メローネと出会ったウサ子姉さん
「しかし、本当に治安が悪いのねえ」
街に近づくにつれて、道を歩く男たちに絡まれていく三人。
「もう、かれこれ十回はガラの悪い男に絡まれているわ」
「まあ、その分街で使えるお小遣いが増えるんだから、いいけどさ」
三人は、自分たちに絡んでくる男たちを逆に締め上げてお金を巻き上げていた。
「もう相手にするのもいい加減だるくなってきた。街も近くなってきたし、走って街まで行くわよ」
「ねぇ、アンナ。なんとなくなんだけど、後ろの方に誰かがいる気がするの。別に音が聞こえるわけじゃなくて、なんとなくそんな気がするだけなんだけど。何故か気になって仕方ないの」
アロウラは自分たちの背後にずっと感じる気配を気にしてきた。
「誰かにつけられているってことか。アロウラ、あなたの勘はよくあたるからね。ま、気にしなくていいわ。私が二人に魔法でバフをかけるから、ここから一気に街まで走るわよ。例え誰かがいたとしても、そいつを引き離してやればいいだけだしね」
「うん、そうだよね。ありがとう、信じてくれて」
三人を遠くから眺めていた人物は、急に彼らが走り出したので驚いて追いかけようとしたが、思い直してやめた。
(あーあ、気づかれちゃったみたい。私、完璧に気配消してたのになあ。あの三人の中に、私みたいなチート能力持ちがいたのかな? そうだよね。そうじゃないと、私が気づかれるなんてありえないよ。だって私、周囲に魔力を飛ばして感知しても見つからないんだもの。うーん、チート能力で間違いないわね。しかし、三人とも、走るのめっちゃ速いなあ。私、走るの苦手なんだよ。これじゃ、簡単には追いつけないじゃん。まあでも、どうせ街に行くんだし、そこで……)
◇◇◇
街に着くと、入口に見張りの兵士が立っていた。
「冒険者の方ですね。申し訳ありませんが、今は治安が悪いので許可された方しか入場が許されていないのです」
「私たち、急用があるの。これでなんとかならないかしら?」
アロウラは自身の胸の谷間を強調しながら、先ほど絡んできた男たちから巻き上げた金の一部を見せる。
「……今回だけですよ。くれぐれもご内密にお願いします」
兵士はアロウラの胸を見つめながら金を受け取る。そして、三人は中に入れてもらうことができた。
街の中は外とは違い、人々が普通に道を行き交い、会話をしている。
「チョロい兵士で助かったわ。さて、とりあえず休憩しますかね」
「へえ、さすがに街の中はそこまで治安が悪くはないんだね」
「入口に兵士がいたでしょ? 街で雇った傭兵に守らせているのよ。ここはある程度裕福な街だから、そういうことができるの」
「すべての街がこうだといいんだけどね。そうじゃないと、自分の街は自分たちの手で守らないといけないから、大変だと思うわ。私たちの里みたいに、魔法の森で守られているような所は本当に少ないのよ」
「それじゃ、私は宿を取っておくから、二人は買物してきなさいな」
「はいはーい。それじゃあ行こうか、クロウド」
「うん。よろしくね、アロウラ」
◇◇◇
手を繋ぎながら街を散策するアロウラとクロウド。
しかし、アロウラはずっと背後に誰かの気配を感じ取っていた。
「ごめんクロウド、やっぱりアンナにも武器を選んでもらいたいから、宿にいってアンナを呼んできてもらえるかな?」
「うん、いいけど」
誰かの気配を感じ取ったアロウラは、クロウドをアンナの元に向かわせると、人気の無い路地へと向かう。
(やっぱり音は感知できないけど、さっきよりもはっきりと気配が感じられる。なんらかの能力で姿や音を消してるんだわ。どこの誰だかわからないけど、私のデートを邪魔したわね。絶対に許せない!)
