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097_見落としていた危機

「明日ナプールに行くんですけど、お土産何がいいですか?ミル様~。」


「なんなん?そのフリ。それって絶対にウチのスキルあてにしてるやろ。」


「やっぱり分かりますよね…」


緊急会議の次の日の事、僕らはカウズ一家の家にお邪魔している。

そして揉み手全開でミル様に媚びを売ってるわけだけど、やっぱり目論見はバレバレみたい。僕は今、ちょっと困った事態に陥っている。乳製品不足だ。

だって、洋菓子系のスイーツは大体乳製品が必要になるし、サツマイモ料理は牛乳とか乳製品と相性がいいモノが多いからガンガン使ってしまう。

気付けば乳製品の消費が生産を上回る状態に…これは色々とヤバい。牛乳の生産量は早々増やせないので、ナプールで牛乳を買ってそれを加工して貰おうと思ったんだけど、やっぱりミル様の許可が必要だ。

僕の打算全開の素敵な笑顔にミル様とパフィさんの目が冷たい。


「いやぁ~、いつもお世話になっているミル様に少しでもお礼がしたいと思っている次第で、決して下心など。」


「そうでしょうね。もう、下衆い思惑が前面に出まくってるから下心とも呼べませんもんね。」


「ウチ、ここまで欲望に忠実な子初めて見ましたわ。」


あれ、二人が警戒しまくってるせいで話が進まないぞ。焼き芋で買収は…と思ったけど今ミルさん、エレフさんが作ったお芋アイス食べてる最中だ。

めっちゃ美味そうに食べてるんだけど、そんな高カロリー食品を食べてすぐゴロゴロしたら太っちゃいますよ。これは一仕事しないとですね。げへへ。


「コンヨウはん。言っときますけど、ウチのスキルって結構カロリー消費するんよ。この程度じゃむしろ足らんくらいですわ。」


「コンヨウさん。発想が失礼な上にクズですよね。ミルさんみたいな超絶美人さんが太るわけないじゃないですか。」


「いや、僕なにも言ってないけど…」


「………」×2


いや、確かに思ったけど、心を読んで有罪に持っていくのやめてくれるかな!日本の法律でも思うだけじゃ犯罪じゃないんだよ。

思うだけで犯罪だったら日本国民一人もシャバに立っていられなくなるよね。誰でもムカつく奴をコロコロしたいと思った事くらいあるんだから。

つまり僕は無罪!これはノーカウントだ!ノーカン!ノーカン!え、話進めろって。分かりましたよ。


「すみません。ミル様が超絶美人だったとは知らずに失礼な事を思ってしまって。」


「今の発言、3重くらいに失礼ですわ。」


「コンヨウさん。だからあなたはモテないんですよ。」


「コラッ!パフィさん、人が気にしている事を!」


等と僕らがグダグダと益体も無い話をしていると、


…バタン!!!


「ちょっと!オカン!何さぼっとるんや!今日の草刈り、オカンの番やろ!」


「ひぃ!」


勢い良く扉が開くと同時にカウズ一家の長男にして酪農少年のバン君が登場した。

どうやらミルさんは仕事をさぼって優雅におやつタイムを楽しんでいたようだ。

その事実に僕とパフィさんの視線が一気に冷たいモノに変化する。


「いやぁ~…これは、ちょっと仕事の合間の休憩なんですわ…ホンマでっせ。」


「オカン…今日、いつ仕事した?」


「午前中、乳製品作りましたわ。」


「それ以外は…」


「……ホンマすみません。」


「今からやる事は?」


「草刈りいってきますわ。」


「ミルさん…手伝いましょうか?」


「ぼくも手伝います。」


「コンヨウはん、パフィちゃん、おおきに…」


こうして僕らはミルさんの尻ぬぐいをする事となった。

バン君は物凄い呆れた表情をしていたけど、ミルさん一人に任せるよりは安心という事で了承してくれた。

歩く事暫し、やって来たのは牛さんが食べる牧草を刈り取る為の草原。


「結構範囲広いね。これ全部刈るの?」


「これでも半分や。オレが午前中に刈った分もあるさかい。ホンマはオカンも刈ってもう終わっとるはずやったんやけど。」


「……」×2


「ホンマ、すみません。」


「はぁ~…オカンは美人やさかい、みんなすぐに甘やかすからあかんのや。まともに怒れるのがオレとコンヨウ兄ちゃんだけやもんな。」


「最近は『乳製品加工』スキルのせいでコンヨウさんもまともに怒らないですけどね。」


「ホンマ、困ったもんや。コンヨウ兄ちゃんももっとオカンにはビシバシやってえぇんやで。」


「ちょ!バン君!余計な事言わんでも!」


「オカン!ちょっと黙りぃや!」


「ひぃ~!」


なんか家庭内のヒエラルキーを見せつけられた気分だなぁ~。

おそらくカウズ一家のトップはバン君なんだろう。その下にぐうたらオカンでその下に妻に激甘のダメ夫でその下に憐れな兄弟なのかな?

