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007_スキルの代償

「うん、悪くない家だね。見た目はあれだけど。」


「これで悪くないと言えるコンヨウさんが凄いです。」


僕達はこの集落に何軒かある空き家の内の一つを選び、そこに住む許可を犬の獣人さんから得る事が出来た。

ちなみに犬の獣人さんの名前はドクで、この集落の取り敢えずの責任者らしい。

先ほど家の交渉をしている時にちらりと話が出てきたけど、この集落は何かしらの事情で街に住めなくなった流れ者が集まってできたらしい。


どうもこの森はどこの国にも管轄されていない、いわゆる無主地らしい。

この森はモンスター(野生生物が狂暴化して尋常じゃなく強くなったもの)が多く、その上あるのは木ばかりなので国が管理するにはうまみが少ない。その結果どの国もこの土地を欲しがらない事が理由だそうだ。


まぁ、そのおかげで僕らはこうして周りを気にせず空き家を不法占拠出来るわけだけどね。

何故こんな場所に家があるのか?それはここに居る人達にも分からないらしい。

まぁ、そんな場所だから家もボロい。余っている家の内、一番マシな物を選んだつもりなのだが、パフィさんは不満らしい。別に悪くないと思うけど、どこが不満なのか聞いてみる事にした。


「えっと、パフィさんはどの辺が不満なの?」


「だって、見るからにボロボロですし、すき間風は入ってきそうですし、今にも崩れそうですよ。

むしろ、コンヨウさんが不満を持たないのが不思議です。」


「なるほどね。確かにそれは不満ポイントかも知れないけど、公園でしょっちゅう野宿していた僕から言わせて貰えば屋根と壁があれば十分天国だよ。」


「うぅ!…ぼくが悪かったですから、その話はもうやめましょう。誰も幸せになりませんから。」


なんか泣きそうな顔をされてしまった。そんな大した話じゃないんだけどな。

そもそも僕が野宿をするのは昼間だし。ほら、コンビニのバイトって深夜のシフトもあるじゃない。

そうすると寝るのは昼間になるんだけど、昼間に家に帰るとクソ親父と客と言う名のハイエナ共の雑音に苛ついて眠れないから。

ハイエナ共があのクソを褒め称えるたびに殺意が沸いて寝られたもんじゃねぇ!考えたら腹が立ってきた。クソ!あいつら死んでくれないかな!

おっと、いけない。純朴パフィさんの前でクロキコンヨウになってはいけない。話題を変えよう。


「そうだね。昔のどうでもいい話は置いておこう。取り敢えず目標の一つは家の修繕だね。

確かにすき間風は無いに越した事はないもんね。」


「他にも目標を決めましょう。文化的な暮らしの為です。」


「そうだね。それじゃ………」


………


「うん、こんな所かな。」


二人で話し合った結果、

・家の修繕

・衣類及び生活に必要な道具の購入

・薬等の確保

・食材のバリエーションの増加

の4点について早急に対処していこうという事になった。


「そうですね。ではこれを目標に頑張っていきましょう。」


「ところでこれをやるあてとか僕らには無いよね。」


…二人の間に重たい沈黙が流れる。

家の修繕、僕らに大工仕事が出来るか?答えはNo!

道具の購入、薬の確保、食材のバリエーション?そんな事するお金があるのか?答えはNo!

そもそも街への行き方を知っているのか?答えはNo!

