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058_五十歩百歩の誤用

「うわ~、あれも無いわ~。」


僕は今、絶賛単独行動中だ。目的はゲッスの監視なわけだけど、


「あれがゲッスか。なんかこの世の全ての害悪を見せつけられた気分だわ~。」


昨日商業ギルドでゲッスの似顔絵と住所を確認した時に覚悟はしてたんだけど…ぶっちゃけあり得ないわぁ~。

不健康に痩せた体躯の狐の獣人、ギラギラとした目の下にはクマ、っとここまではまだいい。

だがその服装はキンキラキンの悪趣味なもので、体中にジャラジャラと高そうな宝石付きのアクセサリーを纏い、その隣には(おそらく)美人の狸獣人の秘書さんを侍らせて、そのお尻をいやらしく撫でまわしている。

秘書さん、すっげー嫌そうな顔してるけど、ゲッスのクズ野郎はお構いなし。なんか遠くだから分かりづらいけど、微妙に股間にテントが張っている様に見えるのは僕の気のせいだと思いたい。


この後秘書さんはエロ同人のような目にあうのかな?あっ!秘書さんがゲッスに平手打ちかました。ゲッスの奴、なんか不気味な笑みを浮かべながら喜んでいるし。

奴はあれだ、真正のドМだ。一部歯が抜けた状態で若干涎を垂らしながら嬉しそうに身悶えしている姿に生理的な不快感を感じる。見ろよ、秘書さんもドン引きだよ。

やべ~、あのマイトさんがこの街の膿だと言っている意味が良く分かった。こいつは罪状無しで今すぐコロコロした方が世の為人の為のような気がする。

まったくこういう時、法律って言うのが邪魔をする。誰か~!ゴ〇ゴ〇三さん呼んできて下さ~い!100万フルールまでなら出しますから~~!!


おっと、いけない。奴が馬車に乗った。方向は…ヤバい!!孤児院の方向だ。今はまだラビリさんからお金を受け取ってないのに。このタイミングで借金の催促されたら手の打ちようがない。

多分、ゼブラさんが孤児院にいるけど、大丈夫かな?まぁ、第三者がいる状態なら、流石のゲッスも無茶は出来ないだろう。

でも心配だから孤児院に先回りだ。裏路地を進めば馬車より早く孤児院に着けるはずだ。


それから走る事暫し、僕は無事先回りに成功。孤児院の中には本日休みでまったりと朝ごはんを食べるスフィーダさんとガキどもと、いやらしい目でスフィーダさんを眺めるゼブラさんの姿があった。

おいおい、ここにも自分の欲望に忠実なクズがいたか。これじゃゲッスと五十歩百歩だよ。ちなみにこれは、やってる事は似てるけどゼブラさんの方がまだマシ、って意味で使ってるからね。


さて、チョイクズゼブラさんはガチクズゲッスを無事に撃退出来るだろうか?ここは一旦様子見だね。ゲッスも来たみたいだ。

さっきの狸の秘書さんが礼儀正しく孤児院の扉をコンコンっとノックする。


「ごめんください。こちら、クズミ孤児院で宜しいでしょうか?どなたかいらっしゃいますか?」


「はぁ~い、今出ま~す。」


秘書さんの呼びかけにスフィーダさんが応じる。ここでゲッスが行かないあたり、単にゲッスが偉そうにしているだけなのか?それとも居留守を警戒したのか?判断が難しいところだ。

スフィーダさんが扉から出てきたけど、酷く驚いた様子だ。無理もない。女の人に呼びかけられて外に出てみれば目の前にいたのはキンキラキンのやせ細った公然わいせつ罪なんだから。

