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10. エピローグ

 そうして私がグレンダールに嫁いできてから半年程経った頃。

 私は小説のように命を落とす事はなく、代わりにお腹に新たな命が宿っている事が分かった。

 事故か何かで――という不安もあったけれど、そんな事もなく、翌年無事に元気な男の子を産むことが出来た。


 長男はすくすくと育ち、その子が一歳を迎える少し前、第二子の妊娠が分かった。

 二人目は女の子だった。

 夫に愛されて、二人の子供に恵まれて、確かに幸せの真っただ中ではあるのだけれど、その時(・・・)が近づいているせいか、最近の私はとても夢見が悪かった。


 そんなある日、夜になって視察から戻ってきたルディに大事な話があるから、と呼ばれた。

 眠っている子供たちを侍女に任せて、ルディの部屋へ向かう。


 嫁いできて間もなく四年目になるこの時期に、視察から帰ってきたルディからの「大事な話」

 どくどくと、心臓がうるさい程に鳴っている。


「エミィ」


 部屋に入ると、ルディはいつも通り、私を抱き締めて口付けを贈ってくれる。


「ルディ……あの、話って……?」


 恐い、聞きたくない、と思うけれど、やはり気になって、結局自分からそう切り出してしまった。

 不安そうな顔をしてしまっていたのか、ルディは私の頬を包むように撫でる。


「今日、マリアという女に会った」


 頬を撫でられながら落とされた簡潔すぎるその一言に、私は一体どんな顔をしたのだろう。

 ルディは小さく苦笑を零すと、私の頬をぺちぺちと優しく叩く。


「それだけだ」

「……え?」

「確かに修道院で子供たちの面倒を見ている『マリア』という女に会ったが、それだけだ。ほとんど会話もしなかったし、惹かれる事もなかった」

「……ほんとう……?」

「何だ。俺の言う事が信じられないか?」

「い、いいえ……でも……」


 小説ではあんなに愛し合うマリアと出会ったのに、ちっとも惹かれなかった? ――本当に?

 拭い切れない不安に俯きそうになった顔は、けれどルディの手で上向かされる。


「そもそもエミィは死んでいない。俺は心に傷を負う事もなく、変わらず愛しい妻と、元気な子供に囲まれて、幸せの絶頂にいる」

「ルディ……」

「最近眠れていないのは、その『マリア』のせいだったんだろう?」


 まだ生後三ヶ月の娘が気になって、という言い訳は、完全なる嘘ではなかったけれど。

 ルディには気付かれていたのかと思うと、涙が滲んでくる。


「ルディ、私……私、ずっと不安で……ルディがマリアと出会ったら、捨てられてしまうのではないかしらって……」

「そんな訳があるか」


 溜め息を落として、ルディが私の頬を軽く抓む。


「っ……ルディと、一緒にいたいの。ルディと、子供たちと、ずっと、一緒に……」

「エミィが逃げたいと言っても、逃がす気などない」


 ルディは私の両頬をぺちんっと叩いてから、ぐっと力を込めた。


「いいか。俺が愛しているのは、お前だけだ。他の女を見る気もないし、お前を逃がす気もない」

「ルディ……」

「何があろうと、俺の妻はエミーリア唯一人だ――分かったな」


 ぽろぽろと零れた涙を拭われて、噛み付くような口付けが降ってくる。


「ん……ルディ……っ」


 離れたかと思ったらまた重なって、今度は舌を絡められる。

 身体を労れと、ここ数か月ルディとは軽く触れる程度の口付けしか交わしていなかった。

 だから久しぶりとなる濃厚な口付けに、私はふらりとルディに寄り掛かってしまう。


「エミィ、大事な話の続きだ」

「きゃっ!?」


 突然抱き上げられて、そうしてルディの寝台へと運ばれる。


「ルディ……?」

「不安を募らせる妻の為に、どうすれば良いかと考えた。出会っていないと嘘をつくことも考えたが、隠すのも違うだろう?」


 戸惑いながらも、小さく頷く。


「そうなるとやはり一つしかない。俺が愛しているのはエミィだと、しっかり分からせれば良い」

「……あ、あの」

「三月経ったが、体調はどうだ?」

「え、えぇ……もう大分……」


 この先の展開が、分かった。

 分かったし、そろそろ良いかしらと思っていなかった事もないし、医師からもそろそろ良いでしょう、とお許しが出ているけれど――


 何故かしら。

 ものすごく、逃げたい。


 思わずずり、と後退ってしまった私の腰をルディが抱き寄せる。


「ル、ディ……」

「エミィ、愛している」

「わ、わたし、も……あっ」


 くるんと視界が回って、見慣れ過ぎた寝台の天蓋と、覆い被さって来るルディが映る。


「エミィ、俺は明日休みを取る事にした。子守についても、乳母と侍女にも伝えてある」

「え」


 いつの間に、と思っている間に唇を塞がれる。


「んっ……」

 

 絡めていた舌を解いて、濡れているのであろう私の唇を舐めたルディが身体を起こす。


「さて、エミィ。俺が愛しているのは誰か、今宵一晩かけて、じっくり教えてやろう」


 そう言ってルディは、自分の唇を――先ほどの口付けで濡れた唇を、ぺろりと舐めてみせた。



 ルディも鬼ではないので、一晩中抱き続けるという事はしなかった。

 けれど全て俺の物だと印をつけるように、その想いを刻むように、それはもうたっぷりと時間をかけて舌と指で全身余すところなく撫でられて、湯浴みの時に久しぶりに侍女ににやにやと笑われてしまったくらいに、あちらこちらに痕を残された。

 確かにこの晩、私は一晩かけて、ねっとり、じっくり、しっかりと、夫の愛を教え込まれた――




 結局私はその後も命を落とす事もルディに愛想をつかされる事もなく、ルディはマリアと会う事すらなかったようで、

 最終的には四人の子供に恵まれて、グレンダール王妃として多忙ながらも愛する家族に囲まれて幸せに暮らすのでした。




 ~ Fin. ~


お読みくださいましてありがとうございました(。ᵕᴗᵕ。)

前世意識がぽんっと覚醒して、転生してるんだけど本人ちっともワケが分からないとこから始まるお話が書いてみたくてこうなりました。

前世の意識が強くなるとか完全にもっていかれてしまうのではなく、仲良く混ざり合って、

あくまでエミーリアはエミーリアのまま強くなって欲しいな、と。

色々と筆力不足ではありますが、楽しんで頂けたなら嬉しいです♡



少しでもお気に召して頂けましたら、↓の☆を★に変えて頂けますと嬉しいです。

よろしくお願いします。

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