圧倒的な情報不足に僕とパフィさんはその場に蹲る。

それから少しの間を置き、ふと僕は閃いた。分からなければ聞けばいいのである。


「よし、ドクさんの所に行こう。情報収集だよ。」


「はっ!そうでした。分からなければ聞けばいいんですよね。」


「まぁ、ここで知らなかったら完全に詰みだけどね。」


「ははっ…そうですね。」


こうして若干敗戦ムードが漂う中、僕達はドクさんの元へと足を運んだ。

ドクさんの家はこの集落で一番立派な(と言っても周りと余り変わらないオンボロ)家である。

僕が家の扉をノックしようとした瞬間、


「コンヨウさんとパフィさんですね。どうぞお入りください。」


と、ドクさんの声が扉の内側から聞こえる。姿を見る前に僕らの接近に気づいていたみたいだ。

まぁ、招き入れられたので僕らはそのまま家の中に入る。


「こんにちは、コンヨウさん、パフィさん。先ほどはありがとうございました。

ところで今回はどういったご用件でしょうか?」


「こんにちは…あの、これは聞いてもいいか分からないんですけど、どうして僕達が訪ねて来るって分かったんですか?」


「それは私のスキル『嗅覚強化』のお陰ですよ。私は犬の獣人ですから、このスキルと非常に相性がいいんですよ。

匂いを覚えれば、数キロ先の人でも追跡可能ですよ。」


何!この人どっかの捜査官かスパイか何かなわけ?

でもそうか、この崩壊集落が無事に生き残っていたのもこの人のスキルで危険をいち早く察知できたからなんだろうな。

そんな思考を読み取られたのか、少し苦笑いを浮かべながらドクさんは話を続ける。


「さて、あなた達がお訊ねしたい事はもっと別の事ですよね。私に分かる事でしたらお答えいたしますよ。」


「はい、では……」


ここで僕らは不足しているもの色々を手に入れる為にどうすればいいか聞いてみる。

するとドクさんは頭を掻きながら、少し困った様子で答える。


「う~ん、それでしたら役に立てる者が数名いるので、後で紹介しましょう。でも出来れば明日以降にお願いします。」


「それは構いませんが、今日はご都合が悪かったですか?」


「いえ、皆、今まで空腹で倒れておりましたので。それにあなた達も休んだ方がいいです。

スキルを使うと疲れますから。コンヨウさんも顔色が余り良くないようですし。」


そうだった。今までみんな餓死寸前だったんだ。芋を少し食べれば治るなんてそんな甘い話はない、芋だけに。

どうも今まで一人で生きてきたせいだろうか、こういう事に疎くていけない。

でも、スキルを使うと疲れるのか?僕は別に疲れを感じていないけど。


そういえば前世でも疲れに対して鈍感だった気がする。

だから疲れていても平気で動けるし、動けているから周りも大丈夫だと思ったのかもしれない。

せめてコンビニの店長にはウチの事情を説明して保護を求めるべきだったかも知れないな。

あの人だけは唯一まともな人だったからな。僕が死んでシフトに穴が開いたけど大丈夫だろうか。


おっと、思考が横道に逸れている。言われてみればパフィさんも疲れているのかも知れないし、今日はもう全員分の食料を作って休むとするか。


「すみません。ドクさんのおっしゃる通りですね。

それじゃ村の人達全員の晩御飯のお芋はここに置いていってもいいですか。」


「えっ!それはありがたいですけど、大丈夫なんですか?」


「はい、そんなに疲れていませんので。では…」


そう断りを入れて僕は『食物生成(焼き芋)』を実行する。

作る品種は甘さとホクホク食感のバランスがいい紅音姫だ。

あまりねっとりしていると消耗した身体には食べづらいだろうから。

取り敢えず朝食分も合わせて300個だな。ではいざ発動。


……あれ、なんか目の前の景色が霞んで見えるけど…


「コンヨウさん…コンヨウさん!!どうしたんですか!」


「ちょっと!コンヨウさん!しっかり!」


なんか…パフィさんが大声を出している。大袈裟だな。ちょっと倒れただけでそんな泣きそうな顔しなくても…そういえば店長も僕が倒れた時に心配してくれたな。

そっか、僕はパフィさんに心配を掛けちゃったんだな。あッ!ドクさんも血相変えて…本当にみんないい人だな…

でもなんでだろう。みんなに迷惑かけているのに…ちょっとだけ嬉しいのは………こうして僕は意識を手放した。

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