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1話 追放された令嬢

始めまして。拙いなりに書き上げたのでぜひ読んでいってくれると嬉しいです。

細かい設定は徐々に明かしていくか、裏設定として存在するだけにするつもりなのでフィーリングで頭空っぽにして読んでください。

「ルル、火の番してくれ」

「わかりましたクラウドさん」


 パチっと弾ける木の枝をつつき風通しを良くして火を絶やさないようにする、火の番。ルルと呼ばれた短髪の少女は、クラウドという金髪の男性から太めの枝を受け取るとついつい軽くつつく。


「この先はどの方向に行こうか」

「大きい街に出て金稼ぎはどうだ? そろそろアイツをきちんとした風呂に入れてやりてえ」


 そう話し合うパーティメンバーを見つめながらぼんやりとしていると、横から人の気配を感じて振り向いた。


「あまりぼんやりしながら火の番をしていると火傷してしまいますよ」

「ララ」


 ルルが旅を始める前から世話になっている女性、ララ。

 微笑んだララはルルから半ば奪うように枝を受け取ると、交代とばかりに言わんばかりに火の様子を見出す。ふとララがルルに尋ねた。


「このパーティに入ったこと、後悔してます?」

「……ううん。後悔してたら冒険者になんてなってないもん」


 聞かれたルルは静かに首を横に振ると目を細めた。


「ずっとあの狭い箱庭にいて、今より酷い目にあってたはずだから」


 昔を懐かしむように、そう呟いた。






 ☆


 ☆


 ☆


 ☆


 ☆






 ダァン、と机の天板を力任せに叩いた鈍い音が部屋中に響き渡った。

 イライラしている、という顔を隠しもしない、この部屋の主人・アレクセイが自分の娘を睨みつける。


「一体どういうことなのか……私を納得させてくれる理由があるのであろうな?」


 苛立ち紛れに机の上に撒かれた書類たちを数枚拾って令嬢のルルーファスは軽く目を通した。それは全て王族から送られてきた、即時有効の王印まで押された婚約破棄の書状だった。


「……本日、王家の召喚士が異世界より勇者2名と聖女2名の計4名を召喚いたしました」

「そんなことは分かっとる」

「王太子殿下と勇者のお1人が……出会い頭に、その……一目惚れ同士と叫ばれまして、恋仲になられました」


 ダァンッ 

 ルルーファスの言葉に先ほどよりも強く天板が叩かれた。豪奢な椅子に腰掛ける当主は片手で額を覆うと忌々しげに顔を歪める。


「そう! そうだルルーファス。我が娘よ! なぜ貴様は王太子が衆道に走ろうとする時に是が非でも引き留めなかった?」

「引き留める、とは……」

「色仕掛けでも、無様に縋りついてでも止められただろう! なぜ他に目を、よりによって男なぞに目を向けさせたのだ!」


 女よりも男を好いた好色王太子、男などに負けた負け犬令嬢、と夜会や茶会でクスクス笑われているのは知っている。しかも厄介なことに、異世界出身だからなのか召喚された勇者は女のように子を産める体の構造をしていると王家専属医師団筆頭医師は言った。

 そうとくれば息子の恋路を応援するのは母の性とばかりに王妃からの嫌がらせが今日だけで執拗に行われた。


 妾や側女にでもいいから、お飾りの王妃で名ばかりでいいからと縋れば王城に置いてくれただろうかと思ったが、そこまでして恥を晒したくない。


「侯爵令嬢として、色仕掛けなどというはしたないまねはできかねます。お父様」

「ならばどうするというのだルルーファス。王家から婚約者の生家ということで援助金をもらって、我が家と領地は潤っているのだぞ」


 ルルーファスの実家クラフタル侯爵家は、領地で生産している生糸と織物で金銭を稼いでいる。だがそれだけではどこも資金不足だ。

 クラフタル侯爵家のあるテレバ王国はそこまで栄えているわけではない。国土は東西に広いものの、山間部が多く村むらでは農民が貧しく暮らしている。農民が貧しいと、つまりは領主も貧しい。そんな中でもクラフタル侯爵家はルルーファスが王家に嫁ぐということで援助金をもらい、他よりは潤っているのだ。