もしかしたら子供全員の方が親よりピラミッドの上にいるかも。これは交渉相手を変更した方が良さそうだな。


「えっと、バン君。お願いがあるんだけど。」


「なんや、コンヨウ兄ちゃん。」


「実は…」


ここで僕は、牛乳と乳製品の生産量を増やしたいと相談してみる。


「…せやな~。当面はナプールで買って来た牛乳で何とかするとして、牧場の拡張と牛さんの購入も考えんとな。」


「ちょっと!そんな事したらウチがエライ目に「オカンは黙っとりぃや。」ひぃ!!」


うわぁ~。ミルさん、すっかりバン君に飼いならされてるなぁ~。

でもバン君は前向きに検討してくれるみたいだね。そんなしっかりした少年牧場主に僕が一つ提案。


「じゃあ今度、バン君も街に行ってみない。牛さんや牛乳の購入にしても牛を良く知っているバン君がいれば心強いし。」


ここでバン君は渋い顔をする。


「う~ん、気持ちはありがたいけど、オレはパスや。今、牛さんの事任せられる人間が集落におらへん。」


僕はこの一言に思わず言葉を失う。そうだ、この集落で酪農系のスキル持ちで且つ牛さんの事を全部出来るのはバン君だけだ。

牧場に関しては完全にワンオペ体制だ。一応、集落の人達が手伝ってはくれているけど、出来ない事もあるので完全にバン君が離れるわけにはいかない。

これが僕らがこの集落に来た時からだから、かれこれ2ヶ月この状態が続いているんだ。これはかなり危険だ。

もしかしてプラム村の人達の受け入れを決めたのもこういう部分を解消する為だったりするのかもしれない。

僕は目先の危険にばっかり目が向いて、潜在的な危機が見えていなかったみたいだ。なんだかんだ言って僕もやっぱりガキって事なんだね。


「バン君。取り敢えず牛さんの購入はもう少し先にしようか。それから何か困った事があったらいつでも相談してね。」


「さよか。そりゃおおきに…じゃあ取り敢えずオカンを働かせる所からよろしゅう。」


「了解。さぁ、ミルさん!ビシバシ働きますよ!」


「うわぁ~~~~~ん!!二人とも鬼や~~~~~~~~!!」


「ミルさん…自業自得です。」


こうして僕に尻を叩かれキリキリ働かされるミルさんと、それを遠巻きに見ながら黙々と働くパフィさんとバン君。

こんな感じで草刈りを進める事小一時間。流石に人数も多いだけあって意外と簡単に終わった。

刈り取った草を纏めていると、バン君が僕に遠慮がちに声を掛けて来る。


「あんなぁ~…コンヨウ兄ちゃん…さっきいつでも相談してもえぇって言ったよな。」


「うん?何か困りごと?」


「いやなぁ。オレは別に牛さんの事好きやさかい、ええんやけど、ルクが働き詰めでなぁ。」


「あっ!」


そうだった。バン君の妹の保存スキル持ちの少女ルクちゃんもかなり働き詰めだった。

『スイートポテト』とか村の食べ物とかの『殺菌・防腐』はルクちゃん一人しか出来ないんだ。

一応お給金は払っているけど、こちらもほぼ休みなしだから、かなり危ない。

幸い、明日はスイートポテトにスキルを使い終わればある程度自由が利くけど。

このタイミングでバン君が相談してきたって事はつまり…


「明日、ルクをナプールに連れて行って息抜きさせてやって欲しいんや。アイツ、オトンの盾の提案した時からちょっと頑張り過ぎやさかい。」


「うん、分かったよ。スキルのお仕事についてはこっちで調整しておくから、ルクちゃんに話しておいてくれるかな。」


「おおきにな。コンヨウ兄ちゃん。」


こうして妹想いの兄の提案により、明日のナプールお芋販売にはカウズ一家の長女ルクちゃんも同行する事となった。

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