084_お嬢様の悪い癖
「では、クズミ様とついでにその他大勢。この辺でお暇します。貴重なお話をありがとうございました。」
「今日はありがとうございました。また来ますね。」
「なんのなんの、2人とも。いつでも来るといいぞぃ。」
「またね。コンヨウ君、パフィちゃん。」
「またね~、パフィお姉さん。ついでにコンヨウ兄ちゃんも。」
こうして僕とパフィさんは今後の話を終え、一部ギスギスした空気を残しながら孤児院を後にした。
あのクマのガキ、やたら僕に突っかかってくるけどどうしてかな?なんかパフィさんに必要以上に引っ付いてウザイから雑に扱ってるだけなのに。ガキの考える事はよく分からないね。
まぁ、色々有意義な話が出来たし良しとしよう。
さて、次は『ラビアンローズ』だな。
ラビリさんは新たにラビリ商会を立ち上げるにあたって、まずはこの『ラビアンローズ』の売り上げを元手にして、その後商売を拡大する予定らしい。
今までラビリさんが拠点にしていたコービット商会本店はあくまでもコービット商会のモノで父親のコービットさんの体調が快復するまでの仮拠点のようなものだったからね。
早速僕とパフィさんは、堂々と当然の様に裏口から店長室へと向かう。
「いらっしゃいませ。来ると思っておりましたわ。」
「いらっしゃいませ。先日はお世話になりました。」
店長室に入ると本来店長が座るべき椅子にラビリさんが、そしてはす向かいの席にヒヨリさんが忙しそうに書類と格闘していた。
「すみません。お忙しかったですか?」
「誰のせいだと思っておりますの!」
「さぁ~、少なくとも僕のせいじゃありませんよね。ズンダダを潰したのはゼブラさんとドクさん達ですし。」
「凄いです、コンヨウさん。よくもぬけぬけとそんな事言えますよね。」
「まったく、これだけ図太い護衛対象だとパフィさんも苦労されるでしょう。」
「はい、分かってくれますか。ヒヨリさん。」
「えぇ、ウチにも世話の焼ける上司がおりますので。」
「……」×2
僕とラビリさんはちょっと軽口を言い合ってただけなのに、なんか凄い責められてるんですけど。
ラビリさんはラビリさんで僕に対して、お前のせいで怒られたじゃないか、みたいな目を向けて来るし。ではそんな3人を無視して話を切り出しますかね。
「今日は一旦集落に戻りますのでそのご挨拶と色々雑事の報告ですね。」
「あなたは雑事で片づけますけど、そのせいでこっちは忙しい目にあってるんですのよ。」
ラビリさんが色々と往生際悪く物言いをしてくるけど、まるっと無視だね。
まずは『ゴージャスずんだ』にいた真面目なウェイターネズミ獣人のチュウジさんとクッキーを焼いたパティシエさん(いけね、名前聞いてなかった)と態度の悪い地雷店員の話をする。
さっき『ゴージャスずんだ』の様子をチラ見してきたけど、臨時休業みたいだったし。話終えた後のラビリさんとヒヨリさん達の反応はと言えば、
「呆れた。あなた、あの時そんな事をしていましたの?」
「確かにライバル店が無くなればこちらは忙しくなるから助かりますけど、どうしてそこまでやって頂けるのですか?」
と言うような質問がヒヨリさんから飛んできた。まぁ、確かにお節介が過ぎる気もするけど、こちらにも事情があるからね。そう、大豆製品による地球のレシピ再現への第一歩がね。
「実は、ちょっとわけあって『スイートポテト』が搬入できなくなりそうなんですよ。
ですのでこちらで直接作って貰おうと思いまして。」
「例の大豆の件ですわよね。それで取り敢えず人手の確保を、と言うわけですか?」
「はい。」
「それはつまり…『スイートポテト』のレシピをお売りして頂けるって事ですの?」
「いえ、無償でお譲り致します…その代わり…」
「なんですか?あなたの交換条件って怖いんですけど。」
僕がただでモノをやると言った瞬間、なんかラビリさんが物凄い勢いで身構え始めた。
なんかヒヨリさんは苦笑いしてるし、パフィさんはまた天変地異の前触れみたいな顔してるし。
君達、いい加減失礼じゃないかな。僕はちゃんと天秤が釣り合う要求しかした事がないのに。
もういい、話を進めよう。
「分かってますよね、ヤホー先「おっと、次にその呼び方で私を呼んだらその口を縫い付けますわよ。」」
あれ?おかしいなぁ~。ゴーグレ先生がお気に召さなかったみたいだから今度はヤホー先生と呼んでみたらやっぱり拒否られた。
ブラウザの違いで拒否ってたわけじゃないのか?まったくわがままな。でも本気で不快みたいだからこれ以上は言わない方向で。
「ラビリさんにはその素敵スキルを使って、僕が欲しい情報を探して欲しいんですよ。ほら、この前のテングサみたいな感じで。」
