077_御用達商人爆誕
「さて、早速お話を始めましょうか。」
孤児院から宿屋カジツ亭に戻り、食堂のテーブルに腰かけた僕らにラビリさんが早速とばかりに口を開く。
「えっと、お話って言うとズンダダの件でしょうか?」
僕の質問にラビリさんが黙って頷く。
多分だけどズンダダはゼブラさんに始末されてるだろうし、それをラビリさんが知らないはずがない。
少し間を置いた後にラビリさんが話を切り出す。
「はい、ズンダダは現在、その不正及びお父様への殺人未遂が明るみに出た事により、衛兵に拘留されております。
近々裁判が行われるでしょうけど、おそらく私財没収の上に死罪でしょう。
財産については不正の犠牲になった人達の救済に充てられるそうです。」
「そうですか?ところでコービットさんに毒を盛った実行犯は捕まったんでしょうか?」
「はい、主治医と数名の使用人が関与していた模様です。ヒヨリが一人一人締め上げながら尋問したのでまず間違いないかと。」
「うわぁ~、ヒヨリさんってそんな事もするんだ~。」
「コンヨウさん。ヒヨリさんが戦闘スキル持ちだって事は以前説明しましたわよね。」
「そうです。確か『短刀術』『空手』『合気道』でしたっけ。」
「パフィさん、人のスキルバラシちゃダメだよ。僕が知ってるのは戦闘スキル持ちってところまでなんだから。」
「あっ……」
「パフィちゃん。そんなにしょんぼりしなくても大丈夫ですよ。どうせコンヨウさんには言うつもりでしたから。」
自分のうっかりに項垂れるパフィさんをラビリさんがフォローする。
まあ本人達がいいって言うなら大丈夫なんだけど。それより空手に合気道って男のロマンを感じるよね。ヒヨリさんは女性だけど。
「そっか~、じゃあ正拳突きとか上段回し蹴りとか入り身投げとか小手返しもやったりするのかな。」
「はっ?なんですか?それは。」
「いや、何って空手と合気道の技ですけど、ご存じないんですか?」
これはまた地雷を踏んだかな。空手とか合気道ってこの世界の人には一般的じゃない技術だったみたいだ。
よくよく考えるとパフィさんの『ガス操作』もこっちでは意味不明の役立たずスキル扱いだったね。
こっちの知識には無いけど、実は超有用ってスキルは山ほどあるのかも。今度集落のみんなのスキルを聞いて回ってみようかな。もしかしたら隠れ有能スキルがあるかも。
さて、僕の思考が逸れかけたところでラビリさんが咳払いをして話を元に戻す。
「コホン、ヒヨリのスキルの話は後でお伺いするとして、先ほどの話の続きです。
まず実行犯についてですが、今回は死人が出ていないので数年の懲役刑で済むでしょう。
ただし買収されて主に手を掛けようとしたわけですから、今後の働き口はないでしょうね。
細々と自給自足の生活をするか、狩人にでもなるか、はたまた盗賊に身をやつして今度こそ死罪になるか。
それは本人達次第ですわね。」
「まったく、自業自得ですね。なんで目先の欲に駆られてろくでもない事をする人間が後を絶たないんでしょうね。
真面目に働いていれば、色々嫌な事はあるでしょうけど、少なくとも死ぬような目には合わないのに。」
「ぼくもそう思いますよ。目の前に思考が犯罪者寄りの人はいますけど。」
「ちょっ!パフィさん、酷くない!」
僕の言葉にブラックな相槌を打つパフィさん。最近毒ガスだけじゃなくて、毒舌も使う様になったんだね。
そんな僕らの様子を面白そうに眺めるラビリさんの顔がなんとも憎らしい。
僕がそんな気持ちで睨んでいるとラビリさんが素知らぬ顔で話を切り替える。
「さて、ズンダダ周りについてはこの辺にしまして、次は私達の今後についてですね。
まず、後継者の件ですけど、お父様が快復した事により一旦白紙に戻るでしょう。
まぁ私が最有力である事には変わりないでしょうけど、それも何もなければ10年は先の話になると思います。
そこで、コンヨウさんと集落の皆さんにご相談がございますの。」
ここでラビリさんが居住まいを正し、僕とパフィさんの方を見据える。
僕らもそのただならぬ雰囲気に背筋を伸ばす。
「これから正式に私と商売をなさいませんか?勿論、これは頭出しですので、今すぐにお返事は頂かなくても結構です。
集落に持ち帰って貰って皆様と話し合った上で決めて頂きたいと思っております。」
僕はこの言葉に思わず頬を緩める。どうやら彼女は僕の事を分かって来たようだ。
