098_秘密特訓と青い月
「さて、みんな寝静まった頃かな。」
「すやすや…コンヨウさん…『甘納芋』はおやつに入りませんよね?…すやすや…」
時は深夜0時くらい。パフィさんがなんか幸せそうな夢を見ながら寝言を呟く中、僕はこっそりと布団から起き上がる。
大体日の入りが8時くらいで、僕は3時間寝れば十分だから、この時間に一度目が覚めちゃうんだよね。
いつもなら二度寝するところなんだけど、今日はやりたい事があったので内緒で家を抜け出す事にした。
抜き足差し足……
「コンヨウさ~ん…ダメですよ~…そこはふかし芋じゃなくて干し芋です~。」
……パフィさん、一体どんな夢見てるんだろう。間違いなく食べ物の夢だろうけど。
「コンヨウさん!…なんでラクスさんと一緒にお布団の中にいるんですか!!」
一体どんな夢見てんだよ!!こっちがツッコミ入れられないからって!!
「…ぼくも一緒にお昼寝します…まったく!ぼくがお仕事してる間に女の子とお昼寝とは優雅な身分ですね!!…むにゃむにゃ。」
良かった~、僕がロリコンの変態野郎になってなくて。でも夢の中の僕って怠け者なのかな?それになんでラクスさんがいるの?
色々おかしいなぁ~。だいたい倒れた時とか以外パフィさんには眠ってるとこ見られた事無いんだけどな~。
さて、パフィさんは完全に寝ているみたいだし、抜き足差し足忍び足…と。
……無事に家を抜け出してやって来たのは集落から少し離れた森の中。
さて、誰もいないのを確認…よし、問題ないね。では始めますかな。
「『食物生成(石焼き芋)』『調理工程の詳細設定』『調理進捗0%焼石準備済み』『紅音姫』っと。」
僕がスキルを発動させると生の『紅音姫』と一緒にアツアツに焼けた小さ目の石が一杯に詰まった鉄鍋と火箸が出て来る。
う~ん、サツマイモ1本に対して石が1~2キロって所か。僕は右手に持った『紅音姫』を焼石の中に放り込みゆっくりと調理を始める。
石は冷めないみたいだし、温度は焼き芋に最適な比較的低温(それでも触れば火傷するけど)、調理時間は1時間くらいかな。
さて、次は……
「『食物生成(茹で芋)』『調理工程の詳細設定』『調理進捗0%熱湯準備済み』『生成場所指定』『鳴子銀時』。」
再びスキルを発動させると生の『鳴子銀時』と寸胴に入った熱湯と菜箸が出て来る。今度は生成場所指定で手元にサツマイモを、僕より3メートル程離れた場所に寸胴を生成してみた。
どうやら個別に生成場所を設定できるみたいだね。寸胴のお湯はだいたい2リットルくらいかな。ふつふつと静かに沸いてるね。そこに手元の『鳴子銀時』をシュ~~~ト!!超!エキサティ~~ン!!
さて、これは何の検証かと言うと…
「こんな所で何をしてるんだい?コンヨウ君。」
おっと、お客さんみたいだ。この声は、
「こんばんわ、ドクさん。そろそろ来る頃だと思ってましたよ。今日は茹で芋でいいですか?」
「はぁ~、私は君と違って成長期じゃないからね。出来ればこんな時間に食べたくないのだが。」
「まぁ、そう言わずに。あと20分くらいで茹で上がりますのでその間にお話でもしましょう。」
「…分かったよ。隣、失礼するよ。」
そう言って、ドクさんは僕の隣に腰かけながら、穏やかに呟くように話を切り出す。
「今日は三日月だけど、それはそれでなかなか趣があるね。」
「そうですね。言われるまで気づきませんでしたけど、僕って青い月が好きなんですよね。」
僕とドクさんが空を見上げるとそこには薄い雲に隠れたうっすらと光る青い三日月が浮かんでいた。
あの控えめだけど優しく地上を照らす青い光が僕は好きだ。僕が柄にもなく穏やかな表情で月を眺めていると、
「コンヨウ君。こんな夜中に何をしていたんだね?まさか小腹が空いたからこっそり焼き芋を作ってました、と言うわけじゃないだろう?」
「そうですね。パフィさんに取られそうだから外に出てました、って言っても信用して貰えないでしょうね。」
「ところでお芋の茹で具合は大丈夫なのかね?」
「あと10分くらいです。僕が何の検証をしていたのかはドクさんなら察しがつくんじゃないんですか?」
「まぁ、だいたいはね。でも君は自分で話したいんだろう。だから私にだけ気づかれる様にこんなところまでわざわざ来たんだろう?」
ドクさんの指摘に僕は降参とばかりに両手を上げながら肯定の意を示す。
「仰る通りです。僕が今、検証している事ははっきり言って相当ヤバいです。それこそ『芋文』や『スキル強化芋』なんか目じゃないくらいに。」
「やはりか…検証を辞めるという選択肢は?」
「ありません。自衛手段は一つでも多いに越した事はありませんから。」
「では何故堂々とみんなの前で検証しないんだね?」
この質問に僕は少し考えこむ。そして出した結論は、
「単純に僕が臆病だからでしょうね。今回の検証が僕の想定通りなら、僕は間違いなくぶっちぎりの危険人物です。