「穀潰しの領民どもを養えとお前はいつも五月蝿いがな、援助金がなければお前が大事にしている民草もあっという間に飢えて死ぬぞ」

「まずはお父様やお母様、お兄様が湯水のごとくお金を使うことを控えればよろしいのではないでしょうか。もっと言えば毎日のようになさっている宝石漁りに、毎週末ごとに職人を急がせて作らせているオーダーメイドの特注ドレスをやめてみるとか」

「金を使うな、だと? バカを言え!」


 どうやらアレクセイの地雷を踏んだようで、烈火の如く怒り出した。ただ事実を述べたまでだろうと冷めた目で見るルルーファスの背後からさらに厄介なことが舞い込んでくる。


「廊下にまで怒鳴り声が聞こえていますよ、あなた」

「おお可愛い妹よ、今度は一体どんな馬鹿なことをしてお父上の怒りを買ってしまったんだい」


 入ってきたのは、父親アレクセイのようにお金がじゃぶじゃぶ湧いて来るとでも思っている母親マリィアと、王家をまるで自分の財布みたいに扱い自分は優秀だと鼻にかけて努力を怠っている兄のマチルドだ。

 ルルーファスは家族の中でも特にこの2人が嫌いなのだ。何せこの2人ときたら全ての手柄を自分の成果として周囲に吹聴する癖して、何か1つでも間違いがあれば全責任をルルーファスに押し付けて知らぬふり。それが原因で迷惑を被ったことは一度や二度ではすまない。


 だからこそ、大嫌いなのだ。


「おお聞いておくれ愛しのマリー。可愛いマティ」


 仰々しい、芝居がかった口調でアレクセイは妻と息子を呼んだ。


「この家で一等不出来な娘にして出来損ないの妹はだね、こともあろうに王家からの婚約を破棄されてしまったのだよ」


 ルルーファスを小馬鹿にした口調は続く。


「王家からの援助金がないと、この家はたちまち立ち行かなくなってしまう。我が家の一大事だ! それだというのに、この娘は一家の大黒柱に向かって無駄遣いをやめろと言ってきたのだよ。我々の使う金にいっぺんの無駄もないというのにだ!」


 大袈裟な芝居はアレクセイの嘘泣きで締められる。マリィアとマチルドもアレクセイの全面的な味方なのは間違いない。今までの生活水準を覚えた3人はもう質を落として節約するなんてことできないだろう。

 ルルーファスが必死で説明しようとするもなしのつぶて。聞く気がない者にいくら弁解や弁明をしても無意味なのだ。


「我が父の采配によりお前は王太子の婚約者となって、我が領地は全て潤ったのだ。領民を飢えさせたのはお前だぞルルーファス。わかっているのか!」

「そうよ。そうでなければ領民は貧しいままでしたわ」


 マチルドの鋭いビンタに頰を張られ、ルルーファスの白い頰が赤く染まる。ギッと反射的に睨んだ妹に反抗心を感じ取ったマチルドは再び手を振りかぶる。


「やめなさいマティ。ルーファはただ王太子のご機嫌を取ることしかできないから、領地のことなど何も知らないんだわ」


 その手が振り下ろされる直前、マリィアに静止される。

 聖母のように柔らかく微笑んだ彼女は温かな視線をルルーファスに向けた。


「ねえルーファ。聞いてちょうだいな。あなたのお父様は一生懸命ご自身でもお金を工面なされて領地を経営なさっている名君ですよ。ルーファが毎日しているように、ただ王太子のご機嫌を取っていればいいってものではありません。王家からの婚約援助金があればお父様はどれほど助かることでしょう。あなたはね、ルーファ。愚かにもお父様に領地経営のことでいらぬ心労をかけ、お勤め先の城で酷い恥をかかせているのですよ」


 そのまま赤子をあやすように、駄々っ子を宥めるような口調で話し始める。

 だがルルーファスは知っていた。アレクセイが領地経営に一度も目を向けたことなどないことを。何せ領地関連の書類を全て仕上げ城へと報告しているのは他の誰でもないルルーファスだ。侯爵が領地経営に向いていないことや興味すらないことなどは城の誰もが知っている。

