076_ケモナーじゃないから
「コンヨウさん、ただいま帰りました。」
「こんばんは、コンヨウさん。」
「お帰り、パフィさん…そしてどうしてあなたがここにいるんですか?ラビリさん。」
僕は孤児院でガキどもに文字を教えていたわけだけど、もう夕方になっていたみたいだ。
パフィさんが僕の迎えにやって来たみたいなんだけど、何故かラビリさんも一緒だ。
ちなみに授業の様子なんだけどこのガキども、文字の書き方を教えていたら、退屈だの遊びたいだのと駄々をこねたりしてきて、なかなかに悪戦苦闘した。
仕方ないのでその場で即興でトランプを作って(紙は僕の持参した物、後でゼブラさんに代金請求予定)数字の勉強も兼ねて、スフィーダさんを巻き込んで神経衰弱や七並べをやったりと色々大変だった。
神経衰弱については僕の圧勝だったけど、七並べについてはガキどもが結託して僕をフルボッコにしてくれたものだから散々だった。
やっぱり罰ゲームに自分の好みの異性のタイプを暴露するって言ったのが良くなかったのかな。ゲームの時のガキどもの目が血走っていたし、スフィーダさんは顔を真っ赤にしてたし。
結局、最下位はスフィーダさんだったんだけど、どうやら彼女の好みは強面だけど、普段はとても優しくて、いざとなったらとても頼もしい人みたいだ。
随分具体的だけどこれはきっと好きな人がいるな。ゼブラさんご愁傷様ww。完全3枚目のあなたはお呼びじゃないようですよwww。いや~、シマウマの不幸で飯が上手いね~~。
おっと、いけない。今は孤児院のみんなで食事の準備中なんだ。
「あら、おいしそうな匂いね。私も何か持ってくればよかったですわ。」
「こんにちは、ラビリさん…でよかったでしょうか?宜しければご一緒なさいますか?」
「ちょっと!スフィーダさん。今いきなり来た人間にご飯を奢ってやる必要なんてありませんよ。」
「別にコンヨウさんが身銭を切るわけでも無いんですからいいじゃないですか?」
「いや、パフィさん!これは死活問題だよ!ラビリさんの分を用意するって事は僕の取り分が減るって事だよ!」
「相変わらずケチ臭いですね。ちなみにぼくは屋台で腸詰を買ってきましたので遠慮なくご相伴に預からせてもらいますよ。」
「流石パフィさん!僕は君の事を信じてたよ。」
「本当にこの人は…」
あれ?おかしいな。僕に向けられるパフィさんの目が羽虫を見るみたいなんだけど?
だって夕ご飯は孤児院で用意したものだし、僕は今日一日家庭教師やっているから当然頂くし、パフィさんは食材を提供してるし。
そうなると今回食べる資格が無いのはラビリお嬢ちゃんだけ。僕はこの辺きっちりする性質だから女子供だって容赦なくハブるよ。
そんな飢えたウルフの僕に対して、ラビリお姉様は不敵な笑みを浮かべる。
「コンヨウさん。出資者の私にそんな事を言ってもいいのかしら。」
「えっ!どういう事ですか?」
「ふっふっふ。この孤児院の土地並びに建物は明日付けでこのラビリ=コービットのものとなりますのよ。
そしてクズミ神父に寄付する予定ですのよ。」
「それは本当ですか!さぁ、ラビリさん。たくさん用意してますのでコンヨウ君の分も食べちゃってください。」
「あら、ありがとう。遠慮なく頂きますわ。」
「コラ~!そこの大喰らいリスにウサギのお姉ちゃん(笑)!なんで僕の取り分を渡す前提で話を進めてるんだよ!」
「だって、子供達は育ちざかりですし、わたくしはカロリーが必要ですし…」
「そもそも私をハブろうとしたのが悪いのですわ。」
「つまり、僕提供の焼き芋はいらないと…」
「さぁ、みんなで仲良く食べましょう。きっとその方が美味しいです。」
「ちっ!現金な大喰いリスめ!」
「コンヨウさんがケチな事を言ったのがそもそもの発端じゃないですか。」
やっぱりオカシイ。さっきから僕はごくごく当然の主張をしているのに完全にアウェイだ。
今日のパフィさんの反応は本当に冷ややかだ。えっとなんか悪い事したかな?そんな感じの視線を送ってみたら、
「まったく、可愛いお姉さんと綺麗なお姉様に囲まれていいご身分ですね。」
と頬を膨らませながら、なにやら僕に聞こえない声で呟いてた。まったくワケガワカラナイヨ。
さて、分からない事を気にしても仕方がない。それよりご飯の準備だ。