困惑するスフィーダさんを余所に公然わいせつ罪が口臭がしそうな口を開く。


「初めましてかな。スフィーダさん。

まず自己紹介をしておこう。私はゲッス。これだけ言えば用件は分かりますね。」


そう言ってゲッスは下卑た笑いを浮かべる。流石の鈍感スフィーダさんもこの意図が分かったらしく少し及び腰になりながら、それでも何とか毅然とした態度で応じる。


「もしかして借金の事でしょうか?今、中では子供達が食事中です。出来れば場所を変えてお話をしたいのですが。」


「そうですね。流石に子供の前でする様な話ではありませんね。良ければ私の馬車の中ででも、ゲヘヘッ。」


うわぁ~…ゲヘヘってリアルで言う奴初めて見たよ。キモッ!マジキモッ!僕がバードスキンになったところで孤児院の中に動きがあったみたいだ。


「よぉ、何の話をしてるんだい?俺っちも混ぜてくれるかな?」


おっと、登場したのはチョイクズゼブラさん。さて、彼は真正キモクズのゲッスを撃退出来るのか。


「スフィーダさん、こちらの紳士は?」


「俺っちはゼブラ。この孤児院の新しい出資者だ。」


キモクズゲッスがいやらしい目を向けながらスフィーダさんに話掛けるのをゼブラさんが華麗にインターセプト。

さりげなく、スフィーダさんとゲッスの間にその身体をねじ込みながらゼブラさんが話を続ける。


「今、孤児院のみんなと一緒に朝飯の最中なんだ。出来ればこの場で手短に頼むわ。」


おっと、ゼブラさんはこの場で話をつけるみたいだ。でもちょっと拙いかも。第三者なら無茶はしないと思ったけど、自分で出資者を名乗った以上当事者になってしまう。

ゲッスも商人だから、交渉事は得意だろうし、後ろには護衛と思しき黒服が数人控えている。交渉、暴力の両面でゼブラさんが不利だ。

いざとなったら僕が出るしかないか。出来ればもう少し陰で暗躍していたかったんだけど。そんな事を考えているとゲッスの方に動きがあった。


「分かりました。朝早くから申し訳ありませんでした。では手短に済ませましょう。

先ほどスフィーダさんが仰った借金の件です。」


「それは…」


ゲッスの言葉にスフィーダさんが僅かに怯む。だがそんな彼女にゼブラさんが小声で何か呟いた後、一歩ゲッスに歩み寄り身振り手振りを交えながら言葉を紡ぎ始める。


「ゲッスさん、その借金の償還期限は1ヶ月後のはずだ。俺っち達は今返済の為に金策中なんだぜ。だから約束の日まで待って欲しいんだけどな。」


「勿論存じております。しかしこちらも商人です。債権を焦げ付かせるわけには参りません。

見た所このオンボロ孤児院には借金を返すあてがある様には思えない。そこで借金の返済が可能かその証明をして頂きたいと思いまして。

つきましては、借金の一部をこの場でお支払い願いたい。」


なるほど、この場で一部返済を求める事によって精神的、経済的に追い詰めるのが狙いか。そして拒否すれば黒服で物理的に強行に及ぶ。

さて、ゼブラさんはどう出るかな。なんか口元が三日月になって凄い素敵な笑顔をしてるけど。ゲッスとその周りがスゲービビってるし。

スフィーダさん、あなたはビビらないであげてくれるかな。その人味方だからね。


「なるほど、確かにあなたの言い分はごもっともだ。俺っちも出資者だからな。

返済する義務は確かにあるんだけど、元々の債務者であるクズミ神父には請求しないのかい?」


「あの神父は行方をくらましております。契約書にも『払えない場合は孤児院のもの(・・)で返済する』と記載されております故。」


「ほぅ、それはお互い困ったね~。ちなみにクズミ神父が見つかった場合はそちらに請求すると?」


「勿論でございます。わたくしどもとしましてはどちらから支払ってもらおうと問題はございませんので。」


「…わかったぜ。では取り敢えず返済の担保として20万フルール支払おう。クズミ神父が見つかった時はこの20万は返して頂けるんだろう?」


「勿論でございます。なんでしたら一筆したためましょうか。」


「あぁ、頼むぜ。内容は『クズミ神父が見つかった場合、返済義務は孤児院側は一切負わず、今まで孤児院側が支払った分も返却される。現在の支払額20万フルール』で。」


「承知しました。タヌカさん、お願いします。」


そう言うとゲッスは狸の秘書さんことタヌカさんに指示を出し、書面を作成させる。

そしてそれを受け取ったゼブラさんが書類に不備が無いか確認しサインをした後、ゲッスに20万フルール手渡す。

多分あの20万ってゼブラさんのポケットマネーなんだろうな。大銀貨2枚がなんとも切ない。

それを確認した後、ゲッスは意外とあっさりとその場を後にした。黒服を使ってごねると思ったけど、意外に理性は働いているのか?

そんな事を考えていると、今まで黙っていたスフィーダさんがゼブラさんに話掛ける。


「ゼブラさん。危ないところをありがとうございました。わたくし一人ではどうなっていた事か。」


「なぁに、いいって事よ。この対処だってドクさんに教えて貰った通りにやっただけだしな。」


「いえ、今のゼブラさん、とっても頼もしかったです。」


「…あぁ、俺っちで良かったらドンドン頼りにしてくれよな。」


頬を赤くして恥じらいながらお礼を言うスフィーダさんに、同じく顔を真っ赤にしたゼブラさんが鼻の下を伸ばしながら調子のいい事を言っている。

下心全開のチョイクズゼブラさんにちょっとイラッとしたけど、まぁ今回は活躍したし多めに見るか。

そんな事を考えてたからかな。この後呟いたゼブラさんの一言を僕は聞き逃してしまった。


「…全く、俺っち達はこんなに頼りになるのに…なんでお前は頼らねぇんだよ。コンヨウっち。」


スフィーダさんと一緒に朝食に戻っていくゼブラさんの背中が少し寂しそうだったのはきっと気のせいじゃないだろう。



一方その頃、


「馬鹿な奴らだ。あの契約にはクズミが死んだ場合(・・・・・・・・・)が含まれていない事に気づきもしないで。

おい、監禁したクズミはどうなっている。」


「ハッ!森の奥の山小屋に食料を与えず閉じ込めております。このまま放置すれば餓死するかと。」


「フフフッ、借金返済に窮して逃げ出したはいいが、森で遭難してそのまま小屋で餓死…計画通りだな。」


「しかし、ゲッス様。どうしてそんなにもあの女スフィーダにご執心なのですか?」


「このたわけが!!そんなの、私の専属女王様になってもらう為に決まってるだろうが!!あの可愛らしい顔に罵られながら私の股間を踏みつけてもらう事を想像しただけで…」


「……」


この時、ゲッス付きの黒服は再就職を真剣に考えるのであった。

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