第1話 嵐の前の
ほんの出来心だった。
天気予報が外れたから。
朝やっていた占いが2位だったから。
駅前に新しく出来たパン屋さんの存在。
早い話、浮かれていたのだ。
学生時代に滅多にしない一目惚れをして、内面を知りもっと好きになって、一緒にいればいるほど欲しくて欲しくて、こんなに人に夢中になれるのかと思うほど大好きになれた人と昨日やっと夫婦になれたのだから。
ーーユウは家にいてくれるだけでいいです。ーー
彼、アキが私に言った言葉。
働くより自分が帰宅した時に出迎えてくれる方が嬉しいから。
お金なら俺がその分稼ぎますから、とパートすらやんわり断られてしまった。
「晩ご飯の準備までまだ時間あるし、パン屋さんまでお散歩しに行こうっと」
アキくんが買ってくれたバッグにお気に入りの財布を入れて玄関へ向かいドアを開ける。
ーあぁ、良い天気。
全世界が私を祝福しているように見えた。
世界で一番、この瞬間、自分が幸せなんだと。
雨予報だったはずのこの天気も、靴擦れが治って可愛いヒールが履けるようになったのも、今通り過ぎたおじさんだって、みんなみんな私を祝福しているように思えた。
早い話、浮かれていたのだ。