050_二正面作戦始動
「よっし、これで連絡は終わり、次は…」
僕はスフィーダさん達と孤児院の借金の相談をした後、ちょっとした用事で人目の付かない路地裏に来ていた。
するとそこに僕を追いかけてきたパフィさんが声を掛けてくる。
「ちょっと、コンヨウさん。何も言わないで出て行かないで下さい。ぼくはコンヨウさんの護衛なんですよ!」
僕の行動にパフィさんがおかんむりの様だ。
さっきあんな風に叱っちゃったけど、しっかり仕事をするパフィさん。その心意気や見事だね。
それに引き換え僕はてんでダメだね。あんな偉そうなことを言っておきながら、怒られるのが嫌だから逃げてきたなんて。
全くこの臆病な小市民の性格だけは一生抜けそうにないね。
それはさておき、一人で抜け出したのには勿論わけがあるんだけど、それを怒っているパフィさんに説明する必要がありそうだね。
「ゴメンね、パフィさん。実はちょっと野暮用があって。」
「その野暮用って何ですか。」
うっ!なんか心なしかパフィさんの言葉が冷たい気がする。
これから説明するからちょっと落ち着いてね…やっぱり怒ってるのかな~。
「実はスキルを使って集落に連絡を入れたんだ。」
「それって、遠くにサツマイモを生成する力ですか?」
「そう、今回の金策はあくまでも時間稼ぎ。本命は神父をひっ捕まえて、本来返済義務がある神父の元に借金を返す事。」
「えっ!そんな事考えていたんですか!」
「うん。だって僕のビジネスパートナーが本来負う必要のない負債で損害を受けて、そのとばっちりで僕の不労所得に影響が出るなんて看過できないじゃない。」
「……」
僕のこの発言にパフィさんが目を見開くのが分かる。いや、確かに欲まみれの動機だけど、そんなに驚かなくてもいいよね。
それから待つこと少し、沈黙するパフィさんが笑みを浮かべながらようやく口を開く。
「はぁ、なんだかんだ言ってもやっぱりコンヨウさんはお人好しですね。
ちなみに誰にどんな内容の連絡をしたんですか?」
「チッチッチ。人探しと言ったらあの人しかいないでしょう。」
パフィさんのよく分からない不当な評価をスルーしながら、おどけた調子で僕は連絡内容を口にする。
………
一方、その頃、集落では、
「ネイチャンさん、ちょっと出かけて来るからその間集落の事は任せてもいいかな。」
「別に構わないけど、ドクさんが集落を出るなんて珍しいわね。」
「実はコンヨウ君からこんなものが届いて。」
「なによ。そのサツマイモ…『力を借りたい、ナプールの宿カジツ亭で待つ、コンヨウ』。なんでサツマイモなの?」
「さぁ、いきなり私の家の机の上に現れたんだよ。」
「あの子、遠くからサツマイモの生成が出来るようになったって言ってたけど。」
「多分、ナプールから作ったんだろうね。」
「助けを求めてくれた事を喜ぶべきか、いきなり呼び出された事に呆れるべきか。」
「それより、私は短い文章で一方通行とはいえ、瞬時に遠距離に連絡できる手段を持っている事に脅威を感じるのだけど。」
「絶対にまわりにバレない様に言い含めておきなさいよ。」
「分かってるよ。」
などという会話と共にため息交じりに出発の準備をするドクの姿があった。
………
「うわぁ~、それはさぞかし迷惑だったでしょうね。」
「えっ!そこまで!」
「いや、よく考えなくてもそうじゃないですか。いきなり目の前に文字が書いたサツマイモが降ってくるんですよ。もはや怪奇現象ですよ。」
あっ、そうか。言われなくてもそれは怖いね。ついでに今、スキル強化のアナウンスが流れた。
今回はちょっと保留だな。それより次の行動に移らないと。これからやるべき事が山の様にある。
まったく、まったり4食昼寝付きの夢は遥か遠いね。まぁトラブルシューティングからだ。
「じゃあ、ドクさんが来るのは夕方だろうから、その間に久しぶりにやっちゃいましょうか。焼き芋の販売を。」
「…はい!!」
こうして僕と満面の笑みを浮かべたパフィさんは孤児院に戻り、今日の計画についてガキどもも含めた全員に話す。
「よし、ガキども!喜べ。今日は干し芋と一緒にウチの集落の特製焼き芋も一緒に売ってやる。」
「なんだよ!余計忙しくなるじゃないか。」
「そうだよ、なんで喜ばないといけねぇんだよ。」
「黙らっしゃい!!勿論ただでとは言わない。給料は一人一日1万フルールだ。」
「きゃあ~!!お兄ちゃん、素敵~~。」
「お芋のお兄ちゃん。僕達、一生あなたについて行きます。」
Hahahaaaw、全く現金なガキどもだ。金の力は本当に偉大だね。
あれ?パフィさんとゼブラさんの顔が引きつってるんだけど、やっぱりにじみ出る下衆オーラは隠しきれないか。さて、ガキどもとの話もついてことだし、他の人とも話をつけないとね。
「次にスフィーダさんには販売部隊のリーダー兼護衛を務めてもらいます。
