055_独りの想い
「私の店で倒れたと聞いたので飛んできましたが、思ったより大丈夫そうですわね。」
ここは僕らが今夜泊まる宿屋カジツ亭の食堂。
倒れた僕を心配してラビリさんがやって来たんだけど、見ての通りあんまり心配されていない模様。
ちなみに今ここにいるのは僕、パフィさん、ドクさん、ラビリさんの4人だ。
ゼブラさんとペテロさんは一旦集落へと戻ってもらった。ゼブラさんは明日の分のスイートポテトを受け取る必要があるし、ペテロさんは明日ネイチャンさんを連れて来る時の護衛の為だそうだ。(ズンダダ周りが怪しいのでラビリさんには事後承諾という事で)
さて、まずはドクさんの紹介と今後について話さないとね。
「ラビリさん、紹介しますね。こちらドクさん。僕らが暮らしている集落の責任者で僕の先生です。」
「ドクです。初めまして、ラビリさん。コンヨウ君がお世話になっています。これからよろしくお願いしますね。」
「恐縮です。ドクさん、で宜しいでしょうか。私の方が年下ですし、コンヨウさんに話す感じにして頂いて大丈夫ですわ。」
「そうかい。ではお言葉に甘えさせてもらうよ。」
優しい口調で話すドクさんとは対称的にあのラビリさんがおっかなびっくりな様子。ラビリさんってもしかして年上の人に物凄く気を遣うタイプなのかな。
でもゼブラさんにはそんな素振り見せなかったけど、やっぱりダメ人間は年上として見れないのかな~。さて、失礼な考えはこの辺にして、話を進めよう。
「ラビリさん、例の喫茶店勝負の方は如何ですか?」
「はい、コンヨウさん達のご助力のお陰でかなりの儲けを出させて頂いておりますわ。
それからエレフさんに教えて頂いたジャムのレシピのお陰で既存の商品もかなりグレードアップする事が出来ましたわ。
おそらくもうすぐ序盤の劣勢が覆るかと。」
エレフさん、そんな事してたんだ。そう言えばきょうパウンドケーキについていたイチゴジャム、凄く美味しかったけどあれはエレフさんのレシピか。うんうん、道理で。
「順調そうで何よりです。ゼブラさんはお役に立てましたか?」
「はい、どうやらズンダダの方も動き出していたみたいで本当にタッチの差でしたわ。
コンヨウさんの忠告とゼブラさんの働きが無かったらと思うとゾッとしますわ。」
「それは良かったです。ゼブラさんへのお給金、奮発してあげて下さいね。」
「勿論ですわ。ところであなた達、随分とお金を集めているみたいですが、何かございましたの?」
おっと、そこでその質問が飛んできたか。これはビジネスパートナーとして話しておくべきだな。
少なくともラビリさんは今僕らと利害が一致しているし、協力して貰って損はないだろう。
「実は……」
「まぁ…そういう事ですのね。それでしたら私の方で工面して差し上げましょうか?」
「へッ?」
「何を驚いていらっしゃるの?たかだか120万くらいで。私はコービット商会の次期当主ラビリ=コービットですのよ。
ちなみに細かくは言いませんが個人資産は億超えておりましてよ。」
ゲッ!ここに来て真のブルジョワジー登場だ。でもただで何かしてもらうわけにはいけない。仮に借りるとしてもそれに見合う対価を用意しなくてはならない。
ここは断るべきだと考えていたのだけど、それを先回りするかの様にラビリさんが言葉を続ける。
「言っておきますけど、これは私の借りを返す為の提案ですのよ。
だって今回の喫茶店勝負、あなたの力が無ければ到底勝ち目はなかったですもの。」
「訂正、僕ら…です。」
「あっ!ごめんなさい。あなた達でしたわね。」
ちょっとキツイ口調になっちゃったけど、ラビリさんは素直に訂正してくれた。普通年下の子供にこういう事言われたら怒りそうだけど、流石出来るお姉様なだけはあるね。
「すみません、話が逸れましたね。では今回はお願いします。
ところでゲッスとクズミと言う名前をご存じでしょうか?」
この瞬間、ラビリさんの表情が不快感を顕わにする。
「クズミについては分かりませんが、ゲッスについては良い噂は聞きませんわ。
やれ詐欺まがいの方法で金銭を騙し取った、やれ借金のカタに女子供を奴隷商人に売り飛ばした、やれ入札の担当者に賄賂を渡して不正に公共事業を落札した。
悪い噂を聞かれればキリがありませんわ。」
「なるほど、ちなみに本業は?」
