序章
「ななみ、そろそろいくわよ。」
「お母さん私のリボン見なかった?」
「見てないわよ」
僕のかぞくのあさはいつもあわただしい。
「ママ!きいて!きょうゆめでね」
「ごめん、今忙しいから」
「お母さん。早く」
「はいはい、待って」
「ママ、きょうゆめでね」
「うるさいってば、後にして」
あとにいってもきいてくれないくせに。
まいあさこのやりとりがおこわれる、僕のいえ。
ぼくはいつもあとまわし、でもだいじょうぶ!
ほんとうはぼくのことすきなのもしってる。
だいじょうぶ。
ぼくはそういうときはまいにちこのほんをよむ。
ぼくのことがすきなママ
ママはぼくのことがすき。
ぼくのママはやさしい。よるはいっしょにねてくれる。 ひるはあそんでくれる。
「ママ、あそぼ?」
「今忙しいから」
「ママいっしょにねよう?」
「お仕事あるから」
「ママ……」
「うるさい」
ぼくのママのよるごはんはおいしい。
「ごめんね、ななみの塾の送り向かい行かないといけなくて。夜ご飯作ったから先食べといて」
「わかった!」
このほんのおはなしとはすこしちがうけど、ぼくのママも僕のことをあいしてくれている。おもちゃはかってくれるし、ようちえんのむかえもきてくれる。
大丈夫……大丈夫……
次の日
「ママきょうそとでにあそびたいんだけど」
「ごめんね、ママ今忙しいから一人で遊んで」
「お母さーん」
「はーい、今行く」
大丈夫、いまはおねちゃんおにいちゃんがじゅけん?らしいから、たいへんらしいから、ぼくいいこだからがまんできるよ。こうえんでボール遊びしよう。
こうえんいったらなにであそぼうかな、ともだちいるかな……
トコトコトコ……
ブーン
いえかえったら、あそんでくれるかなママ
トコトコトコ……
ブーン——
プップー!
うん?
ドーン
ピーポーピーポー
うっ、なんかからだいたいな
どこだろうここ。
めをあけるとぼくはそらをとんでた。
「わあー!おそらとんでるぼく。すごいなー!あははは〜。そうだ!ぼくのいえいってみよっと!ふーんふー。んそらとぶのってたのしいなー」
ぼくのいえどこかなー……
あれ、なんかしらないきのおきものがある。
あ!ぼくのしゃしんだ!あんなのなかったのに、かったのかな。
「やぁー僕」
「うわ!びっくりした!おにいさんとおねえさんだれ?」
「お兄さんとおねえさんは、天使さんだよ。」
「てんし?あ!ほんでよんだことあるよ。とりみたいなはねがあるだよね!」
「そうよ!君の名前聞いてもいいかな?」
「いいよ!ぼくのなまえはぼくっていうの。」
ギュ——。
ツー。
どうしたの?てんしのおにいさん。おててからちでてるよ?
「なんでもないよ!おねえさんの友達にそのお名前いっぱいいて覚えられないから、別のおなまえで呼んでもいいかな?」
「うん!いいよ!」
「じゃ——愛大は?」
「いいよ!かっこいい!」
「ありがとう。愛大くんは今から遠いところに行かなきゃいけないんだ。」
「え、ぼくやだ。」
「でもそのままだと、テレビもお外で遊ぶこともできなくなっちゃうよ?」
「そうなの?それはやだな……じゃーぼくいく。」
「愛大くんは偉いわね?」
「じゃーこっちにおいで。この光のトンネルをくぐったら、テレビを見れるようになるわ。」
「うん!わかった!」
トコトコ——
「あっ!最後に、ママ、パパって呼んでくれないかな?」
「へんなの、いいよ!」
ありがとうママ!パパ!またね!
うん、また……まなと
パパとママ。仇はうつから……
「ななみ、準備はできた?」
「うん。できたー」
「じゃー行くわよ学校。」
「はーい。」
ブーン——
「はぁー、せいせいした。ほんと私の子でもないのになんでお世話しなきゃいけなかったのか。よかったわ。」
「そんなこと言わないでよ、お母さんの親友の子だからって。」
「まぁーよかった。でも、まさかあなたを送る途中であの子を轢いちゃうなんて思わなかったわ。警察にバレてないし。」
ブーーーン
「なんか、スピード出し過ぎじゃない?お母さん。」
そっそうね。キューブレーキを……
ドン。
ブーーーン
ドン。
ブーーーーン
「あれ、なんかきかなくて……」
「お母さん?!前!」
ププー!ドーン。
今日のニュースです。
今日の朝、学校に向かう途中と思われる車とトラックが衝突する事故が発生しました。トラックに乗車していた男性は命に別状ありませんが、学校に向かう途中と思われる車に乗っていた女性二人はなくなりました。
「ママ!パパ!早く早く!」
「待って、愛大。」
「そんなにいそぐな、まだ時間はたっぷりあるぞ。」
「うふふ。ママ、パパ。ぼくね、生まれる前の時覚えてるんだ。その時まだママとパパはぼくのママとパパじゃなくて天使さんだったんだ。」