役職手当と合わせて4万でどうかな?」
「えっ!そんなにいいんですか!」
「よし、OKって事でいいですね。」
取り敢えず、まずは孤児院にお金を落とさないと。
干し芋500個で5万フルールに給料が6人で9万フルール、1日で14万稼げれば生活費を合わせても11日で目標に到達できる。
だがこれは相手が約束をちゃんと守ればの話だ。したがって僕らの資金も稼いでおく必要がある。
焼き芋を1000個売れば20万フルール以上、その中から孤児院の給料とゼブラさん、パフィさん、ドクさんへの報酬を差し引いても僕の手元には5万は残る計算だ。
その上僕には干し芋とスイートポテトの収入もあるから1日に8万は稼げる。1日およそ22万フルールなら目標到達まで6~7日可能だろう。
でも正直こっちにばっかり手をかけていられないのは事実なんだよね。ラビリさんの件も片付けないといけないし。だからそっちはあなたにお願いします。
「次、ゼブラさん。」
「おう、なんだ。コンヨウっち。」
「ゼブラさんにはお使いをお願いします。
まず、急いでスイートポテトの納品とグレートボアの素材の売却を済ませて、それからラビリさんに今のうちに砂糖を確保しておくように指示をして下さい。
それから小麦粉に卵、果物等、お菓子の原料全般もです。」
「えっ!良いけど、でもなんでそんな事をするんだ。」
「今まであの禿ウサデブジジイがやって来た嫌がらせを聞いた感じだと、次にやりそうなのが原材料の買い占めです。これは急ぎなので、場合によってはゼブラさんが材料の確保をお願いします。」
ラビリさんの話のよると従業員への引き抜きや嫌がらせは既にやっているらしいし、それでも『ラビアンローズ』が潰れないなら次は原材料を入手できない様にするだろう。
相手はきっと後継者の権利を獲得する為に採算度外視で無茶をするだろうから、相場の数倍の価格での購入だって平気でやるだろう。
先にやられればこちらの負けだけど、原料をあらかじめ確保しておけば、逆に相手のダメージになる。
「了解、その時にアドバイス料と俺っちの給料は請求してもいいよな。」
僕の意図を理解し、獰猛な笑みを浮かべながら応えるゼブラさんに僕も同じ笑みで応じる。
「勿論です。しっかりふんだくってやって下さい。こっちも金策になりふり構ってられませんので。」
「よし来た!それじゃ善は急げだ!俺っち行ってくるわ。」
ゼブラさんも孤児院の出資者になる予定なので、彼にお金が落ちれば更に金策は加速する。おそらくこれで借金対策は3~4日で完了するようになるだろう。
それを理解したゼブラさんはその高速の足でラビリさんの元へと走っていく。
最後に一番重要な仕事だ。これはかなり危険が伴うから君にしか任せられない。
「パフィさんはこれから僕が商業ギルドのマイトさん宛に書類を書くからそれを届けて来て下さい。書類は絶対にマイトさん以外には見せず、直接見て貰った後、その場で返事を貰って下さい。
向こうの都合が悪ければ少し位時間が掛かっても構いません。もし向こうが今日お休みなら書類は誰にも見せずに引き返して下さい。
それからこれが一番大事な事なんだけど、もし途中で誰かに襲われるような事があったら躊躇なくガスで倒して下さい。自分の安全を最優先で行動する事。」
「…分かりました。」
この書類の配達は単独行動になってしまう上に襲われるリスクが高くなる最も危険な仕事だ。
少し堅い口調での注意になっちゃったけど、僕の予想が正しければ、おそらくこの孤児院は定期的に監視されている。あんなふざけた契約をする様な輩だからそのくらいはしてるだろう。
孤児院に何かあれば、高確率でアクションを起こしてくる。出来ればそこで返り討ちにしたいんだけど、如何せんまだ準備が整っていない。
現状、孤児院に出入りしている中で見た目が弱そうで、襲われるリスクがあるのは僕とパフィさん。そして僕が単独行動を避けた場合、襲われる可能性が最も高いのはパフィさんだ。
全く僕は最低のクズだね。それが分かっていながらパフィさんに危険な道を歩ませようとしている。
「ごめんね、パフィさん。結局最後は君に頼る事になってしまう。」
「いえ、大丈夫ですよ。なんたってぼくはコンヨウさんの専属護衛ですから。」
はぁ、僕って本当にダメだな。今のだって自分の中に僅かに残っている良心の呵責から逃れる為の謝罪なのに。
あんな誇らしげな笑顔を見せられたら、ずっと頼っていたくなる。
せめて少しでも彼女の安全を確保する為に、今回の新しく強化する項目はあれに決めた。
「それじゃ、みんな行動を開始しよう。スフィーダさん、すみませんが書類を書くので机を貸して下さい。」
「えぇ、勿論です。」
「それじゃ、皆さん、行動開始です。」
こうして、孤児院の借金対策と禿ウサデブジジイとの喫茶店勝負。僕らの二正面作戦が今始まった。




