048_怪しい借金
「さて、一日遅れちゃったけど、ナプールに行こうか。」
「はい、護衛はぼくに任せて下さい。」
「それじゃ、コンヨウっち、パフィちゃん。行くとするか。」
今は僕は集落に住み始めて50日目の早朝。
昨日、グレートボアが現れたせいで延期になったナプールでの活動の再開だね。
ちなみに昨日分のスイートポテトと干し芋の搬入はゼブラさんにお願いしたんだけど、
「コンヨウっち、こりゃちょっとスゲ~ぞ。スイートポテトは昨日朝一で100個入れたのがおやつ時には完売、干し芋に至っては午前中に完売したそうだ。
俺っち搬入するだけで毎日約35000フルール稼いでる事になるんだけど。」
「僕もお芋を出すだけで大体同じ額儲けてますからね。今度はこれを元手にお砂糖をたくさん買って大学芋作りたいですね。」
「コンヨウさん、それはどんな食べ物なんですか?」
「揚げたサツマイモに砂糖を飴状にしたものを絡ませたお菓子だよ。飴の甘さと香ばしさにお芋のホクホク感がたまらないんだよね。」
「うわぁ~、凄く美味しそうです。いけない。涎が出そうです。」
「ちょっと俺っち向きじゃなさそうだな。他にはなんかあるのか?」
「そうですね。そういえば焼き芋バターやってませんね。それからサツマイモにマヨネーズをかけるのもです。
サツマイモと脂肪ってすっごく相性がいいんですよ。サツマイモチップスもいいな。パリッと食感と塩っ気が後を引くんですよね。」
たまらないですよね。焼き芋の上でバターが溶ける香りと乳脂肪の旨味が口に入った時の満足感。
マヨネーズのまろやかな酸味、塩気、卵の旨味がサツマイモの甘味を包み込み、それが舌の上で踊る快感。
油で揚げた薄切りのサツマイモに塩を振り、それをパリパリと噛み砕く心地よさ。
それを懇切丁寧に語ると
「うわぁ~、止めろ!それ以上言うと朝飯食ったばっかりなのに腹が減る!」
「ぼくもです!そんなに美味しそうなモノの話をされて、今は食べられないだなんて殺生です!!」
「ちょっと、話を振ったのは2人だからね。」
えっ?僕のせいなの。なんか2人が理不尽な理由で騒ぎだしたので、話題を変えるとしますかね。
「それより今回は昨日獲ったグレートボアの毛皮と牙の売却もあるからゼブラさんの貯金は更に増加しますね。」
「そうだった。ラビリの姉御もいいモンスター素材があったら高値で買い取ってくれるって言ってたしな。もっとも俺っちに入るのは運搬費だから額的には大した事ねぇがな。」
「…ラビリさんって確かまだ22でしたよね。なんで年上のゼブラさんが姉御呼ばわりなんですか?」
「いや、あの人ってなんか逆らえない空気があるんだよな。」
「そうですか?僕から見れば普通のお嬢さんですけど。」
「そう思うのはコンヨウさんだけです。」
あれ?おかしいな。完全にアウェー。どうも最近付き始めていた獣人さんを見分ける力は幻だったみたいだね。
でもあのお嬢さんが怖いって言うのがいまいち分からない。もっともヤクザ相手でも怖いと思った事は無いけどね。最近のヤクザはインテリが多いから利益にならない事で手を出したりしないんだよね…なんでこんないらん知識ばっかり持ってるんだろうね、僕って。
さて、自分の知識の偏りに悲しみに暮れていると街に近づいて来た。
出迎えてくれたのは門番のナツメさんだ。
「よぉ、昨日ぶりだな、ゼブラ。今日もサツマイモの菓子の搬入か?」
「あぁ、それもあるけど、今回はこれの販売もだ。」
「…グレートボアって、この短期間で2体も。お前んとこの集落はどうなってるんだ。」
呆れるナツメさんにゼブラさんが得意げに語り出す。
「聞いて驚けよ。なんとバックルさんに新しい大盾が手に入ったんだ。」
「おい、それマジかよ!あの『グレプの大盾』が完全復活したって事か!」
「その上、その末息子が弓矢の名手なんだ……」
ここでゼブラさんが自分の手柄でもないのに、更に得意げに昨日の出来事を語りだす。
「……うぁ~。『グレプの盾騎士隊』に弓矢まで加わったか。お前ら、国盗りでもするのか?」
「おいおい、そんな物騒な事はしねぇって。でも建国はするかもな。」
「お前が言うと洒落にならん。聞かなかった事にしてやるからさっさと行け。」
いろいろ気になる単語が出てきたけど、みんなの過去に関わる感じだからスルーだね。ほら、僕自身が一番腹を探られたくない人間だから。
