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071_敵地で堂々と

「よう、コンヨウっち。今日は独り(・・)か?」


「あっ!クズ野郎(ゼブラさん)。どうしてこんなところにいるんですか?」


僕はこれから禿デブウサジジイの喫茶店『ゴージャスずんだ』に敵情視察に行くところなんだけど、何故か店の前でゼブラさんに出会ってしまった。

昨日ゼブラさんのせいでドクさんに怒られてしまったからちょっと本音が漏れ出ているのはご愛敬。


「言っとくけど、お前がドクさんに怒られたのは自業自得だからな。」


「なんの事でしょうか?それよりどうしてここにいるんですか?」


「あのな~、ここは『ラビアンローズ』の目の前だぞ。

俺っちがスイートポテトの搬入してた時にお前がいたから様子を見にきたんじゃねえか。」


あっ!そうだった。時間帯が悪かったね。ここに来れば高確率でゼブラさんと鉢合わせするんだった。

開店時間まで少し時間があるし、ゼブラさん()時間を潰すか。


「実はこれから潰れる前の店を冷やかそうと思いまして、良かったら一緒にどうですか?」


「いい趣味してんな~。お前の奢りなら構わないけど。」


「そうですね。あんまり相手の売り上げに貢献するわけにもいきませんし、安いやつなら構いませんよ。」


「本当にいい性格してんな。まぁ、俺っちとしてはあんまり甘いの得意じゃないからいいけど。」


「ところでゼブラさん。孤児院の方はどうですか?」


「あぁ、こっちは順調だ。昨日ゲッスの部下がこっちを覗き見してたみたいだから、金策できたって情報を流してやった。ガキどもの前で大銀貨10枚チラつかせながらわざとらしく話したから間違いなくゲッスに情報が行ってるはずだ。」


えっ?これってちょっと拙くない?ちょっと状況確認が必要そうだな。


「えっと、ゼブラさん。借金の返済はもう済ませましたか?」


「いや、まだだぜ。」


ちょっと、ホントに勘弁してよ。こっちは禿の事だけで手一杯だってのに。僕は頭を抱えため息を漏らしながらゼブラさんに現状説明をする。


「あの~、こんな事言いたくないんですけど、ぶっちゃけ今一番ヤバいのはゼブラさんですよ。」


そう、金策ができた事がゲッス側に知られたって事は近々敵側からゼブラさんに接触があるという事だ。おそらく借金返済前にケリをつけに来るだろう。

まったく、借金の返済期限が1ヶ月後だったからもう少し余裕があると思ってたのに。

でも、ゼブラさんは何故か余裕の表情だ。なんかすっごく腹が立つんだけど、その思考が読み取られたのか、ゼブラさんがこれまたムカつく笑みを浮かべながら語りだす。


「勿論分かってるぜ。でも心配はいらねぇぜ。これも作戦の内だ。」


「ほう、作戦…ですか?」


「あぁ、ドクさんが立てた作戦だから間違いなく成功するだろう。」


「それを聞いて安心しました。ゼブラさんの立てた作戦だったら不安で仕方ありませんから。」


「テメェ~なぁ~~!俺っちをなんだと思ってやがるんだ!」


えっ?ダメシマウマですけど何か?おっと危ない。危うく口にするところだった。

なんかゼブラさんがジト目でこっちを見て来るんだけど、最近この人も僕の心を読むようになってきたからなぁ。

さて、そろそろ開店時間か。話の続きはそっちでするかな。僕はゼブラさんの質問をスルーしつつ『ゴージャスずんだ』へと向かう。


「…いらっしゃいませ~。お二人さんですか~。」


うわぁ~、店員の態度ワルっ!なんかポケットに手をツッコんで気怠そうにこっちを値踏みしてくるんですけど。ちっ!こんな態度日本なら学生バイトでもしねぇよ。

多分僕らが貧乏そうなパンピーの格好だからだろう。僕とゼブラさんの顔が思わず引きつる。だけどここで引き下がってはいけない。

こういう相手にはこれだ。


「はい、二人で大丈夫です。案内をお願いしてもいいですか。」


そう言いながら僕は態度の悪い店員に大銅貨1枚を握らせる。すると店員の態度が一変、とても朗らかな笑顔で僕らを席まで案内しだす。

全く結局世の中金かよ。この店員には店と心中してもらうかな。実は僕がここに来た目的って敵情視察だけじゃないし。

僕が素敵な笑顔を浮かべているとゼブラさんが何かを察したのか、メニュー表を見ながら僕に耳打ちしてくる。


「なぁ、コンヨウっち。さっきから店の様子をマジマジと観察してるけど、何か気になる事でもあるのか?」


「はい、実はウチで作っているスイートポテトを『ラビアンローズ』で作れないかと考えてまして。

この後エレフさんが忙しくなる予定なんですけど、そうなるとスイートポテトの負担が大きいと思いまして。」


「あぁ、それでこの店が潰れた後に使える店員を引き抜こうって考えてるわけか?

