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059_バイト戦士パフィとヒヨリ店長

「よくお似合いですよ。パフィさん。」


「うぅッ、ひらひらして動きにくいです。」


ここは『スイーツショップ_ラビアンローズ』の更衣室。

ぼくは今、『ラビアンローズ』の護衛任務に就いているのですけど、ちょっと大変な状況です。何故なら、


「こっちの赤のリボンはどうかしら。」


「ちょっと明るすぎない?お店に出るんだからここは落ち着いた青がいいと思うけど。」


「パフィさんはまだ11歳なんでしょう。可愛いピンクの方がいいわよ。」


等という感じでお店のお姉様方3人に絶賛着せ替え人形にされています。

そもそもの発端はコンヨウさんから届いた一通?の『芋文』からです。

ぼくは『芋文』の内容全部は読めなかったので、ラビリさんに読んでもらったんですけど、


「えっとね、パフィちゃん。これはコンヨウさんからの指令書みたいだけど、本当にこの通りにするんですの?」


「指令書ですか!つまりコンヨウさんはぼくを頼りにしているという事ですね。

分かりました、やります。ですので指令内容の説明をお願いします。」


「分かったわ。じゃあ読むわね。

『パフィさんへ、これから護衛だと思うけど、せっかくだからお店のウェイトレスさんの恰好でバイトしながら任務にあたってね。

PS.これが読めたらウェイトレスは免除でいいよ。 byコンヨウ。』だそうよ。」


「あのぉ~、今からでもウェイトレス免除には…」


「ダメね。だってさっきパフィちゃんはOKしたんですもの。」


「わぁ~~~~~ん!!コンヨウさんのバカ~~~~~!!」


という事があったわけです。

なんか普段のキリッとした雰囲気からは考えられないくらい可笑しそうな表情を浮かべているラビリさんを、ぼくは精一杯睨みつけながら現在に至るわけです。


「どれどれ、だいぶ可愛くなったわね。でもコンヨウさんもとんだ朴念仁ですわね。

こんなに可愛い子に男の子の恰好をさせるなんて。」


「それはぼくの希望です。動きやすくって丈夫な服じゃないとコンヨウさんの護衛は務まりませんから。」


そう、ぼくは今まで男の子用の動きやすいズボンと丈夫な上着を着ていました。

ぼくくらいの歳なら別に不自然な事じゃないのでお店の人も特に何も言わなかったんですけど、ラビリさんには少し不満だったみたいです。


「ダメよ。女の子は可愛くないと。ましてや素材がいいのだから、もっと綺麗に着飾って。」


「きっと無駄だと思いますよ。コンヨウさん、初対面でラビリさんの事、子供だと思っていたみたいですし。」


「………」×3


「みなさん、なんですか。その目は…」


「ひぃ!」×4


ぼくが暴露したコンヨウさんのダメダメっぷりにお姉様方が『あり得ねぇだろ』って表情をしたのに対して、ラビリさんがナイフのように鋭くツッコみます。

別にぼくは怒られているわけじゃないのに、思わず悲鳴を上げてしまいました。ラビリさんって美人なのにとっても怖いです。

そんな怯えるハムスターのようなぼく達を救ってくれるかの如く、一人の女性が更衣室に入ってきます。


「あなた達、パフィさんの準備は済んだのですか。もうすぐ開店時間です。仲良くするのは結構ですが手を止めないで下さい。」


「はい、店長。」×3


キリッとした雰囲気に凛とした佇まい。どことなくラビリさんに似たウサギ獣人の女性。

この『ラビアンローズ』の店長ことヒヨリさんです。彼女は呆れた様子でお姉様方に仕事を促すと今度はラビリさんの方に向き直ります。


「お嬢様。パフィさんの事が気になるのは分かりますが、他にお仕事がございましょう。

ここは私達に任せて、そちらに向かわれて下さい。」


「分かっているわ。ヒヨリ、後は任せたわね。」


「仰せのままに。」


そう短い遣り取りをした後、少し不満そうな顔で店の外に向かうラビリさん。

確かヒヨリさんは20歳でラビリさんより年下でしたが、こうしてみるとヒヨリさんの方が大人っぽいです。

さて、ぼくも準備をしないと。そう思っていると


「パフィさん、ちょっと待って。」


不意にヒヨリさんに呼び止められました。


「ちょっとお話をしてもいいかしら。それから途中になっているお着替えも済ませないとね。」


そう言うと、ぼくの頭につけられた大量のリボンを全部取り外し、代わりに可愛らしいけど落ち着いた薄ピンクのリボンをつけてくれました。


「全く、あの子達は。後輩が出来て嬉しいのは分かるけど、接客なんだから派手してどうするのよ。」


「あの~、お話って何ですか?」


ぼくの質問にヒヨリさんはそのキリッとした表情を少し堅くして応じます。


「あなたは護衛としてこのお店に来てくれたわけだけど、私はあなたの能力を知らないわ。もしよかったらお互いの能力について確認しておきたいの。」


「確かにそうですね。分かりました、では「いえ、私から言うわ。」」


僕が答えようとしたのに対して、ヒヨリさんが待ったをかけます。

きっとコンヨウさんがいたら、『先に能力を明かす事で信用を得ようとしているんだろうね』って言っていたと思います。


「私のスキルは3つ、『短刀術』『空手』『合気道』よ。正直『短刀術』以外は何のことだか分からないんだけどね。

多分素手での戦闘スキルだとは思うわ。私、素手でも結構強いの。(お姉ちゃんの『ワード検索』でも引っ掛からなかったですしね。)」


なるほど、ヒヨリさんは接近戦闘タイプ。遠距離範囲攻撃タイプのぼくと相性がいいですね。

説明しながらちょっと渋い表情をするヒヨリさんに僕もスキルを明かします。


