アンナとクロウド
「ねえ、アンナ。本当にこの村を出るの?」
金髪の少年が不安そうに茶色の髪の少女に話しかけている。
「今更怖気付いたの? クロウド、大丈夫よ。あんたは私についてくればいいの」
アンナと呼ばれた少女はクロウドという少年を落ち着かせるように肩をたたく。
「みんなに気づかれると面倒だから、夜中に出るわよ。迎えにいくから、それまでに準備をしておきなさい」
「準備っていっても、僕、この村を出たことがないから……」
クロウドは相変わらず不安そうな表情でアンナを見つめている。
「仕方ないわね。私があんたの分も支度しておくから、あんたはすぐ出かけられるようにしておきなさいよ」
「ありがとう、アンナ。じゃあ夜中にまた会おうね」
(まったく、手がかかる子ねぇ……)
◇◇◇
新月の夜。すでに村に明かりはなく、静まり返っている。
「アンナ、僕怖いよ。暗いの苦手なんだ」
クロウドは、アンナの後ろで動かない。
「情けないこといわないの。ほら、さっさといくわよ」
アンナはクロウドの手を握ると、村の出口へと進んでいった。
二人が村の出口に着くと、白い仮面をつけた女性が待ち構えていた。
(大人の……お姉さんがいる!)
(ちっ、やっぱり気づかれたわね……)
「あらあら、どこへ行くのかしら? こんな時間に、デートなの? 村の掟を破るならお仕置きしなくちゃいけなくなるから、早くお家に帰りなさいな」
「その声は、アロウラでしょ。あなた、聞き耳を立てる癖、やめなさいよ。友達無くすわよ」
「あら、あなたは、アンナね。ということは、もう一人はクロウドかしら。ふふ、私は耳がいいから村中の音が自然と聞こえてしまうのよ。もう一度だけ言うわ。二人とも、早く家に戻りなさい。自分から戻らないなら私が強制的に戻すわよ」
アロウラは魔力で聴力を常に強化している。
それは彼女が里の上層部から、里内の監視という密命を受けているからだ。
「そうやってとぼけるのやめなさいよ。足音で私だって気づいてたでしょ。まあいいわ。力づくでも通ってやるから、止められると思うなら止めてみるといいわ」