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083_転生世界の昔話

「じゃあ、クズミ様。契約条件はこれでお願いしますね。」


「まぁ、コンヨウ殿がそれでいいというなら…でも貰い過ぎじゃなかろうかのぅ。」


孤児院でクズミ様への説教を一頻り終えた後、僕らは色々と契約をした。


まず『大豆製品加工』スキルの手間賃については1キロ辺り400フルールという事で押し切った。

まったく、なんで買い取り側が値上げ交渉しないといけないんだか。こっちが払うって言ってるんだから受け取ればいいのに。クズミ様にはもう少し自衛の精神を身に着けて欲しいものだね。


それから焼き芋と干し芋の販売についてだけど、ローテーションと販売時間をはっきりと決める事にした。

この話をする前に今まで話してなかったんだけど、ちょっとこの世界の暦について触れておこう。

この世界は1日が24時間、1週間が7日、1ヶ月が4週、1年が12ヶ月で336日。閏年や閏月は存在しない。季節は1~3月が春、4~6月が夏、7~9月が秋、10~12月が冬となっていて、一番暑いのが5月で一番寒いのが11月。

曜日の呼び方は赤・橙・黄・緑・青・藍・紫と言う様に虹の色になっていて、赤が日曜に当たり、紫が土曜に当たる。

読み方は赤の日、橙の日と言う具合で、1日が赤の日になっている。例えば今日が2月27日だから、2月の第四の藍の日と言えば通じる。だってこの暦だと地球の太陽暦みたいに曜日がズレる事はないからね。

それとこれは余談なんだけど、僕が転生したのは1月1日だったりする。つまりパフィさんは年末12月27日に家出して、ウチの集落は正月に滅びかけていたわけだ。まったく散々な年末年始だったんだね。


それでローテーションの話だけど、まず赤の日を休みとして、橙と黄の日に干し芋を販売して、緑の日に焼き芋販売。青と藍の日にまた干し芋を販売して、紫の日に焼き芋販売。

営業時間だけど、干し芋は今まで通り500個限定販売で10~17時まで。焼き芋は2000個限定販売で10~15時までとした。

干し芋販売は基本的に孤児院のガキどもとスフィーダさんだけで行い、焼き芋販売については僕とパフィさんとスフィーダさんが参加でガキどもは任意だけど基本的には参加させない。

クズミ様が入ってないって?いや、クズミ様は『大豆製品加工』があるし、神父様の仕事だってあるし、孤児院の管理だってあるからぶっちゃけ一番忙しい。


そして僕らの焼き芋販売の日には夕食後に必ず勉強会を行う。だから僕とパフィさんは緑の日と紫の日には基本的に孤児院に泊まる事になった。

まぁ、宿代が家庭教師の謝礼という事で。


そんな感じで色々と取り決めをしたんだけど、その時クズミ様にちょっと質問してみた。


「あの、クズミ様は神父様なんですけど、この辺の宗教ってどういう感じなんですか?」


「あれ?コンヨウさんって宗教とかに興味あるんですか?」


「いや、無いけど。クズミ様に関わる事だから知っておきたいと思って。」


「コンヨウ殿。それを神父の前で言ってしまうのかのぅ。」


「あっ!これは失礼しました。僕、記憶がちょっと欠けていて。」


「おぉ~、それはなんとも難儀じゃのぅ。」


「……」


何だろう、クズミ様の本気の慰めとパフィさんの本気の蔑みが対称的で心に突き刺さるんですけど。

えっ!テメーの鋼鉄製の心にダメージはあるのかって?いや、熱した鉄を急激に冷やすと脆くなるって言うし、ってちげぇよバカ!

