053_運命神と少年の記憶
蒸し暑い…肌がベタつく…鉄錆びと土の匂いがする…急がないと……喉が渇いた……あぁ、月ってあんなに青かったんだ…最近赤ばっかり見てたから気づかなかった……
………
ニュースの時間です。昨夜未明、○○山の麓で身元不明の遺体が発見されました。
これで今月に入って5件目です。警察は連続殺人事件として……
次のニュースです。昨夜、△△公園で中学生くらいの男の子の死体が発見されました。
男の子はやせ細っており、栄養失調による衰弱死であると思われます。
警察は現在、身元の確認を……
………
××~、ご飯できたぞ〜。今日はお前が好きなお芋の天ぷらだぞ~。
えっ?芋の品種だって?お前の好きな『紅音姫』だよ。ったくお前はいちいちうるさいんだから。
……
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ん?今のは夢?目の前は黒一色の何もない空間。確か、僕は…
「こちらに来て二度目ですね。あなたが倒れるのも。」
「どうしました?女神様。顔色が真っ青ですけど。」
どうやら、僕はまた気絶してしまったらしい。目の前には僕を転生させてくれた銀髪、銀目の羽の生えた美少女女神様が佇んでした。
ただいつもと違うのは、顔面蒼白で今にも倒れそうなくらい弱々しい様子だと言う事だ。
その事に僕が疑問を投げかけると女神様が弱々しい声で答えてくれた。
「本当にあなたはどれだけ無茶をすれば気が済むんですか。スキルの使い過ぎによる疲労はあなたが考えているほど軽いものではないのですよ。
一歩間違えば、あなたはさっき死んでいました。」
「へッ!そうなんですか!?」
これには流石の僕も面食らった。だって倒れる直前まで何も感じなかったんだもん。そんな事を考えていると女神様が気づかわしげな表情で僕に語り掛けて来る。
「どうやら、あなたは苦痛に対して異常なまでの耐性が身についてしまったようですね。無理もありません。失礼ながらあなたの前世について調べさせて頂きました。」
へぇ、女神様ってそんな事も出来るんだ。僕の前世なんて調べても愉快な事なんて一つもないのに。
「まず、あなたは定食屋を営む夫婦の間に一人息子として生を受けましたが、9歳の時に母親が他界。その時あなたの母親が父親に残した言葉が『あなたの美味しい料理をたくさんの人に食べさせてあげてね。』でした。
そしてそれがあなたの不幸の始まりでした。悲しみに暮れた父親は母親のその遺言を頼みに料理の研究にのめり込み、店に出す料理はドンドン採算度外視のものになっていきました。」
「やめてください…聞いてるだけで不愉快です…」
「そして、あなたが15歳の時、とうとう貯金が底を尽き、あなたは学校を自主退学しました。」
「やめろと言ったんです!!」
「しかし、あなたの父親は採算度外視の経営を止めませんでした。
心が病んだあなたの父親は料理を作るために後ろ暗い連中からお金を借りました。」
「聞こえないのか!やめろって言ってんだ!!!」
「あなたはその連中から借りたお金を返す為に寝る間も惜しんで働いたけど、相手は暴力に物を言わせ、法外な利息を含めた金額を請求してきました。」
「いい加減にしろ!!」
「だからあなたは…その連中を殺した。」
「……」
「その連中をスコップで滅多打ちにし、死体は山中に埋めた。父親が馬鹿な事をしない様にお金を供給し続け、自分に保険金を掛けた。
そして…自ら餓死を選んだ。」
………
この女神様の言葉を聞いた時、僕は全てを思い出した。
僕はパフィさんに嘘なんかついていなかったんだ。僕は本当に記憶が欠けていた。
たびたび思い出しては殺意が湧いていたあの客の本当の正体は…クソ親父を騙してに金を貸しつけたヤクザども。
そしてクソ親父は僕にご飯を出さなくなったんじゃない。僕が食事を拒否したんだ。
クソ親父は…父さんは僕にお腹いっぱいご飯を食べさせようと必死だったんだ。
僕が手を血塗れにして家に帰ったあの時、クソ親父は父さんに戻っていた。
泣きながら許しを乞う父さんを僕は拒絶した。
だって…鉄の匂いしかしなかったから。
「転生とは必死に生きた者に与えられる希望。
本来、自ら死を選んだあなたは転生する資格がなかったはずなんです。
ですがあなたには通常転生分のポイントがあった。」
なんで今更になって思い出したんだよ。
「きっと運命はあなたが自殺したのではなく、大切なものの為に自らを犠牲にしたと判断したのでしょう。」
なんだよ、大切なものって。僕にそんな風に思ってもいいものがあるって言うのかよ。
「コンヨウさん、転生と言うのはですね。報われない死を迎えた者が少しでも良い来世を迎えられる様にという願いから生まれた優しいシステムなんです。だからお願いです。」
女神さん…僕のこと、初めてコンヨウって呼んだ。女神さん、今にも泣きそうだ。
「どうか、真剣に幸せになって下さい。自己犠牲なんて馬鹿がやる事です。」
「女神様…なんで…僕の幸せを願うんですか?」
「あなたに救われて、あなたの幸せを願っている人達がいるからです。神様とは願いから生まれるものなんです。」
この神様は本当に神様らしくないな。でもこんなにボロボロに泣いて、相手の幸せを願える彼女は本当の意味で女神なんだろうな。
「分かりました。真剣に考えます。僕自身の幸せについて。でも差し当たっての僕の目標は『みんながお腹いっぱいになる事』ですね。」
「承知しました。あなたの人生と言う名の旅路に運命神の加護を。
あなたに『良き出会いと旅の安全を』。」
そこには眩しい笑顔で微笑む美しい少女がいた。
そして僕は目を覚ます。僕を待ってくれている人達の元へ。