「この人、あれだけ睨み付けたのにスルーしやがりましたわよ。」
「お嬢様の威圧を無視できる人ってなかなかに稀有ですよね。」
「ガクブルガクブル。」
「ラビリさんがあんまりふざけるからパフィさんが怒りで震えてるじゃないですか。ほら、誤って(誤字にあらず)下さい。」
「こいつ…どこまで図太いのかしら。」
「お嬢様、言葉が乱れておりますよ。」
まったく、僕は必死で進行をしてるって言うのにわがままお嬢さんのせいで話が進まないな。
あれ?なんかみんなの目が冷たくなってきた気がするけど…はい、そろそろ本題に入ります。
「それで、僕が欲しい食材をラビリさんに探して貰ってそれを元に色々レシピを開発していこうと思います。
そして完成品は『ラビアンローズ』等で再現して貰って、販売して貰えばラビリさんの利益にもなります。」
「…それってあなた達にはどんな利益がありますの?」
僕の提案に何故か頭痛がしたようにこめかみを抑えながら話すラビリさん。
まぁ、金銭的な利益は余りないから商人としては無理のない反応だね。
「こちらの利益としては、食文化が豊かになる事ですね。
実はウチってこの間まで餓死寸前の崩壊一歩手前の集落だったんですよ。
だから安定して食料を供給してくれる商会と懇意に出来るって言うのはそれだけで大きな利益なんですよね。」
「言っておきますけど、商売である以上無償で商品を渡したりはしませんわよ。」
「当然です。と言ってもウチはサツマイモとかモンスター素材とかありますから、お金を稼ごうと思えばいくらでもやりようはありますけどね。」
「そうでしたわね…」
あれ?ラビリさんがヒヨリさんの方に視線を向けながら何か話しづらそうにしてるな。
…あっ!そう言えばヒヨリさんに僕のスキル明かしてなかった。おそらくラビリさんはヒヨリさんに秘密にしながらだと話しづらいんだろうな。
ここは僕から切り出すべきだな。
「ヒヨリさん、これから起こる事は他言無用でお願いします。」
「…はい。」
「ちょっと!いけませんわ!コンヨウさん!!」
「……」
僕の一言にヒヨリさんは畏まった表情になり、その隣でラビリさんが僕を制止する。
一方で僕がパフィさんに視線を送ると少し笑みを浮かべながら黙って頷いてくれた。
これは信頼と取っていいのかな。最初は僕のスキルを隠そうとしていたパフィさんの変化に思いを馳せる。
おっと、ヒヨリさんを待たせちゃいけないね。
「『食物生成(焼き芋)』『極上甘納芋』『冷めない魂』。」×3
僕はラビリさんとヒヨリさんの目の前で『冷めない極上甘納芋』を3つ生成する。
それを目の当たりにした2人は目玉が飛び出そうなほど大きく目を見開く。そしてパフィさんはすっげー涎垂らしてる。
「はい、これはお土産です。パフィさんもどうぞ。」
「わぁ~~!!やった~~!極上品です!!」
「…頂きますわ。ヒヨリも頂きましょう。」
「……はい、頂きます。コンヨウさん。」
さてさて、2人は『食物生成(焼き芋)』に驚いているけど、驚くのはこれからだよ。なんせこれは極上品だからね。
「う~~ん!やっぱり極上品は最強です~~。」
パフィさんってホントに幸せそうに焼き芋食べるよね。さっき朝ごはん食べた上に孤児院でも焼き芋食べたよね。
さて、ラビリさんとヒヨリさんのほうは、
「もぐもぐ…!!!なんですの!これは!」
「力強い中に優しさを感じる極上の甘味。ねっとりなのに纏わりつかない舌触り。サツマイモの優しく上品な香り。どれをとっても超一級。」
「これは……」
ヒヨリさんが凄い饒舌に語ってる中、なんかラビリさんが凄い悔しそうにしてるんだけど、どうしてかな?
「この焼き芋に勝るスイーツを今まで食べた事がございませんわ。
これは…スイーツショップを経営する者に対する挑戦状ととって宜しいかしら。」
あれ?なんかラビリさん、変なギアが入っちゃったみたいだけど…
ヒヨリさんは疲れたみたいに眉間を指で揉みながら瞑目してるし。
「あぁ~。お嬢様の悪い癖が出てしまったみたいですね。」
「…悪い癖?」×2
「はい、お嬢様はモノすっっっごい負けず嫌いなんです。」
「コンヨウさん!!」
「はいぃいい~~!!!」×2
いまだかつてないラビリさんのオーラに僕とついでパフィさんまで、軍隊ばりに最敬礼しそうな勢いで返事をする。
「まずはテングサとそれから作るカンテンでしたわよね。
超特急で手に入れてご覧に入れますので、必要事項をメモで頂けるかしら?」
「はいぃぃぃいいいいいいい~~~~~~~~~~~~!!ただいま~~~~!!!」
この後、僕はラビリさんの圧に押されまくって、超高速でペンを走らせるのであった。