 それで笑われても自業自得だ。


「お父様が領地に足を運ばれたことなんて、ないじゃない。あっても数える程度だわ」

「憶測でものを言うのはもっとも愚かしいことよルーファ! お父様やわたくしや、あなたのお兄様が毎月のように馬車で出かけているのを知らないとは言わせません。領地へ赴き、領民に寄り添う良き領主であろうとなさっているお父様を侮辱することは控えなさい」


 それも嘘だ。

 領地にあるカントリーハウスを監督している執事は、少なくともルルーファスが大きくなってから領主を領地内で見たことがないと言っていた。彼は昔から仕え非常に良くしてくれる初老の執事で、ルルーファスも頼りにしている。


「毎月のようにお出かけなさる行き先はもうとっくに調べがついておりますわ。他家のお茶会に舞踏会、音楽鑑賞会に舞台観劇ばかりではないですか。それに参加する費用、着用するドレス、アクセサリーは毎回新品を購入するくせに、新しい農機具が欲しいという訴えは無視! 領民の嘆きには全く目を向けないではありませんか!」


 バンっと懐から出した書類の数々を家族の目の前に突きつけるルルーファス。

 すべて、領民から出た嘆願書や訴えばかりが代筆されている。


「農機具は高い。全ての民に行き渡らせるには金が足りないんだ」

「確かに全家庭に行き渡らせるには少なくとも200万円(金貨2枚)は必要ですわ。新品を購入なされば。中古品なら半額の100万円(金貨1枚)で済みます。粗悪品を掴まれない限り、ですが。早急に行き渡らせるにはそれしかありません。お金が貯まれば順次新品を購入して貸与しましょう」

「バカを言え。何十年とかかるだろう」


 歯噛みしたルルーファスはドンと天板を拳で叩いた。


「領地のあるアルケリア地方のカントリーハウスを管理してくださっているランド・スチュアートのロレンツォからの情報では、今年は特に春が遅かったせいもあって不作の年です。なんの対策もたっていないため民は困窮しきっていると!」

「その使用人はすでに解雇しているぞ。裏カジノなどに手を染めた愚か者だとハウス・スチュアートが教えてくれてな」


 ルルーファスが知っている情報などすでに自分も掴んでいるとばかりに、悠々と室内を歩くアレクセイ。彼が告げ口したハウス・スチュアートこそ裏カジノにハマっている張本人だとロレンツォは言っていて、ルルーファスも裏どりをしていた最中のことだった。

 そうアレクセイに訴えてもハウス・スチュアートを全面的に信頼しているのか全く聞く耳を貸さない。アレクセイの味方をするマリィアとマチルドも同様だ。


「そこまでこのハウス・スチュアートを疑うのなら実際に行ってその目で誠実さを確かめてきなさい。二度と帰ってこなくて構わないぞ」

「王太子に捨てられたとお前が笑い者になっていると、兄のわたしまで一緒に笑われてしまうのだ。領地で何がいけなかったかじっくり考えるんだな」

「そうですよ。わたくしも他の奥様方に招かれたお茶会で、必ずと言っていいほど槍玉に挙げられるのです。奥様方は直接お口にはされませんけどね。どれだけ肩身の狭い思いをしているか! 恥ずかしいったら」


 マリィアが口元を覆い隠すように扇を広げる。マチルドも見下すように睨みつけてきた。

 確かめてこさせる、という名の体の良い厄介払いだということに気が付いたルルーファスはどこまでも軽んじられて怒りを覚えたが、ギリギリと強く歯を食いしばってそれを押さえ込む。どれほどの暗愚であろうと令嬢である以上、家長には逆らうことができない。貴族の娘として、父には逆らえないよう幼少期から躾けられた。


 イヤイヤながら頭を下げたルルーファスは下がり、一夜を明かす。

 陽が出る寸前、詰め込まれるようにしてアレクセイの息がかかった使用人に馬車へと放り込まれた。唯一同行を申し出てくれてアレクセイからも許可をもらった側仕えの侍女1人とともに、領地へ向かう。

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