おっといけない、思考がズレてるぞ。どうでもいい事を考えている僕に、優しいクズミ神父様が話を聞かせてくれるみたいだ。


「ワシの宗教は『聖者教』と言ってのぅ。その昔、この世界を救った『聖者様』を崇める者達が興したとされておるのじゃ。」


「へぇ~、神様じゃないんですね。」


これはちょっと意外だね。宗教っていうのは大体は神様が頂点にいて、その御使いやら代行者やらが色々やって広めたモノって言うのがほとんどだと思っていたけど。

勿論これは日本神道の神や仏教の仏を神としてカウントすればの話だけど。少なくとも人間そのものを崇めた宗教は珍しいだろう。

そんな疑問を頭の中に浮かべていると、それを察したクズミ様が柔和な笑みと共に説明を続ける。


「確かに他の宗教は神様がおるが、この宗教はちょっと特殊で、お察しの通りこの聖者様は実際にいた正真正銘の史実上の人物じゃ。


『その昔、この世界にはスキルは存在しなかった。人は自分達の力で田を耕し、動物と共存しながら細々と慎ましく生活しておった。

そんなある日の事、どこからともなく魔王と呼ばれる世界に仇なす者が現れた。

魔王は手下であるモンスターを使い、生けとし生ける者を蹂躙していった。この世界に住む生き物達は当然種を問わず魔王に立ち向かった。

だが魔王は余りにも強大。生き物達はなす術もなく返り討ちにあった。


もうダメかと諦めかけていたその時に現れたのが聖者様。

聖者様は動物達に知恵を与え、それが獣人になった。聖者様は人と獣人に力を与え、それがスキルになった。

そして聖者様はスキルを得た人と獣人がお互いを愛する心を与え、それが人間となった。


そしてお互いに交わった人間達のスキルは更なる高みへと導かれ、やがて魔王とモンスターを倒す力となった。


だが、魔王を倒し平和を手に入れた人間達のもとに聖者様の姿はなかった。

いなくなってしまった聖者様を慕っていた当時の人間達は、せめて彼の偉業を後世に残そうと思い教会を作った。

こうして聖者教はこの世に誕生した。』


以上が聖者教に伝わる伝説じゃ。」


「……」


僕はクズミ様の言葉を聞き、その聖者とやらに思いを馳せる。なんて言うか…


「どうじゃったかのぅ。聖者教の伝説を聞いた感想は?」


クズミ様が僕とパフィさんにそう問いかける。

僕が沈黙を守っていると、パフィさんが口を開く。


「そうですね。その聖者様はきっととっても優しかったんだと思います。」


「それは何故かな?」


「だってその聖者様は多分人だったんだと思いますけど、動物も助けようしてますし、獣人と人が愛し合えるようにしてくれましたし。」


「なるほど、興味深い意見じゃのぅ。」


なるほど、パフィさんの意見は確かに面白いね。この世界の人には珍しい人と獣人を切り分けた考え方だ。

そしてその上で両方を助けたのだから優しい人だという結論に辿り着いている。パフィさんらしい素直な考え方だ。


「コンヨウ殿はどう思うかね?」


「そうですね。取り敢えず当時の人間は馬鹿なんだなって事くらいでしょうか。」


「ちょっと!コンヨウさん!」


「いや、いい。理由を聞いても宜しいかのぅ。」


まぁこんな事を言えばパフィさんが怒るのは当然だね。でも僕って基本的に宗教って信じないし、僕が信じる神様がいたとしたらそれはあの銀髪の女神様くらいだし。

それと対照的にクズミ様は笑顔を崩さず、冷静。単純に僕の心の内を知りたいと思っている。こういう人を見ると聖職者も捨てたもんじゃないと思ってしまうよね。


「その伝説がどこまで正しいか分かりませんが、おそらく聖者様とやらは自ら人々のもとを去ったのでしょう。

彼は分かっていたんです。魔王が倒れた後、人々が自分をどう扱うのかを。」


「と、言いますと?」


「おそらくそのまま聖者が人間と共に生きていたなら、人間はこう彼に要求したでしょう。もっとスキルが欲しいと。」


「………」×2


「そしてスキルを貰う為に彼を懐柔、あるいは脅迫したかも知れません。動物に知恵を与えた彼ならその知恵がどういう方向に向くのかなんて簡単に想像できたでしょう。

つまり当時の人間は聖者様の信用に足りる者達ではなかったわけです。」


まったく誇大妄想も甚だしいよね。これはきっと自分の人間不信を聖者に投影しているんだろうね。

きっと僕は芯の所で人を信用していない。だからだろう、あの優しい集落の人達と別れる未来が頭から離れないのは。


「それに…」


「それに?」×2


「故郷のご飯が恋しくなったんだと思います。聖者様って異邦人なんでしょう。きっとそこの人間達はご飯を作るのが下手だったんでしょう。」


ここで少し重くなった空気を払拭するためにおどけて見せる。


「つまりコンヨウさんはご飯が美味しければどこにでも行くんですね。」


返ってきたのはパフィさんの呆れたような言葉。静かに苦笑いを浮かべるクズミ様と肩をすくめる僕。

少し緩んだ空気の中、クズミ様が締めに入る。


「二人とも、非常に貴重な意見をありがとう。

でもコンヨウ殿の意見は外では余り言わない方がいいかもしれんのぅ。

どこの宗教にも過激派は存在するからのぅ。」


「あっ!はい。ご忠告ありがとうございます。」


笑顔で刺された特大級の釘に僕は素直に礼を言う。

この人はこういうところではしっかり危機管理が出来るのに、何で金銭関係はダメなんだろうね。

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