080_気付いたら終わってた
「さて、帰る前に挨拶周りを、と思ったんだけど…なんでみんなここにいるんですか?」
僕は今、パフィさんと一緒に宿屋カジツ亭の食堂にいるんだけど、何故かペテロさんの他にドクさんとゼブラさんもいた。
僕の質問に答えるのは呆れた表情のドクさんだ。
「君の想像通りだよ。」
「えっ!何のことですか?」
「…何を白々しい事を。私達が何をやっていたか予想できない君じゃないだろう。」
うん、大体分かってます。ドクさん達が僕の動きを封じ込めた上で全部片づけた事は。ただ予想より遥かに早いという事を除けば。
でもこの会話って多分僕とドクさんにしか分からないよね。だってパフィさんもゼブラさんもペテロさんも目を白黒させてるもん。
「えっと、ドクさん。今回はお手数をおかけしました。ズンダダとゲッス、それから黒幕の件は全部片付いたんですよね。」
「!!!」×3
僕の一言にパフィさんとゼブラさんとペテロさんは目を見開く。
パフィさんについてはただ単純に昨日までのゴタゴタが片付いた事に驚いているみたいだけど、ゼブラさんとペテロさんは僕がそれを知っていた事に驚いたみたいだ。
そんなみんなの様子を余所にドクさんが話を進める。
「まったく、君は…こんな無茶は今回限りにしてくれよ。今度やったら集落に縛り付けてでも君の行動を止めるからね。」
「やっぱりバレてましたか。凄いですね、ドクさんの鼻って。」
「君って子は…まぁいいよ。じゃあ報告だね。」
今の会話だけでドクさんには僕の意図が伝わったみたいだけど、その件に関してはスルーみたいだね。
まぁ、僕如きにスキルがバレてもドクさんはどうって事ないだろうからね。
この後、ドクさんが今回の顛末について説明してくれた。
まずズンダダはゼブラさんと衛兵の皆さんによって捕縛され裁判待ち。処刑になるのはほぼほぼ確定みたいだけど今は余罪を追及しているようだ。
ズンダダの犯罪行為は多岐にわたっている為、全容を解明し共犯者の逮捕や犠牲者の保証の為に尋問している最中で取り調べは凄惨を極める予定。
基本的には死ななければなんでもやる姿勢だそうだ。
その関係でこの後、被害者であるコービットさんとラビリさんにも捜査協力を頼む予定だそうだ。暫くゴーグレ先生のお世話になるのは難しそうだね。
次に今回の黒幕はナプール財政部長のガメンスキーと言うらしいけど、こいつは黒幕と言うより大商人から賄賂を貰って悪事に目を瞑る小悪党だったみたい。
こいつに関しては罪が露呈しそうになったので逃げようとしたら、その馬車が強盗に襲われ死亡が確認されたそうだ。
会うどころか見た事もないからなんの感傷も湧かないけど、ちょっときな臭いね。
そして最後にゲッスの変態野郎だけど、自宅で火事が起きて焼死したそうだ。
…はっきり言って怪しすぎるね。犯罪が露呈しそうになったタイミングで火事。自殺にしても焼死なんて苦しい方法を取るだろうか。
殺されて証拠隠滅されたとしたら他に黒幕がいる?それとも偽装?…どっちにしても碌な事にはならないね。
事故の可能性?あるわけないね。あれは変態だけど無能じゃなかった。そんなヘマはしない。
多分だけど、僕の尾行も気づいていて敢えて無視していたみたいだから。
僕って監視は出来るし見つからない様にも出来るけど、監視している事そのものを隠す事は出来ないんだよね。
今後変態に遭遇したらゲッスの可能性があるって事を頭に入れて置かないとね。
「以上だけど、何か聞きたい事は?」
思考に没頭する僕はドクさんの声で我に返る。
どうやら考えが顔に出ていたみたいだ。みんなの表情が心配で曇っている。全くこんだけ勝手をやった僕に…本当にお人好しだよね。
さて、せっかく話を振ってくれた事だし、気になる事の確認をしますか。
「じゃあ、一つだけ。今、スフィーダさん達とマイトさんとその周りは大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ないよ。そちらにはナツメ氏の衛兵隊が付いている。一応警戒はしているけどおそらく何もないだろう。」
「そうですね。表向きは死んだわけですし、これ以上こちらに関わる理由が無いですからね。」
「????」
「……」×2
僕とドクさんの会話にパフィさんはいよいよ頭がショートし、ゼブラさんとペテロさんも困惑中。
そりゃそうだよね。当事者ならまだしも僕がこれだけ正確に状況を把握してるんだから。
でも僕って奴らを潰すだけの情報を持っていたわけだからそのくらいは分かっていて当然なんだけどね。
「えっと、つまりゲッスの今回の目的はスフィーダさんだったわけだから、置き土産にそっちにちょっかい掛ける可能性があったんだけど、完全に死んだ事になった瞬間、表立って身動きできなくなるから多分大丈夫って話。
マイトさんについては報復と証拠隠滅だね。こっちも被疑者死亡だからやる意味はないよね。ゲッスは変態だけど無駄な事はしないっぽいし。」
「随分と分かったように言うんだね。」
「あれに似たような奴を見た事がありますので。」
アイツの行動は前世でお世話なったインテリヤクザに行動がそっくりなんだよね。でもあの腐れヤクザは変態ではなかったけど。
あれの手際はなかなか見事だったなぁ。部下をちょっとコロコロしたら、ちゃっかり貸した金の元本だけは回収して、犯罪行為がバレる前にすぐに手を引いた。元本以上取ると僕の標的になる事も分かってたみたいだし。なんか僕と思考回路が似ていたから見ていて殺意が湧いたんだよね。
いかん、思考が殺伐として来た。こういう時は素数を数えるんだ。素数は1と自分でしか割れない孤独な数。僕に勇気を与えてくれる。1、2、3、4、5、6…あれ、違ったっけな?…よし、落ち着いたぞ。さて、話を戻すかな。
「では、もうナプールは問題ないって事ですね。僕はこの後スフィーダさんのところとラビリさんのところに挨拶に行くつもりです。
それからパフィさんと商業ギルドで預金口座の使い方を教えてお買い物ですかね。皆さんはどうしますか?」
「私とペテロさんは一度商業ギルドに挨拶してから集落に帰らせてもらうよ。」
「そうですか。マイトさんは色々と忙しいでしょうし、迷惑を掛けるといけないので僕は遠慮しますかね。宜しくとだけ伝えて置いて下さい。」
「…うむ、確かに承った。」
「俺っちは孤児院について行くつもりだけど構わないか?」
「いいですけど…」
「なんだ、その含みのある言い方は?」
いや、だってスフィーダさんには強面の王子様がいるから。三枚目のゼブラさんはお呼びじゃないと言いますかね…でもこの残酷な現実を僕から突きつけるのはちょっと。
僕がそんなバファレンの残り半分のような考えで口を噤んでいると。
「いいじゃないですか。きっとスフィーダさんや孤児院の子達もゼブラさんに会いたがってますよ。」
「おっ!やっぱりパフィちゃんは分かってるなぁ~。コンヨウっち、そういうわけだから宜しくな。」
こうしてバファレンの有効成分じゃない方のような暖かな言葉を掛けるパフィさんと調子に乗る三枚目を連れてまずは孤児院を目指す事となった。
せっかくだからクズミ様にお土産を買っていかないと。そう言えば好みが分からないや。取り敢えず焼き芋でいいかな。
自分のリサーチ不足に膝から崩れ落ちそうになる僕であった。




