049_シマウマの兄貴分とリス獣人の決意
「あの~、ちょっと聞いてもいいですか?」
「ん、どうした?スフィーダさん。」
「はい、コンヨウ君の様子がいつもと違ったからちょっと。」
わたくし達とのお話が終わって慌ただしく外に出て行ったコンヨウ君とそれを追っていったパフィさんを見送った後。
ゼブラさんを引き留めて先ほどのコンヨウ君の様子について質問しました。
するといつも笑顔のゼブラさんが少し表情を曇らせながら答えてくれました。
「おそらく見透かされちゃったんだと思うぜ。スフィーダさんとパフィちゃんの甘えをな。」
「甘え…ですか?」
ゼブラさんの言う甘えとは一体何なのでしょう?戸惑うわたくしにいつもより少し控えめな笑顔でゼブラさんが答えてくれます。
「二人共、今は確かに危機的な状況ではあるけど、本当の意味で焦ってなかっただろう。
コンヨウっちが何とかしてくれるってな。」
「!!!」
言われてみればその通りです。確かに危機感は感じていました。でもそれと同時に根拠もなく何とかなると思っていました。
きっとコンヨウ君が助けてくれる。行き倒れたわたくしを助けてくれた時の様に。孤児院に仕事を与えてくれた時の様に。そう思っていなかったと言えば嘘になります。
その事を理解し、ハッとした表情を浮かべるわたくしにゼブラさんが穏やかな声で語り掛けてくれます。
「コンヨウっちは君やパフィちゃんが思っているほど甘くない。
最初に君を助けたのは、君が行き倒れるまで何も食べていなかったからに過ぎない。
この孤児院の子供達とコンヨウっちが初めて会った時に、コンヨウっちはとても子供に接するような態度じゃなかったみたいだけど、俺っちから言わせて貰えば当然だ。
コンヨウっちは動けるのに自分で動かない者には指一本貸さない。動けない者には手を貸すかも知れないけど、必ず後から取り立てる。」
「……」
確かに、今までのコンヨウ君の行動を見ていれば一目瞭然でした。年端も行かない子供相手に働いていない事に苦言を呈する子です。
あの時子供達が少しでも嫌だと言えば、あの子は容赦なくわたくし達を見捨てていたでしょう。
実は自分達がかなり危ない橋を渡っていた事にわたくしは今更背筋が凍る思いがしました。
そんな思いに駆られ、黙り込むわたくしにゼブラさんは苦笑しながら話を続けます。
「どうやら少しだけコンヨウっちについて分かって貰えたみたいだな。
いいかい。アイツと付き合う時は決してお友達気分になっちゃダメなんだ。
アイツが言うには友情って言うのはお互いに甘えて馴れ合う関係、らしいからよ。
アイツと付き合うなら常にアイツと対等になろうと努力し続けないといけない。
それがアイツの言うギブアンドテイクに対抗する唯一の手段なんだ。」
「……」
まるで自分に言い聞かせるように静かに語るゼブラさんの横顔に思わず言葉を詰まらせました。
この横顔…どこかで見た事があるような…昔どこかで…いけません。ゼブラさんとの話に集中しなくては。
「確かにゼブラさんのおっしゃる通りかも知れません。わたくし達には自由に動く身体と考えることができる頭があります。
コンヨウ君はきっとわたくしの思考が止まっていた事を見抜いていたのでしょうね。」
そう、あの時わたくしは考えもせずにコンヨウ君にどうすればいいか訊ねてしまった。
きっと考えた末に訊ねたのならコンヨウ君も答えてくれたのでしょう。
コンヨウ君は分からない事を否定はしない。でも分かろうとしない事を否定するのだと思います。
きっとゼブラさんが提案した内容もコンヨウ君は最初から思いついていて、それをわたくしが口にする事を期待していたのでしょう。
だからあんなに簡単に共同融資にしようと言い出せたのだと思います。
この考えに思い至ったわたくしにゼブラさんはいつもの明るい笑顔で答えてくれます。
「スフィーダさん。勘違いしないで欲しいんだけど俺っち達はもう仲間だ。
お互いが助け合うと決めたビジネスパートナーだ。いつだって頼っていいんだ。
ただし、相手を…コンヨウっちを支え、助けたいって気持ちだけは忘れないで欲しい。
アイツは…自分自身を助けてもらうって事を考えられない奴だから。」
「はい、肝に銘じておきます。」
そう返事をしたわたくしに向けるゼブラさんの笑顔はいつも通り明るいはずなのに、寂しさとも無力感ともつかない暗い感情が混じっているようでした。
この笑顔をわたくしは確かに見た事がある。
そう、わたくしがまだ幼い頃。地震で両親を失った時にわたくしを助けてくれたあの人が見せた。子供を救えた喜びと親を助けられなかった後悔が入り混じった複雑な表情を。
災害に膝をつくわたくし達の前に颯爽と現れて、大量の支援物資を運んでくれた名前も知らない若い英雄の姿を。