「基本的になんでも手広くやっておりますわ。ただ裏社会にも人脈があるみたいであくどい事も手広くやってたみたいですけど。確かシマトラ組、だったかしら。」
「アッ!それ僕が原因で親分が豚箱にぶち込まれたヤクザだ。」
「……」
僕の少し抜けたような呟きにラビリさんが黙り込む。でも今聞いた感じだと、潰しても問題なさそうだね。もちろん裏は取るけどね。そのためにマイトさんに動いて貰っているし。
ちょっと素敵な笑顔が浮かんで何故かこの場の全員がビビっているような気がするけどそれは些末な事だよね。さて、手段については後で考えるとして一つ気になる言葉があったので確認しないと。
「ちょっと確認なんですけど、この辺って奴隷売買って認められているんですか?」
「はぁ!何を言ってますの!認めれているはずないじゃありませんか!」
僕の質問にラビリさんが激昂する。そっか、ラビリさんは僕の記憶喪失設定を知らないから街全体を侮辱されたと思ったんだ。
でもラビリお嬢ちゃん、こんなクズを放置している時点で何を言われても仕方がないんだよ。
どうやらリンガなら安心して商売が出来ると思っていたけど甘かったみたいだね。僕自身と集落を守る為に積極的自衛を行わないといけなさそうだ。
僕は自然と冷めていく心をなんとか落ち着かせながら、話を続ける。
「この街全体の事については置いておいて、ゲッスは違法な手段に訴えて来る可能性が高いという事ですね。となると自衛が必要になりますが、僕の関係者という事でコービット商会にも累が及ぶ可能性があります。何か対策はありますか?」
「…ヒヨリはああ見えて優れた戦闘スキル持ちです。」
「ちなみにヒヨリさんに人は殺せますか?」
「!!!」×3
僕の素っ気ない言葉にこの場が凍り付く。まぁ一般人にこんな質問をすれば当然だよね。
でもこの様子だとヒヨリさんには期待できないな。やはりパフィさんに護衛してもらうか。
パフィさんなら非殺傷で相手を無力化できるし。そうなると僕は単独行動か。
いけないな、記憶が戻ってから思考が殺伐としている。人殺しはあんまりやりたくないんだけどな。だってリスクが高いし、ご飯が不味くなるから。
「分かりました。借金返済の当てが出来た事ですし、暫くスフィーダさんの屋台は活動停止して貰いましょう。
それからパフィさんは『ラビアンローズ』の護衛をお願いします。マイトさんとの交渉は僕が単独で行います。」
「コンヨウさん…それって「認めないよ!!コンヨウ君!!」」
「!!!」
僕の提案に震える声で何かを言おうとしたパフィさんを遮る様にドクさんが声を荒げる。今まで見た事がないようなその剣幕に僕は思わず身を震わせ黙り込む。
こんな怒ったドクさんを、いや、人を見るのは初めてだ。あの前世のヤクザ相手でも怯む事が無かった僕がドクさんに怯えている。
この人から敵意はこれっぽちも感じない。ただ僕を心配して、僕の為に怒ってくれている。僕は優しい怒りに触れて、込み上げてくる罪悪感に怯えてるんだ。
どうやら僕はまた失敗しちゃったみたいだね。だってドクさんもパフィさんもラビリさんも泣きそうだもん。
「コンヨウ君、君は一体何を思い出したんだ。今の君はまるで。」
「人を殺した事があるようだ、っと。」
あぁ、やっちゃった。みんなの表情が悲痛に固まっちゃった。でもダメなんだ。僕は大事な事でみんなに嘘をつきたくない。たった2ヶ月足らずだけど昔の僕を、父さんと母さんがいた頃の僕を思い出させてくれたみんなを裏切る事は出来ないんだ。
「こんな形でゴメンなさい。これから僕は単独で行動します。村の分のお芋は僕の家の机に作りますのでエレフさんに回収をお願いして下さい。」
「コラ!コンヨウ君!話はまだ終わってないぞ!!」
「コンヨウさん…なんですぐいなくなろうとするんですか?」
「………」
勝手な事を言っている僕を真剣に怒ってくれるドクさん。僕を引き留めようと涙声で必死に言葉を絞り出すパフィさん。急な展開に声を詰まらせるラビリさん。
「大丈夫、僕は絶対にみんなを見捨てたりしない。僕はもう、たくさん貰ったから。」
なんで僕はこんなバカな方法しか取れないんだろうね。でも絶対に誰も傷つけさせない。
集落のみんなもスフィーダさんもガキどももラビリさん達も、もう僕の仲間なんだ。




