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064_とある若頭の死闘

064_とある若頭の死闘


これはコンヨウとパフィが『ラビアンローズ』でバイトをしていた時の事。場所はナプール近郊の森の奥。


「クッソ!!なんだ!あの化け物共は~~~!!!」


俺は黒犬組の若頭ハヤテ=ブラックだ。俺達黒犬組は絶賛ピンチだ。理由は、


「オラ~!目標はあの小屋ん中や!!全員気張りぃやぁ~!!」


「ロック君、もう少し前に出て!クズ野郎共の眉間をこの石でぶち抜いてやるわ!」


「う~ん、了解だよ〜、セラさん。少しスピード上げるけど、しっかり支えるから安心してね〜。」


「よし、セラさんの投石で敵の隊列が乱れた。前衛部隊、隊列を押し上げろ!!」


「…落ち着いて…狙いは腕か足。グレートボアにだって当てられたんや。のろまな人間なんてただの的や。」


オカシイ。俺はゲッスの変態野郎に依頼されて神父を監視していただけだ。

それなのに今は巨大な大盾を持った角牛族の大男とそれが率いる数人の武装集団の襲撃に遭っている。

こちらの攻撃は大盾の男に全て阻まれ、向こうからは無数のいしつぶてが組員達の頭に飛来し、その隙に棍棒を持った男達がなだれ込み、逃げようとする者は弓矢で手足を射抜かれる。

武装こそ不揃いだが、全員が百戦錬磨の強者だ。こんな連中が相手だなんて聞いてない。もはやこちらに勝ち目はない。俺の取るべき道はひとつ。


「やめろ!!降参だ!!目的はなんだ!」


ここで俺は部下達に武器を捨てる様に命じる。

すると大盾の男が悠然とした足取りで俺の前に進み出る。


「まずは、全員この場に出てきぃや。木の陰に隠れてる弓兵もや!」


ちっ!全く隙がない。俺は伏兵に出していた攻撃指示を取り下げ、姿を見せるように合図を送る。

これで勝ち目は完全に無くなった。後は如何に自分達が死なない様にするかを考えるだけだ。

クソ!若頭になってすぐの依頼がつまらない小間使いだった上に依頼人が変態だった事に腐っていたが、これならまだ何もなかった方がマシだと思える。この仕事が終わったらゲッスのところの依頼は一切受けないつもりでいたのに。

俺は手を頭の後ろに組み、相手の要求通りにする。


「よし、これで全員やな。ほんじゃ小屋の中を調べるけど、妙な真似しくさったら分かっとるやろな!」


それに対して俺は黙って頷き、この化け物の言葉に従う。それだけが現状俺が生き残る唯一の可能性だ。

俺は黙って言う通り大人しくする。


「ドクさんの言う通りです。ミミズク族の神父と思われる男を発見しました。かなり衰弱していますが命に別状はありません。」


「そか、ペテロはん。居てるか!」


「ここに。」


「この神父はんを連れてコンヨウのにいちゃんと合流してや。あの子はギルドに連絡せぇ、って言うてたらしいけど、先に報告するのが筋やろ。」


「承知。」


そう言って角牛族の大男が指示を出すと猿族の男は神父を連れてその場を後にする。

そしていよいよ俺達の番らしい。俺達は『狂犬』の異名で知られる黒犬組だ。きっとだたでは済むまい。覚悟を決めて大男に向き直るが返って来た対応は予想を反するものだった。


「お前ら、もうええで、街に戻っても。」


「はっ?」


俺の頭に疑問符が浮かぶ。この男、俺達にまるで興味がない様に追い払う様に手を振る。

だがこの態度が今まで怯えていた俺のヤクザ者の矜持を傷つけた。


「おんどりゃーー!!なめとんのか!!俺は黒犬組のもんじゃ!ここまでコケにされてただで帰れんのじゃ!!」


「はぁ、たかがヤクザもんが粋がってどないすんねん。それより今助かった事に感謝して、真面目にヤクザもんやりぃや。」


「おんどりゃーーー!!とことん舐めくさりおって!!死に晒せーーーーーー!!」


俺は頭に血が上り、懐に仕舞っていたドスを引き抜く。

だが、結果は見えていた。俺のドスはパキ~ンと情けない音を立てて、大男の大盾に小枝の様にへし折られる。

唖然とする俺に対して、大男は本当に興味が無くなったとばかりに背を向ける。


「おい!待ちやがれ!俺に生き恥を晒せってぇのか!!」


「あのな~。俺はただの一般人やで。なんでわざわざ人殺し何ぞせなならんのや。めんどくさいわ。」


「うるせぇ!!てめぇみたいな一般人がいてたまっかよ!!」


「そないな事言ってもなぁ。そんじゃ貸し一つってことで。

実は俺の恩人にコンヨウって言う困ったガキがおるんやけど。その子に何か困り事があった時に助けてくれへんやろか。」


「けっ!俺がそのガキに手を出すとは考えんのか!」


「あっ!お前今なんて言うた。」


この瞬間、俺は虎の尾を踏んでしまったようだ。圧倒的なプレッシャー。今まで俺を見下ろしていた大男が今は山よりも大きな巨人に見える。

俺は初めて死を実感した。身体が震え、歯がガチガチと鳴り、穴という穴から液体が漏れ出る。俺は完全にこの大男に屈してしまった。

それを見た瞬間、大男は気配を緩める。


「粋がるのもほどほどにしとかんと怖い目にあうちゅう事がよう分かったやろ。今後はせいぜい気ぃ付けることや。」


大男は今度こそこの場を去る。

俺はその背中を見た瞬間、安堵と恥辱の両方の意識に苛まれていた。俺はその苦痛から逃れる為に虚勢を張る。


「そのコンヨウってガキはどんな奴だ!特徴が分からねぇと借りが返せねぇだろうがよ!!」


「…黒髪、黒目の小さくて痩せっぽちの人族の小僧や。」


それだけ言って、何かを呟きながら大男はその場を去っていった。


「はぁ、あんなんでも戦場以外で人殺したら戦士じゃなくなるもんな。そしたらミルやガキどもに顔向けできんくなってまうやろ。

まぁ、貸しが返って来たら儲けもんってことで…」


角牛の元騎士は不器用な自分にウンザリしながら自分の今いるべき場所へと戻っていくのであった。

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