057_苦労人のギルドマスター
「全く、君のせいでギルドに泊まり込みだよ。妻に浮気を疑われたらどうするんだい?」
「もし疑われたなら、それはマイトさんの普段の行いが原因なので、僕は関知しません。」
僕はギルドに突撃した直後、マイトさんをとっ捕まえてそのままこちらの事情を説明した。
するとマイトさんは責任感が強いのか、もうすぐ帰宅時間だったというのに快く手伝ってくれた。
「手伝ってくれないと、この街の商業ギルドは悪徳商人の不正に目をつぶって私腹を肥やす外道だらけだ~、って叫びたくなっちゃうかも。」って独り言を言っただけなのに。
本当にいい人達ばかりで涙が出そうだ。(棒)
何でこんな脅しが通用するかと言うと、商業ギルドとは元々国が運営する商業組合と言う組織が民営化されたもので、商人の公正な取引を守る事を目的とした組織だったみたいなんだ。
その機能は民営化された今でも引き継がれているんだけど、僕がさっき言ったみたいな事を世間に触れ回ったらどうなるか、もうお分かりでしょう。
キャシーの時のマイトさんの動きが異常に早かったのもこのためだ。
商業ギルドの説明についてはこの辺にしておこうかな。
さて今、僕とマイトさんが焼き芋を片手に調べているのは商業ギルドが管理している取引の内、ゲッスが関わったと思しきものだ。
マイトさん曰く、ゲッスはこの街の膿らしい。
ゲッスが経営するゲッス商会は規模と資金力こそコービット商会にはわずかに及ばないものの、それでもかなりの大きさな上、後ろ暗い人間との人脈の影響力は計り知れない。
先日僕らが関わったシマトラ組や汚職衛兵、それから腐れ受付のキャシーもこの商会の不正に加担していた。
奇しくも僕はゲッスを敵に回す形になっていたのである。いや、むしろこれだけピンポイントに僕に嫌がらせが出来るとかこいつ絶対にわざとやってるだろう。これはコロコロ確定だね。
「しかし思ったより出てきませんね。」
「キャシーのやつ、こういう薄汚い真似だけは得意だったみたいだね。凶悪事件に関してはほとんど証拠が隠蔽されている。」
調べた結果、キャシーが関わっていた商談から出るわ出るわ、不正の山が。粉飾決算に脱税、不正入札に会社資金の横領、挙げていけばキリがない。
しかしこれではまだ弱い。重大事件に関してはほとんど証拠がもみ消されているんだ。
確かにこれだけでも十分に豚箱送りには出来るけど、現状では少し拘留された後に罰金を払って保釈と言うのが関の山だろうね。
殺人とか違法薬物の密売とか人身売買の証拠があれば、一発で破滅させられるんだけどな。
「いっそ、証拠を捏造「ダメだからね!」」
言い切る前に却下されてしまった。この人って怒ると怖いんだろうな。温厚な人を怒らせるの絶対ダメ。
こんな感じで調べものをしたわけだけど、これ以上ギルドで得られるものはなさそうだ。
しかし、ギルドの資料を普通に見せてくれるとか、マイトさんの危機管理能力に少し疑問を覚えてしまうな。その思念が届いたのか、マイトさんは頭を掻きながら、
「あのね、君が言い出したんだぞ。今日中にギルドにあるゲッス関連の資料を調査したい、ってね。
私一人で間に合うわけがないだろう。」
と、答える。確かにそうだね。大商会の資料を全部洗うんだから、一人じゃとても無理だ。
でもだからと言って僕に資料を開示するのはまた別問題だと思うけど。
「心配いらないよ。君は国家権力に逆らうような下手は打たないから。きっと守秘義務もきちんと守ってくれると私は信じているよ。」
「はい…勿論であります。」
さすが海千山千のギルドマスター。温厚ないい人ってだけじゃなくて、清濁併せ呑む強者だったみたいだ。