ちなみになんでエレフさんが忙しくなるわけ?」


ここで僕はクズミ様のチートスキルについて説明する。ちなみに本人からは話してもいいって許可済みね。


「……と言うわけです。」


「『大豆製品加工』ねぇ。お前、大豆を1トン注文したって言ったけど、それ絶対に俺っちに運ばせる気だろう。」


「いやぁ~、話が早くて助かります。」


「まったく、一度に運ぶ量は2トンまでにしろって言ったけど、まさかその半分をぶち込んでくるとは思わなかったぞ。

集落での買い物を考えたらギリギリじゃねえか。」


「そこを何とかお願いしますよ~。ゼブラ様~。」


「猫なで声ですり寄ってくるな!気色ワリィ!」


さて、兄貴に媚びを売った所で注文をするとしますかね。

なになに…うわぁ~、高!なにこれ、クッキーが3000フルールで紅茶が1000フルール、パウンドケーキが5000フルールにホットケーキが4000フルール。

ねぇわ~。これ絶対にボってるな。これを見ると『ラビアンローズ』が如何に良心的だったかが分かるね。ほら、ゼブラさんの表情も引きつってるよ。

さて、こんだけ高いと注文するのに度胸がいるね。よし、こんな時は…あの真面目そうなネズミ獣人のウェイターさんに話を聞いてみよう。


「あの~すみません。注文をしたいんですけど、おススメは何ですか?」


するとネズミのウェイターさんが少し苦笑いのような表情をしながら答える。


「えっと、本音を言えばお隣のお店をおススメしたいんですけど、この店ならナッツのクッキーが一番マシだと思いますよ。お値段もそこそこで済ませられますし。

ふっくら系がいいならホットケーキですね。紅茶は少し高いですけど、それなりに美味しいです。」


「ちなみにあんまりおススメ出来ないのは?」


ここで僕は特大級の失礼な質問をしたんだけど、ネズミさんはそれにも親切に答えてくれた。


「全体的におススメは出来ませんけど、特にダメなのはゴージャスずんだケーキです。値段ばっかり高くて見た目は豪勢ですけど、味は甘ったるいだけです。」


うわぁ~、こんな真面目そうな子がボロカス言ってるよ。そりゃそうだよね。だってこのゴージャスずんだケーキって10000フルールだもん。

それで砂糖の塊みたいな甘いだけのケーキが出てきたら文句の一つも言いたくなるよね。でもお金持ちは見栄を張って砂糖がいっぱい使われてて美味しいとか言うんだろうな。

では、ここはウェイターさんのおススメ通りに注文しますかね。


「そう、ありがとう。じゃあナッツのクッキーとホットケーキをそれぞれ1つずつ、それから紅茶を2つで。」


そう言ってチップとして大銅貨を1枚渡そうとしたんだけど、


「ウチではそういう事はやっておりませんので。」


と固辞されてしまった。あの出迎えのクソ店員。テメーの情報はラビリさんとマイトさんに流して就職しにくくしておいてやるから覚悟しておけよ!

さてこのネズミのウェイターさんは『ラビアンローズ』に勧誘だな。きっとこの店が潰れたら忙しくなるだろうから。

僕は自分のポーチから紙とペンとインク瓶を取り出し書き物を始める。


「なぁ、コンヨウっち。なにやってんの?」


「これは、あのネズミのウェイターさんが再就職する時の為の紹介状です。是非とも『ラビアンローズ』に欲しいですから。」


「敵地で堂々と紹介状ってお前怖いな。」


そうかな。ヘッドハンティングなんて雇用者と被雇用者の合意でやるものだから気にする事ないと思うんだけどね。社員を引き留められないのは会社側に魅力がないからだし、それで文句を言う権利は会社には無いよね。

さて、暫く待つとさっきのウェイターさんがスイーツと紅茶を持ってきてくれた。


「お待たせしました。ご注文のナッツのクッキーとホットケーキ、紅茶になります。」


「ありがとう、ところでウェイターさん。お名前は?」


「えっと?チュウジと申しますが…」


「ありがとう、チュウジさん。色々質問に答えてくれて。これはそのお礼なんだけど、良かったら考えてくれるかな?」


そう言って僕はチュウジさんに紹介状を渡す。当然チュウジさんは驚いた表情を浮かべながら僕に質問をする。


「あの…これはどういう事ですか?」


「あぁ、この店だけどもうすぐ潰れるから、もしよければ。それから、このクッキーを作ったパティシエさんも良かったら誘ってくれるかな?ホットケーキを作った方はいらないけど。」


「あなたは一体?」


「気になるなら後日それを持って『ラビアンローズ』に来てください。もしかしたら会えるかも知れませんので。」


僕はそれだけ言ってチュウジさんに下がるように身振りで促す。

チュウジさんが去った後、今まで黙っていたゼブラさんが口を開く。


「なぁ、コンヨウっち。もうこの際、敵地で勧誘していた事には目を瞑るとして、なんでパティシエは片方しか勧誘しなかったんだ。」


「いや、一目瞭然でしょう。クッキーはきちんと綺麗な焼き色なのに対して、ホットケーキは膨らみが少ない上に焦げが強いです。

ホットケーキを作った人は多分腕がいまいちかテキトウに作っているかです。」


「いや、俺っち分かんねぇけど。そもそも甘いモノ食わねぇからこんなものなのかな?としか思わねぇもんな。」


「なるほど、スイーツ人口が少ないから分かる人も少ない。それがパティシエの手抜きに繫がっているわけですね。これは『ラビアンローズ』側にも戒めておかないと。」


「…お前ってこういう事やたら詳しいけどいいとこの出なのか?」


「僕の出自についてはまた後でという事で。それよりクッキー一つ下さい。ホットケーキ半分あげますから。」


「クッキーはやるけどホットケーキはいらねぇ。そんな話聞いて食いたいとは思わねぇからな。」


ちっ!いまいちホットケーキを押し付けようと思ったのに失敗した。まぁ極端に不味いわけじゃないし、いいか。

あっ、紅茶はまだ飲めるな。でも僕より淹れるのが下手ってどういう事よ。クッキーはサクサクで美味しいな。どうやら僕の目利きもまだ捨てたもんじゃないみたいだ。


そんな事を考えながら敵情視察をしていたから気づかなかった。

僕の背後に立つ、スイカの皮の匂いがしそうなわがままボディの禿デブウサジジイとその取り巻き共の姿に。

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