「ぼくのスキルは『ガス操作』です。」


「『ガス操作』…?」


やっぱりそうなりますよね。ぼくだってコンヨウさんに説明を受けるまではよく分からない役立たずのスキルだと思ってましたから。


「えっと、コンヨウさんが言うには気体を操るスキルらしいです。

ぼくの種族はちょっと特殊で匂いのする空気を体内に作り出す事が出来るみたいで、それを操る事が出来るんです。」


「『スカンク族』…」


「はい、コンヨウさんが言うには特殊な気体で戦う戦士の一族だそうで。」


「そう…ちなみに『スカンク族』と『ガス操作』についてはコンヨウさんに聞いて知ったの?」


「はい、コンヨウさんってホントに物知りなんですよ。」


えっと、さっきからコンヨウさんの話ばかりしてますね。でも仕方がないです。だってスキルの事を話そうとするとどうしてもコンヨウさんとの話になってしまいます。

自然と表情を緩ませながら話すぼくを見て、難しい顔で話を聞いていたヒヨリさんが深呼吸をした後、少し柔らかい口調でぼくに聞き返してきます。


「パフィさんはコンヨウさんの事をどう思っているの?」


「そうですね。困ったお兄ちゃんでしょうか?

性格はひねくれ者で小悪党ですし、自分が不利になると土下座も躊躇なくやるくらいプライドの欠片も無い人です。

そのくせ貸し借りにはやたらこだわりますし、立場が弱い相手にはやたら強気ですし、気に入らない相手にはねちっこく嫌がらせをしますし、基本的に小っちゃい人間です。」


「…そこまで言うって、どんだけなの?」


「事実ですから。でも仲間と決めた人にはとっても優しくて、お腹が空いている人は絶対に見捨てられなくて、でも助けたくても無償で何かをあげるって事は絶対にしなくて、だから誰かを助けたい時は無理やり理由をこじつけて。

その上、自分が与えたものに関しては無頓着で、既にたくさんのものを与えているのに、お礼をしようとすると『借りを返す為だからいい』の一点張り。

そしてなにより、自分に助けが必要な時でも絶対に助けを求めたりしない。人を頼る事そのものを恐れているみたいです。」


「でも今回はパフィさんや他の方々を頼っています。」


「それはラビリさんやスフィーダさんを助ける為です!そしてここでぼく達とラビリさん達、スフィーダさんを結びつける事が、ぼく達にとってプラスになると判断したからです!

コンヨウさんは…自分の為に助けて欲しいって絶対に言わないんです!」


そうだ、コンヨウさんは不労収入の為とか、美味しいスイーツの為とか色々理由をこじつけますけど、そんなモノが無くてもコンヨウさんは生きていけるんです。

あの人は…その気になれば一人で全てを完結出来てしまうんです。でもそれは…すっごく悲しいです。


「パフィさん…使って。」


そう言ってヒヨリさんが白い綺麗なハンカチを差し出してくれました。ぼくはこの時自分の視界が歪んでいる事に初めて気づきました。

無言でハンカチを受け取り目の周りを拭うぼくに、ヒヨリさんがとても優しい口調で語り掛けてきます。


「お互い大変ね。助けたい人が自分を頼ってくれないというのは。」


「…ヒヨリさんにもいるんですか?」


意外です。ヒヨリさんくらい頼りになる人なら、きっと困ったときに助けを求めたくなるのに。


「えぇ、その人は普段ツンケンしているけど、私と二人っきりになると甘えん坊で。

ぱっと見完璧超人だけど、どこか抜けていて、機嫌が悪いとすぐに拗ねるし、意地っ張りだし。」


「随分と扱いづらそうな人ですね。」


「本当にね。でも私が泣いている時は必ず助けてくれて、重い責任を背負っていて、時々愚痴は零すけど、決してやめたいとは言わない。

一人で何でも背負い込むからドンドン苦しくなるくせに、それを他人には持たせようとしない。全く何のために私が隣にいるのやら。」


この時に浮かべたヒヨリさんの悔しそうな顔が印象的で、胸に突き刺さるようでした。この人はきっとぼくと同じ引け目を持っているんだな、っと思ってしまったからです。

そんな事を考えていたぼくの心境に気を使ってくれたのか、ヒヨリさんは明るい表情で話を切り替えます。


「さて、身の上話はこの辺にしましょう。それよりメニューはもう覚えたかしら?

今日は私について、色々覚えてもらうけど最低限の知識は頭に叩き込んでおいてね。」


「えっ!でも僕、文字の読み書きが完璧じゃなくって。」


「そうだったわね。じゃあ私が読んであげるから開店時間まではメニューを覚えるところから始めましょう。」


「はい。」


この後、ぼくはヒヨリさんについてメニューを覚えたり、お客さんの席への案内、注文の取り方、配膳、お皿引きの仕方を教えて貰ったりしました。

そしてその甲斐もあって、午後には席への案内、配膳、お皿引きだけはさせて貰えるようになりました。お会計については計算があるので任せてもらえませんでしたが。

あとぼくは護衛の仕事の関係上、どうしてもホールにいないといけないのでお皿洗いとかキッチン作業については免除されました。

ぼくも紅茶とか淹れてみたかったんですけど、その事を口にすると『最高のお茶を淹れたいなら3年は修行をしないといけませんがその覚悟はおありで?』っと言われて断念しました。

飲食店というものに今まで馴染みが無かったので色々苦労しましたが、新しい発見も色々あって新鮮な気分になりました。


結局この日は何事もなく過ぎ、普通にアルバイトをするだけとなりましたけど、ヒヨリさんとも仲良くなれましたし、とってもいい日だったと思うぼくでした。

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