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006_スカンク獣人パフィ

ぼくはパフィ。両親はいません。多分クマ族の獣人です。

ぼくは一つのコンプレックスを抱えていました。それはおならがとても匂うという事です。

ぼくはその事でイジメられて、それが嫌で家出をしたのですが、そこで不思議な人に出会いました。


彼の名前はコンヨウ。黒髪、黒目の痩せた小さな少年。

ぼくはその時お腹が空いていて甘い匂いを感じたので、その発生源である彼に思わず声を掛けました。


「あの~、すみません。何やら甘くていい匂いがしたのですが、もしかして食べ物をお持ちでしょうか?」


すると彼は即答しました。


「いえ、もう食べたので持っていませんよ。」


凄く素っ気ない回答でした。いや、むしろ若干不機嫌そうでした。

そりゃそうですよね。この質問ってよく考えなくても食べ物をたかってますもんね。

でもお腹が空いて仕方がなかったぼくは思わず愚痴をこぼしてしまいました。


「そうでしたか。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。なにぶん2日も食べていないものでしたから。」


これを聞いた瞬間、彼の顔色が変化しました。そして、


「えっと、失礼ですが、あなたは水とか飲み物をお持ちですか?」


彼の質問の意図が分からず、でも手元に水があったので彼に渡しました。すると彼はその水を飲み、


「あの、実は先ほど食べていた焼き芋なんですけど、まだ少し残りがありまして。お水を頂いたお礼に宜しければ。」


ここでぼくは彼の意図に気づきました。

きっと彼はとてもお人好しで、ぼくがなにも食べていないと言ったから何とか食料を渡したいと思ったんでしょう。

でも手持ちの限られた食料を渡すにはそれなりの理由が必要だったんですね。

だから水を要求した。タダで食料を渡してしまえば、際限なく食料を強請られる可能性があったから。

自分の発言を恥じ入っていたぼくはその後想像を超える光景を目の当たりにしました。


なんと彼はいきなり手元から焼き芋を5つ取り出し、その内の4つをぼくに渡してました。

水を一杯渡しただけでお芋を4つもくれました。どう考えても釣り合いません。その上そのお芋は極上の味。

芋の品質も大きさも焼き加減もどれを取っても素晴らしく、しかも焼きたて。

この時、つい出来心でいけないと分かりつつも質問してしまいました。


「このお芋、スキルで作ったものじゃありませんか?」


すると彼の顔色が見る見るうちに青ざめました。これは聞いてはいけない質問だったと思い、ぼくは慌てて言い繕います。


「あっ!もしかして聞いちゃいけない質問でしたか?そうですよね。相手のスキルの情報を聞き出すのはマナー違反ですもんね。

ぼくは役立たずのスキルしか持たないので、凄いスキルを持っている人が羨ましくて。」


すると彼はホッとした様な表情で、スキルについて質問をしてきました。どうやら彼は記憶の一部が欠けているようで、ぼくに常識について聞きたいと言ってきました。

ぼくは今まで頼られた事が無かったからちょっと調子に乗って、誰でも知っているような事を得意げに話していたと思います。

でも彼は嫌な顔一つせず、むしろ感心した様な表情でぼくの話に聞き入っていました。


それから話はぼくのスキル『ガス操作』についてになりました。

その時に彼はぼくのスキルの使い道とぼくの種族について話してくれました。

どうやらぼくはスカンク族と言う種族で、『ガス操作』はスカンク族の能力である、匂いのするガスを自在に操るスキルだったそうです。

この人は記憶が一部欠けているだけで本当は凄く博識な人なんだとぼくは心底感心しました。


それからぼくとコンヨウさんはお互いに協力する事になりました。

ぼくは自分が初めて人に必要とされたみたいでとても嬉しかったです。

きっとこの時の気持ちは一生忘れられないものになったと思います。



それからぼくらは水場の周りを探索しました。

探索の途中で、ぼくの『ガス操作』スキルを試す事になり、ガスで大雀を倒す事に成功したのですが、その大雀をコンヨウさんが回収した時、


「くっさ!これはちょっときつい。」


「えっ…」


ぼくはその言葉に対して無意識に声を上げていました。その時思ったのは『またおならが臭い事で嫌われる』でした。

きっとこの時のぼくは酷い顔をしていたと思います。恐る恐る顔を上げてコンヨウさんの方に視線を向けると、


「ゴメン!今のは失言だったよ。」


彼は頭を下げてぼくに謝罪してきました。それは今まで受けてきた迷惑がる声や嫌悪の表情ではありませんでした。


「君のスキルを試したんだから少しくらい匂うのは当然だ。

なのにそれを悪いみたいに言ってしまった。謝るから許してくれないかな。