アロウラたちをつけていたのは新月の教団のメローネ。
彼女はかわいい仔牛の格好をした女の子のような姿をしている。
メローネの能力は、自身の存在を人々から認識されなくするものだ。
(このウサギのお姉さんは完全に私に気づいているわ。この人がチート能力者で確定ね)
もう一度アロウラに気づかれたので、メローネは彼女がチート能力持ちだと確信する。
「いるんでしょ。そろそろ姿を見せなさいよ」
アロウラは気配を感じる方向へ話しかける。
「うふふ、ごきげんよう。ウサギのお姉さん」
能力を解いたメローネが姿を現す。
しかし、彼女が全裸の姿だったので、アロウラは怒りを通り越してあきれてしまった。メローネは人々に認識されないので、常に全裸で行動していたのだ。
「はぁ、あなた、女の子でしょ。恥ずかしくないの? もう少し恥じらいを持ちなさいよ!」
「うるさいわねえ。女同士なんだし、別にいいじゃないの」
「ダメよ!」
「仕方ないわねえ……」
アロウラに怒られたので、彼女は編み込んであった髪をほどき、長い髪で膨らみかけた胸を隠す。
「ちょっと。ちゃんと下も隠しなさいよ!」
「わかったわよ……」
彼女はしぶしぶ下腹部も手で隠した。
(なんなのこの子。変態なのかしら?)
アロウラは目の前の光景に戸惑っている。
「それで、なんで私たちをずっとつけまわしてたの?」
「それは……あなたが好きだから……」
メローネは顔を背けて身体をモジモジさせながら呟いた。
「はぁ?」
「なあに、顔を真っ赤にして。冗談よ。私はメローネ。とある任務であなたたちの里の長老さんを監視していたの。そしたら、あなたのお仲間の女の子が長老さんを殺しちゃったんだもの。それで気になって、あなたたちを追いかけたってわけ」
新月の教団。彼女は、この国で急速に信者を獲得し拡大しているこの新興宗教団体の諜報員で、教主のマテウスからの密命を受けて、能力で姿を消しながら里の長を監視していた。
その里の長をアンナが暗殺したので、彼女たちの後をつけていたのだ。
「それにしてもあの女の子すごいわね。長老がアクシデントで亡くなったように、完璧に偽装して殺していたわよ。あれでは誰も暗殺されたなんて気づかないでしょうね。恐ろしい子よねえ」
(事故に見せかけていたんだ。やっぱりアンナって抜け目がないわ。でも、恐ろしい子っていうけど、あなたも見た目はまだまだ子供じゃないの……)
「それはそうとして、あなた、お名前は?」
「アロウラよ」
「ふふ、アロウラか。いい名前ね」
「それはどうも」
「ねえアロウラ、新月の教団って知ってる?」
「最近流行ってる新興宗教団体でしょう? 名前を聞いたことはあるわ」
「だったら話が早いわ。私ね、一応教団の幹部なの。ねえ、あなたも私たちの教団に入らない? あなたなら教主のマテウス様に気に入られて、すぐに私みたいに幹部になれると思うの。なんなら、私から幹部に推薦してあげるわよ」
アロウラのことを気に入ったメローネは、彼女に新月の教団に参加するように促す。
「悪いけど、お断りね。私はあの子たちの面倒を見なくちゃいけないから、そんな暇はないの」
アロウラはメローネの申し出を拒否した。
「えー、あなたとはいいお友達になれそうだったんだけどなあ。まあいいわ。気が変わったら、教団の信者に声を掛けて、私の名前を言ってみて。すぐに私に話が伝わるようにしておくからさ。メローネよ。忘れないでね。あ、教団の信者はね、胸に黒い月のブローチをつけているから、すぐわかるよ。とりあえず、それを伝えたかったの。お話できてうれしかったわ、アロウラ。それじゃ、またね」
そう伝えると、メローネはアロウラに手を振って、その場から立ち去った。
(ウサギのお姉さんのアロウラか。かわいいなぁ……もふもふしたいなぁ……。うふふ、今日は挨拶だけだけど、次会った時は魔法で洗脳してでも仲間にしちゃおうっと)