073_禿デブの最後
ここはナプールのとある居酒屋。昼間という事もあり、店の中には従業員が3名と客は0。
そこに6人ほどの集団が訪れた。1人はシマウマの獣人ゼブラ、1人は禿デブウサジジイのことズンダダ、それからズンダダの取り巻きが4人。
意気揚々と先導するゼブラに連れられ、彼等は一つのテーブル席に着く。
「マスター!エールを人数分、それからツマミを頼む!」
「すみません。私達は職務中ですので。」
ゼブラが注文をすると取り巻きの内の一人がそれを固辞する。
その様子を見たズンダダが愉快そうに語りだす。
「フッハハァ。まぁ普通は分からんだろうな。こやつらは吾輩の護衛だ。
吾輩も商売柄どうしても恨まれる事もあるからな。」
「へぇ~、流石旦那の護衛だぜ。一般人との違いが全然分からなかったぜ。」
「ガッハッハァ〜、そうであろう。普段は吾輩の部下に擬態しておるからな。
だがこやつらの腕前は本物だ。全員優れた戦闘スキル持ちだからな。」
そうすると護衛達はジャケットの内ポケットがゼブラに見える様に軽くめくる。
それぞれ鉄の警棒、投げナイフ、メリケンサック、鞭が収められていた。
この瞬間、ゼブラは思わず渋い顔をする。
「ズンダダの旦那、人が悪いぜ。これじゃ俺っち、旦那につくしかなくなるじゃねえか。」
「ガハハハハァ!!貴様は話が早くて助かる。別にこやつらを使って脅したり、報酬をケチったりするつもりはないからその点については心配するでない。」
「ははぁ…全く怖い旦那だぜ。元々裏切ろうだなんて考えてないから心配ないけどよ。」
「貴様は思ったより賢明なようだな。これから吾輩に仕えるのだからそれくらいでないとな。」
「まぁ、ご期待に添えられるよう頑張る所存だぜ。マスター!エールとツマミは2人前で!」
「あいよ~!」
ゼブラが注文をするとマスターと思しき黒豹の獣人が返事をする。
それから待つ事ほんの少し、マスターがエールを2杯テーブルへと運んでくる。
それをゼブラとズンダダが手に取り、
「では、喫茶店勝負勝利とズンダダの旦那の前途を祝して!」
「乾杯!!」×2
二人はエールの入った木のジョッキを打ち鳴らす。
「ふぅ~~、うめぇ!」
「そうか?やはり吾輩のような高貴な人間に安酒は合わんな。」
「…そうですか?そりゃ悪い事をしましたね。なにぶん俺っちみたいな貧乏人じゃ、旦那が気にいる様な立派な店には入れませんので。」
「ガッハァハッハッ!それは憐れとしか言えんな。貴様が手柄を立てれば、そういうところにも連れて行ってやらなくもないぞ。」
「流石!旦那!天下の大商人!いやぁ~、旦那について行けば俺っちも安泰だ~。」
「そうであろう。まあ貴様も吾輩の役に立てばドンドン甘い汁を吸わせてやるから励むように。」
「ははぁ~、旦那の為に誠心誠意尽くさせて頂きます!」
酒が入り、ゼブラに囃し立てられ、気分を大きくするズンダダが、店員が運んでくる安酒とツマミをちびちびと口に運びながら、ほろ酔い気分でゼブラに自慢話をする。
「そもそも吾輩はこのナプールで代々続く大店、コービットの男子として生まれ、子供の頃には神童と呼ばれ、将来を嘱望された男なのだ。
そして今ではコービットの財力を元により大きなを成そうとしている。
ところが現当主の馬鹿兄ときたら、吾輩の壮大なる計画を理解しないどころか邪魔までしてきた。
挙句の果てにコービットの家督を男子である吾輩にではなく、女のラビリに譲ると言い出したのだ。」
「ほぅ、ちなみにコービット家は男系なんですか?」
「昔はそうであったが今はそうでもないらしい。全く嘆かわしい。男の方が女より優れているのだから、男が家督を継ぐのが自然の摂理だというのに。」
「そういうものなんでしょうかね?下賤な俺っちには分からねぇですわ。それからさっき非常に気になる事を仰ってましたけど、壮大な計画とは?」