多分僕は、みんなに怖がられるのが怖いんでしょう。」
「では、やはり検証を辞めてはどうだね?君にはパフィさんやバックルさんを始め、集落のみんなと言う心強い仲間がいるのだから。」
「…少し冷えてきましてね。今、火を起こしますね。」
僕はドクさんの問いに答えるまでの時間が欲しくて、ほんの少しだけ話を逸らす。
ちなみに今僕は火起こしの道具は一切持っていない。
「『食物生成(焚火焼き芋)』『調理工程の詳細設定』『調理進捗0%焚火準備済み』『生成場所指定』『ノンブランド』。」
僕は三度スキルを使用。僕とドクさんの目の前に焚火が出来、僕の手元には火箸と濡れた紙に包まれた『ノンブランド』サツマイモが生成される。
パチパチと燃える火を目の前にドクさんは思わずため息を吐く。
「はぁ~、これが君の答えと言うわけだね。」
「はい、僕の危険性を十分に理解してもらえたと思います。」
せっかく生成したけど、この『ノンブランド』サツマイモについては牛さん行きだね。僕にアルミホイル無しで焼き芋を上手に焼くスキルは無いし、何より石焼き芋も控えている。
「…これは確かに脅威だね。ではさっきの質問に戻るよ。君はこんなスキルに頼らずに集落のみんなに守って貰えばいいのではないかね。
この際はっきり言っておくけど、これは君の言うギブアンドテイクの信条に反する事じゃないよ。
私達は君にそうするだけの大きな借りがあるのだから。」
ドクさん、わざわざ僕に合わせて言葉を選んでくれたみたいだけど、ちょっと論点がズレてる気がするなぁ。
僕はこんな時まで貸し借りを持ち出す気はない。それに僕はそんなつもりでこのスキルを検証してるわけじゃない。
「ドクさん、お気持ちはありがたいですけど、そういう訳にはいかないんです。」
「どうしてだね?」
「このまま僕が無力で居続けるという事は、パフィさんを永遠に僕に縛り付けるという事ですから。」
「……」
「今日、バン君の牧場のお手伝いをしたんですけど、今あの牧場ってバン君だけなんですよね。」
「…そうだね。」
「バン君は僕がこの村に来て、体調が悪かった最初の数日を除いたらほとんど休んでいない。たった11歳の子供がですよ。」
「それは…その通りだね。」
「今回のプラム村の住人の受け入れの話だって、そういった事への対策の一環だったんですよね。」
「あぁ。他にも色々あるけど、一番の理由はそれだね。」
「でも僕の護衛はパフィさんしかいない。僕は…パフィさんにもっと自由であって欲しい。」
「コンヨウ君、そろそろお芋がゆで上がったんじゃないかね?」
この時僕は話に集中する余り、茹で芋の存在を失念している事に気づいた。
僕は菜箸でお芋を引き上げてから少し冷まし、それをドクさんに渡す。
「なぁ、コンヨウ君。私にはパフィさんが不自由なようには見えないのだが。」
「それは彼女がまだまだヒヨコだからです。彼女が初めて卵の殻から出て、初めて見た動くものが僕だったというだけです。
そう遠くない未来に彼女は成長し、独り立ちします。その時僕が無力だったらどうなりますか?
優しい彼女の事だから、きっと僕を見捨てたりしないでしょう。そうやって彼女を縛り付けるなんて僕は御免です。」
「…君は何かに縛り付けられた事があるんだね。」
「!!!」
ドクさんの全てを見透かした様な一言に僕はハッとなる。
そんな僕の事なんてお構いなしにドクさんは話を切り替える。
「所でこんな大事な事をどうして私だけに教えようと思ったんだね?」
「…理由は2つです。まず隠しても絶対にバレる事。」
「確かにそうだね。」
「もう一つはあなたがこの集落の中で一番正しい人だからです。」
「…いまいちよく分からないな。この集落の住人は基本的に善人ばかりだけど。」
「いえ、あなたはみんなを生かす為なら手を汚す事もできます。そういう正しさを持ってます。」
「それは誉め言葉として受け取っていいんだよね。」
「はい、僕が一番信用しているのはパフィさんですけど、一番信頼しているのはドクさんですから。」
「君が何か間違いを起こしそうになった時は止めろ、っという事でいいのかな。」
「はい、その時は宜しくお願いします。」
僕の視線を受けたドクさんが頭を振りながら応じる。
「分かったよ。願わくばそんな日が来ない事を祈るよ。それじゃ私は失礼する。お芋は帰り道に食べさせてもらうとしよう。」
そう言いながら腰を持ち上げるドクさん。そして背中越しに一言こちらに言葉を投げかける。
「君は一度、パフィさんとしっかり話した方がいいと思うよ。彼女はもう殻を被ったままのヒヨコじゃないのだから。」
「………」
そしてドクさんはそのまま返事を待たずに歩き出した。
そろそろ石焼き芋が焼けた頃合いだろう。
火箸で芋の焼き加減を確かめながら見上げる月はやっぱり少し雲に隠れていた。