僕がやっている事は集落のみんながいないと成り立たない。そんなビジネスパートナー達を無視して僕の了承は得られない。
この世界の常識から考えるとおそらく外れているのだろうけど、それを踏まえた上で僕に歩み寄ってくれている。
コービットさんが彼女を後継者に指名した理由が分かる気がする。
「分かりました。みんなと相談して決めさせて頂きます。ちなみにこの商談はコービット商会ではなくラビリさんという事で宜しいでしょうか?」
「仰る通りです。察しが早くて助かります。」
やはりだ。ラビリさんはコービット商会から独立するつもりだ。彼女は有能とは言えまだ22歳だ。
大商会の看板をしょって立つプレッシャーは計り知れなかっただろう。父親が不在の中必死で頑張っていたのだろうけど、その必要ももう無くなった。
彼女の中で何があったのかは分からないけど、新しい事を始めたいと思ってもおかしな話じゃないからね。
「つまり僕らはラビリ商会と契約をするわけですね。」
「はい。こちらの要望ですが、まずは『ラビアンローズ』で販売するスイーツの取引。次にモンスター素材の取引。
それからもし宜しければ、あなたの作った上質なサツマイモの販売もさせて頂きたいと思っております。」
ラビリさん、かなり踏み込んできたな。さて、このサツマイモ販売をどう受け止めるかだけど、僕のスキルは基本的に人に教えていいものじゃない。
ラビリさんに教えたのはその辺で下手を打つ事はないと判断したというのもあるけど、あの時は後継者争いがあったので絶対に僕に不利になる事はしないという安心もあった。
だが現状はどうか。あの時はある意味こちらが上位だったけど今は完璧に対等だ。僕の秘密を知っているラビリさんはひとつ間違えばアキレス腱になりかねない。
僕が返事を躊躇っているとラビリさんが表情を曇らせながら口を開く。
「『ワード検索』…それが私のスキルですわ。」
「……」
どうやらこちらの疑念がバレたみたいだ。そうじゃなければこのタイミングで自分のスキルを晒すわけがない。今のラビリさんは表面上は笑っているけどその中に落胆の色がありありと見て取れる。
まったく、彼女が信頼に足るかなんて分かり切っているはずなのに、それでも信じきれない自分の性分にウンザリする。
僕はそんな自分自身に対してため息をつきながら彼女の問いかけに応じる。
「すみません。どうやら僕はまた間違ってしまったみたいですね。ラビリさん、僕はあなたを信用します。」
「いえ、あなたの立場なら当然です。お気遣い感謝しますわ。」
「??…どういう事ですか?」
あっ!今まで背景だったパフィさんがいよいよ意味が分からなくなって疑問を口にしちゃったね。
僕はなるべく普通に見える笑顔でパフィさんに状況を説明する。
「簡単に言えばラビリさんを信用して、今後の取引を前向きに検討するって事だよ。」
「???」
あれ?ますます分からないって顔をしたね。でも仕方無いよね。だってパフィさんは人を疑うって事を知らなそうだから。あれ?僕って結構パフィさんに疑われない?もしかして、パフィさんにとっての信用できない人間No.1って僕だったりするのかな。まぁ、自業自得だね。
さて話が逸れそうになったけど、彼女を信頼するとした場合、この申し出は秘密を守りながら最大限利益を上げようとしてくれていると取れる。
だって、教えてないけど、僕のサツマイモの一日の生成量って5000だもん。『ノンブランド』を1つ50フルールで売ったとしても25万フルールになるんだよね。
まぁ、流石に生芋が一日に5000個も売れるとは思わないけど。そもそもそんなに作らないし。
だけどなぁ、ぶっちゃけ売る方はそんなに気にしていないんだよね。それより買う方だ。
「えっと、売る方については余り気にしてないんですけど、問題はこちらが買う方ですね。
例えば、狩りの為の武具や道具、生活必需品、食料品、調味料、なんかも取り揃えて頂けるのでしょうか?」
「勿論です。一度そちらに伺っても宜しいのでしたら必要そうなモノをリストアップも出来ますが。」
「そうですね。返答は相談した後になりますけど、その時はお願いします。」
「はい、では今日の商談はこの辺にしましょう。実りのある時間をありがとうございました。」
こうして、ラビリ商会(仮)の社長ラビリ=コービットさんが集落御用達商人(仮)となるのであった。