「うむ、なかなか耳聡いな。これから吾輩はコービット商会の規模を拡大して、他の都市にも進出させようと考えているのだ。
その為には色々と金が要る。だから商会の資金を吾輩に管理させろと馬鹿兄に進言したのだが取り付く島もない。
まったく、コービット商会がここまで大きくなったのは吾輩が裏で色々と苦労したからだというのに、それを全く分かっていないのだ。」
「へぇ~、旦那も苦労してるんですね。馬鹿な兄を持つと優秀な弟が割を食うわけですか。」
「そうなのだ。役人に鼻薬を嗅がせたり、邪魔な競合相手の営業を妨害したり、バカな田舎者を利用してリゾート地を作って資金を稼いだり。
それなのにあの馬鹿兄は、その事を裁判所に告発すると言い出しおった。だから馬鹿兄にはご退場願う事にしたのだ。」
この瞬間、場の空気が凍り付く。
「……テメェだったのか。」
ゼブラから地獄の鬼も裸足で逃げ出しそうな悍ましいまでの殺気が溢れ出す。
「プラム村の人達を騙して借金漬けにしたのは、テメェだったのかッ!!」
「!!!」×4
ゼブラが怒りの雄たけびを上げた瞬間、身の危険を感じたズンダダの護衛が動き出す。
それぞれが胸にしまった警棒、ナイフ、メリケンサック、鞭を片手に、ズンダダを庇う様にしながらゼブラに飛び掛かる。
「テメェらはお呼びじゃねぇんだよ!!」
ゼブラは絶叫しながらズボンの左右のポケットの中に入った巾着袋を護衛に投げつける。巾着袋がゼブラの手を離れた瞬間、
「!!!」×4
巾着袋が破け、そこから人の拳ほどの大きさの石が無数に飛び出す。
散弾銃のような石の群れに護衛達は飲み込まれ、叫ぶ間もなくその意識が刈り取られる。
これは、ゼブラのスキル『マジックバッグ100倍100分の1』の応用で、あらかじめ大量の石を詰めこんでおいた巾着袋を相手に投げつけ、手から離れた瞬間にスキルを解除する。
すると巾着袋が破け、大量の石礫が相手を襲うという寸法だ。
4人の護衛が床に倒れ伏す音が響く中、ズンダダはようやく自分が置かれた状況を理解した。
「貴様!!裏切りおったな!!者ども!!であえー!であえーーーー!!!!」
ズンダダは金切り声と共に店の外に伏せていた自分の手勢に号令をかける。
この手勢は今日の早朝にゲッスから借り受けたモノで、20人ほどからなるならず者集団だ。
元々はゼブラを引き込んだ後にラビリと『ラビアンローズ』を襲撃する為の戦力だったが、そうも言っていられないという事くらいはズンダダも理解できたようだ。
…………
しかし、待てど暮らせど手勢が乗り込んでくる気配が無い。
「何故だ!!者ども!!であえーーーー!!であ「おっと、そこまでだ。」ひぃ!」
狼狽えるズンダダの首元に黒豹のマスターが剣を突きつける。
その瞬間、敗北を悟ったズンダダは口から泡を吹き、失禁しながら意識を失う。
「うわぁ~、汚ねぇ!早かったな。ナツメっち。」
「おう、あんな数だけの雑魚共、俺達の相手じゃねえよ。」
「流石、ナプール最強のガーディアンは違うね。他のみんなはどうした。」
「今、倒した連中をふん縛ってるところだ。」
ではここで一旦状況を整理しよう。
実はこの居酒屋、元ナプールの衛兵が経営しており、ゼブラがその伝手を使って昔の衛兵仲間に控えて貰っていたのだ。
つまり、ここにいる店員全てが衛兵でマスターに変装していたのはナツメである。
そしてゼブラがズンダダの気を引いている隙に外にいる手勢を全て捕らえたというわけだ。
「しかし、『マードッグ・ザ・ワイズマン』の作戦はスゲーな。今まで尻尾も掴めなかったズンダダ一味を一網打尽とは。手勢が隠れてる場所もあの人の指示通りだったぞ。」
「ドクさんが言うには『ズンダダをここにおびき出せば隠れられる場所は自ずと決まってくる』っだそうだ。」