もし許せないって言うなら何かしらの償いをするから。」


そこにあったのは純粋に自分のミスを後悔する真摯な姿勢でした。それを目の当たりにしたぼくは思わず呟いていました。


「あの…ぼくの事、嫌いにならないんですか?」


「えっ!なんで?今のは僕が悪かったんだ。君が僕の事を嫌いになる事はあっても、僕が君の事を嫌いになるなんておかしいだろう。」


この言葉を聞いた時、心底ホッとして、そして心底救われました。

この人だけはぼくをおならの事で嫌いにならないでくれる。そう思うと涙が溢れてきました。

するとおかしい事に彼は慌てふためきながら、焼き芋を手渡してきました。どうやら謝罪と仲直りの印だったみたいです。

そのお芋は今まで食べた中で一番おいしくて、もうお菓子なんじゃないかってくらい甘い、とっても幸せな味がしました。



美味しい焼き芋を食べながらご機嫌で道を進むとぼく達は小さな集落に到着しました。

そこには飢えて動けなくなった獣人の皆さんがいました。

それを見たコンヨウさんは今までぼくが見た事が無いような鬼気迫る表情をしていました。

ぼくは彼に言われるがまま住民の皆さんにお芋を配りました。

でも自分で食べられないほどに体が弱っている人達が何人かいました。


「…さぁ、食べて。お芋しか無いけど…それでもたくさんあるから…お腹いっぱい食べて。」


そう優しく倒れている子供に語り掛けながら、お芋を千切って子供の口に運ぶコンヨウさんの顔は泣いているみたいでした。


「足りない人がいたら言ってください。お芋ならたくさんありますから。」


そしてあろうことか、彼は人前でスキルを発動させました。

あれだけ警戒していたのに。ぼくは思わずコンヨウさんに責める様な口調で問い詰めてしまいました。

ぼくはヒドイ奴です。目の前で飢えている集落の人とそれを助けたいと言うコンヨウさんの意思より、彼と自分の安全を優先していました。


「パフィさん。心配してくれてありがとう。僕はこれからまた別の場所に行こうと思う。

パフィさんとはここでお別れだね。」


色んな感情が綯い交ぜになったような複雑な表情で呟く彼の言葉に、僕は金づちで頭を殴られた様な衝撃を覚えました。

このひねくれ者で誠実なお人好しを一人にしてはいけない。


「ふざけないでください!!!」


ぼくは思わず叫んでました。


「なんでそうなるんですか!!コンヨウさんはみんなを助けたんですよ!

なのに自分は悪い事をしたみたいな顔をして!どうせ自分といると迷惑だから別れようとか考えたんでしょう!

コンヨウさんはもっと人に頼ってもいいんですよ!」


なんであなたがそんな顔をしないといけないですか。

いっぱい考えて、悩んで、それでも見ず知らずの他人を見捨てなかったあなたがなんで自分を責めているんですか。


「コンヨウさんは人を信用出来ませんか?ぼくは頼りないですか?」


きっとこの人はそのスキルのせいで人を信じれなくなったんだ。

それでもぼくは…あなたに…コンヨウさんに信じてもらいたい。


「コンヨウさん…ぼくを…見捨てないでください…」


ぼくは…あなたと別れたくありません。

ぼくは本当に卑怯者だ。こんなことを言えば、コンヨウさんが別れを躊躇う事くらい分かっているのに。

これは彼の信条であるギブアンドテイクを否定する行いだ。それでもぼくは…あなたと一緒にいたい。

ただ泣いてコンヨウさんに縋るだけのぼくと困った顔をする彼。

そんなぼく達の様子に犬の獣人さんが割って入る。どうやらお礼がしたいらしい。するとコンヨウさんは、


「実は先ほど見せたスキルなんですけど、以前このスキルが原因でトラブルになった事がありまして…それで今日ここで起こった事は他言無用でお願いしたいんですよ。」


まず犬の獣人さんに口止めをしました。


「実はその関係で定住する場所が見つからず、僕とこのパフィは住む場所を探しておりまして。

もし空き家などありましたら貸して頂ければ幸いです。

ボロくても構いませんので、2人住める場所を希望します。」


えっ?2人分の…家?


「それでは、今回のお芋はその空き家を借りる為の家賃と言う事にさせて下さい。

そしてこれから僕はこの集落に住ませてもらう為の家賃を住人のお芋という形で払っていきます。

これはそういう契約という事でよろしいでしょうか?」


そしてそれをギブアンドテイクの形にした…これってつまり。


「では、交渉成立ですね。僕はコンヨウと言います。今後ともよろしくお願いします。」


この言葉はおそらくここの住人の皆さんに向けた言葉なんだと思います。

でも何故かそれが自分にも言われているような気がして、ぼくはそれが無性に嬉しかった。

これからもよろしくお願いします。コンヨウさん。

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