今日作るのは近所で貰ったクズ野菜と肉屋さんで貰った捨てる予定の鳥の骨を煮込んだスープ、
市場で買った卵と鳥の骨についていた肉をこそぎ落としたミンチ肉のオムレツ、
パフィさんが買ってきてくれた腸詰のグリル、
『紅音姫』と『甘納芋』の焼き芋である。
僕は包丁作業とスープ作り、スフィーダさんが残りの調理で、ガキどもが配膳と洗い物を担当。
お客様のパフィさんと出資者様のラビリさんは席でお行儀よく待機してもらう事にした。
そして調理する事暫し、
「なんか兄ちゃん、スゲー手際いいよね。」
「うん、性格はアレだけど作業は凄い繊細だよね。」
「おい、そういう時はちゃんと徹頭徹尾褒めろよ!」
「いや、だって~、ねぇ~。」
「ふふ、みんな~、お客さんを待たせてるから早く持ってっちゃってね。」
「は~い。」×5
「ちっ!ガキどもに渡す焼き芋は小さめにしておこう。」
(そういう事を言っているから素直に褒めて貰えないんですよ。)
なんかスフィーダさんがもの言いたげな目で僕を見ていたけど気にしない方向で。
こうして、和気あいあいと準備した食事を冷めないうちにみんなで頂く。
「では…いただきます。」
「いただきます!!」×8
もうすっかり定番となったいただきますの挨拶。食べ物への感謝、大事だね。
焼き芋はスフィーダさんが10個でパフィさんが6個、残りのみんなは1人2個。僕は『紅音姫』で他のみんなは『甘納芋』をご所望。
料理の方は…スフィーダさんの作ったオムレツ、肉のうま味をふわふわの卵で包み込んだ見事な逸品だ。
パフィさんの買って来た腸詰の肉汁の旨味と香辛料の塩梅も見事だ。彼女の食べ物に関する目利きは見事だと言わざるを得ない。
僕の作ったスープは…まぁまぁだね。欲を言えば少しハーブか香辛料が欲しかったんだけど…あれ?みんなの様子がおかしい。
ラビリさんが目を丸くしながら質問してくる。
「えっと、コンヨウさん。これってどうやって作りましたの?」
「え?ただの鳥ガラスープですよ。まあハーブが無かったからちょっといまいちかもしれませんけど。」
「…コンヨウさん。とっても言いにくいんですけど、コンヨウさんのレシピってかなり特殊なんですよ。」
「そうですよ。昼過ぎから骨を煮込んでたからどうしたのかと思いましたけど、こんな美味しいスープができるなんて。」
あれ?パフィさんとスフィーダからもツッコミ入った。ガキどもは気にせず食べてるみたいだけど。そう言えばこっちには骨で出汁を取る文化がないってエレフさんも言ってたかな?
つまりこれって新しい調理法を考案した事になるのかな?その事を失念していた僕は慌てふためきながら調理法を説明する。
「…全くあなたには驚かされてばかりですわ。」
「えっと、僕の生まれたところでは割とありふれた調理法なんですけど。」
この一言だけでラビリさんとパフィさんには『異世界』の料理だと分かるだろう。これ以上ツッコミが入る事はなかった。
ちょっとだけ微妙な空気になったけど、すぐに切り替えて食事に舌鼓。やっぱり美味しい食事の前にはその出自など些細な事なんだよね。
まぁラビリさんがブツブツと何か呟きながら食べていたのが少し気になるけど。
さてお腹いっぱいになった所で、孤児院をお暇しようとしたわけだけど。
「あの、コンヨウさんはこれから宿に戻られるのですわよね。私も寄っていいかしら?」
「えっと構いませんが、何でですか?」
「ちょっと話がしたくて。」
「もしかしていやらしい事ですか?ラビリさんはショタコンだったんですね。」
「おい!万年発情リス!ラビリさんが身内になった瞬間、そういう話に巻き込むんじゃねぇ!」
「フフッ、コンヨウさんがその気なら私は構いませんわよ。」
「おい!ガキどもの前で洒落にならん冗談はやめろ!初対面の頃のナイフのようなあんたはどこへ行ったんだよ!」
「コンヨウさん…不潔です。」
「パフィさんもやめてくれる!僕、なにも悪くないよね!」
こうして再び濡れ衣を着せられそうになったところで僕は戦術的撤退を敢行するのであった。
まったく、昨日までの殺伐とした雰囲気はどこへ行ったのやら。そしてよく考えたら今の僕ってハーレム状態?いや、僕はまだケモナーじゃないからそんな事分からないからね!