そう、今回の作戦はドクの指示で行われたものである。その余りの的確さにナツメは舌を巻いていた。
「それにその石礫。お前、いつからそんな事出来るようになったんだ?」
「これはコンヨウっちのアドバイスの結果だ。」
ナツメの言葉に数日前のコンヨウとの会話を思い出す。
………
「なぁ、コンヨウっち。俺っちもなんか自衛手段があればいいんだけどな~。そうすればシマトラ組の連中相手に手間取る事もなかったのにな~。」
「そうですね。今回は準備不足でしたね。まぁ、こうなる事なんて誰も予想していませんでしたからね。」
「おい、コンヨウっち。その口ぶりだとなんか方法があるみたいだけど。」
「えぇ、そうですね…例えばこの巾着袋ですけど、これには大鉄貨が10枚入ります。これをゼブラさんに投げつけます。」
「痛っ!いきなりなにしやがるんだ。」
「はい、これでもそれなりに痛いですよね。これが1000枚入りだったらどうなりますか?」
「馬鹿か!普通に死ねるわ!」
「その通りです。では質問です。ゼブラさんの能力は?」
「『高速移動』と『マジックバッグ100倍100分の1』だ。」
「つまり、ゼブラさんはこの巾着袋に大鉄貨を1000枚詰められるわけです。もう分かりますよね。」
「…コンヨウっち、お前って自分のスキルでもないのに、よくそんなえげつない方法思いつくな。」
「誉め言葉として受け取っておきますよ。」
………
「お~い、ゼブラ~。聞いてるか~。」
「おっと、すまん。なんだったっけ?」
ナツメの言葉にゼブラの意識は現在に向く。
「しっかりしてくれよ。これからズンダダを引っ立てるからお前もついて来い。
お前にはこいつが自白した事の証人になってもらう。これだけの衛兵の前で自白したんだ。もう言い逃れは出来んだろう。
それにこいつはプラム村の事件の首謀者みたいだからな。じっくり、たっぷり、尋問しねぇとな。」
「そうだな。絶対に真相を解明しねぇとな。これでうまく行けばプラム村の人達も解放されるかも知れないしな。」
プラム村とはかつて、ゼブラが衛兵を辞めたきっかけになった事件が起きた場所である。
1年ほど前の出来事だが、当時衛兵の輸送部隊に所属していたゼブラは、不作で飢饉に喘ぐプラム村に救援物資を届けていた。
しかしそれは救援物資ではなく、適正価格の数倍の高額で売りつけられた商品だったのだ。
住民はその事を知らず、いつの間にか借金を負わされ、それが払えないとみるや家や土地を接収された。
そして接収された土地はリゾート地となり、借金を返済しきれない住民はリゾート地で奴隷のような労働を強いられているそうだ。
この事実は当然リンガやナプールの政府関係者の一部は知っているのだが、大商会の利益と自分達の既得権益を優先するために黙殺されている。
ゼブラはこの事を政府高官に訴えたが、その証言は握りつぶされ、国への失望から衛兵を辞めている。
今回、首謀者であるズンダダが捕らえられた事により、不正が明るみに出ればプラム村の住人の借金は帳消しの上、賠償金を請求できる運びになるだろう。
そうすれば、家は戻らないかも知れないが、少なくとも今よりも普通の生活が出来るようになる。故にナツメもズンダダの尋問に手を抜かないだろう。
「さて、さっさとこいつらを連れて行くぞ。俺は暫く門番には出られなさそうだな。」
「だな。俺っちも暫くスフィーダさんのところに戻れなさそうだな。」
「戻るって別にお前とあのリスのお嬢さんはそういう関係じゃないだろう。」
「るっせえ!現実を突きつけるなよ!!俺にだってワンチャンあるかも知れねぇじゃねえかよ!!」
「知るかよ!俺にキレるんじゃない!」
こうしてかつての英雄は旧友と共に一つの悪を打ち倒し、日常へと戻るのであった。