なんか僕、マイトさんには逆らえない気がするな~。ラビリさんとは違う経験から来る凄みみたいなものがあるんだもん。
そんな事を考えているとマイトさんが少し表情を緩めながら話を振って来た。今はお客さんじゃないからマイトさんの口調も砕けているみたいだ。
「しかし、君は凄いね。これだけの資料を精査するのに一晩どころか3時間もかからないだなんて。ウチに欲しいくらいだよ」
「いえ、整理整頓がしっかりされているみたいですから探しやすかっただけです。それから勧誘はお断りです。」
今は、調べ終わった資料の片付け中で、マイトさんは僕の隣に山と積まれた資料を眺めながら呆れた様子で呟く。
まぁ僕も事務仕事とか探し物はそれなりに慣れているし、きっとここの人達よりかは経験値が高いんだろうね。
素っ気なく返す僕にマイトさんは少し曖昧な笑みを浮かべながら話を続ける。
「もう終わりだから私は仮眠室で休むけど君も使うといい。ちょっと疲れてる様に見えるよ。」
「そうですね。ではお言葉に甘えさせてもらいます。」
うむ、今日は野宿だと思っていたけどちゃんとベットにありつけそうだね。
さて、あんまり無理をするとパフィさんや女神様に怒られそうだしもう寝ようかな。
マイトさんの案内で仮眠室に向かう途中、ふとこんな話になる。
「ところで、コンヨウ君。君はどうして今一人で行動しているんだい?」
「う~ん難しい質問ですね。今、僕がしている事って一人の方が効率がいいですし、手が足りないから役割分担する必要もありますし。
でも、マイトさん聞きたいのはこんな返事じゃないんですよね。」
「……」
僕の返事にマイトさんは黙って頷く。なんかこの人に隠し事とか出来なそうだな。きっと僕があれこれ抱えている事を察して話を聞いてくれてるんだろうな。
「質問に質問で返す様で申し訳ないんですけど、マイトさんは人殺しについてどう思いますか?率直にお願いします。」
この質問にマイトさんは少し表情をこわばらせる。どうやら僕の事情の一部を察してくれたようだ。そして少し考えた後にマイトさんが口を開く。
「それは難しい質問だね。いけない事だとは思うよ。でもそれをしないと自分が死ぬような状況ならやらざるを得ないかも知れない、かな。」
「ありがとうございます。ちなみに法律的にはなんですけど、殺人が発覚し犯人が分かった場合、犯人は自分の正当防衛を証明できなければ有罪になる。これがこの国の法律ですよね。
ただし正当防衛の中には肉体的、精神的、財産的に何かしらの損害を被った場合というひどく曖昧な内容だったかと。」
「…そうだね。」
「つまり、権力者や資産家が『自分の身体、もしくは財産が危険に晒されたから相手を殺した。』と主張すればそれが通って無罪放免になる可能性が極めて高いという事ですよね。」
「極端だけど、その通りだね。」
「そして今回の相手は権力者と癒着した資産家なんです。もう、僕が何を言いたいかお分かりですよね。」
「つまり、必要以上に仲間を危険に晒したくないっと。」
「…まぁ、そんな所です。ではもう休みましょう。」
残念ながらその解答だと50点ですね。
「そうだね。明日も『違法な契約の失効処理』をしないといけないし、『頼まれ事』も山積みだからね。じゃあお休み、コンヨウ君。」
「なんかすみません。ではお休みなさい。マイトさん。」
こうして僕とマイトさんは仮眠室に備え付けられた2つのベットをそれぞれ使用する。
マイトさん、残りの50点は…手を汚すのは僕一人で十分って事ですよ。
僕はそのまま3時間ほど仮眠を取ってマイトさんより先に起きて、その場を後にした。
お礼代わりに『冷めない魂』で作った焼き芋を置いて行ったけどちゃんと食べてくれたかな~。マイトさんのお好みは僕と同じ『紅音姫』みたいだったけど。




