期待させてもらうよ。せいぜい、ボクをガッカリさせないようにね)
ミリエラが下がると、仮面の人物はバルコニーへと移動して、流星を眺めながらつぶやく。
「ああ、母さん。早く会いたいよ。ボクと一緒に、この世界を作り替えよう。ボクたちの手で、この世界のゴミ共を一掃して、理想の世界を作るんだ」