などと考えている僕を余所に、少し疲れた表情で吐き捨てるナツメさんに追い立てられながら、僕らは街の中へと足を進める。
まず、最初の目的地はスフィーダさんのいる孤児院だ。
「おはよう!スフィーダさん。干し芋持って来たぜ!」
「おはようございます、ゼブラさん。今日もありがとうございます。」
「なぁに、いいってことよ。それじゃ在庫入れとくから。代金はコンヨウっちに渡しておいてくれ。」
そう言って孤児院の庭に置いてある屋台へと向かうゼブラさん。
どうやら、その途中でガキどもに捕まったみたいだけど、笑いながらあしらっている。
ガキどももゼブラさん相手だととても楽しそうで言う事も素直に聞くみたいだ。
あの人きっとスキルに『好感度補正 (ガキ)』とかあるんだろうな。まぁ、完全に偏見ですけど。
さて、スフィーダさんに最近の様子でも聞いてみますかね。
「最近って言ってもコンヨウ君に会ってまだ5日しか経ってないし、商売も今日で3日目なのでそんなに代わり映えはしないんですけど。
商売の方は今のところ順調で、このままいけば孤児院の借金も返していけそうです。」
「えっ!ここって借金なんてあったんですか!!」
これは初耳だ。可能な限り情報収集しておくべきだな。
「はい、確か100万程だったと思いますけど、食事代とか服代とかの生活費が主です。神父様の知り合いの商人さんが無利子で貸してくれてるんですけど。」
「無利子…ですか?ちなみにどちらの商人さんですか?」
ヤバい、これはきな臭い。商人が儲け無しにお金を貸すなんてありえない。このままじゃ孤児院乗っ取られエンドが待ってんじゃないか!
僕の大事な不労所得を奪う不届きな輩はブッコロだぞ!さぁ、スフィーダさん、その商人の名前を吐いて。
そう笑顔で詰め寄るとスフィーダさんが後ずさり、何故か間にパフィさんが割って入る。
「ちょっと!コンヨウさん!そんな子供が見たら失禁してしまいそうなデススマイルで女性ににじり寄らないで下さい!
スフィーダさんが生まれたての小鹿みたいにプルプル震えてるじゃないですか!!」
えっ!そんなに僕の顔ってヤバいの?正直傷つくんだけどな~。スフィーダさん…パフィさんの後ろに隠れるのは止めてあげて。
その行動って僕のハートをドリルで抉るんだけど。ダイアモンド製でも削れないって?お前ら僕をなんだと思ってるんだ!
いけない。話を元に戻そう。スフィーダさんに商人の名前と出来れば借用証書を見せて貰えるようにお願いすると、
「こちらが借用証書です。それから商人さんの名前は狐獣人のゲッスさんです。」
ゲッスって、もう名前からして悪党だろう、これ。
しかもさっき借用証書を読んでみたけど、ちょっととんでもないよ。
要約すると『貸した金額が120万フルールで期限が1ヶ月後。返済が間に合わないときは孤児院のもので返済してもらう。』である。
しかもその『もの』と言うのには……『人間』も含まれている。人身売買、明らかに違法だ。
これってあれだ。スフィーダさんをいやらしい店に売り飛ばすのが目的だ。サインの名前はクズミ、初めて見る名前、おそらく神父のものだ。
これって商人と神父、絶対にグルだよね。だがお金を借りたのも事実。その一部が孤児院で使われたのも事実。そして無利息なのも事実。
契約自体は違法だけど、返済の義務は発生している。例え公的機関に訴えても、ターゲットを建物に変更して路頭に迷わせた後にスフィーダさんを保護すると言う名目でいやらしい店に売り飛ばす可能性だってある。
取り敢えずこれはガキの前でする話じゃないな。今この場にガキどもはいないけど一応小声でスフィーダさんに話を振る。
「スフィーダさん。ちょっと借金について話をしたいんだけど。神父さんと会えますか?」
「いえ、金策で忙しいらしく、最近は会っていません。」
ちっ!おそらく金を持ち逃げしたか、ゲッスに匿って貰ってるかだな。
さて、どうしたものか。神父さえ見つかれば手の打ちようはあるんだけどな。
取り敢えず今は金策をしつつ時間稼ぎだな。金については神父を見つけ次第搾り取るから問題ない。
金が無ければ、血でも内臓でも売らせればいい。くっくっく…僕はマジでやるからね。
この事をパフィさんとスフィーダさん、ちょうど戻って来たゼブラさんに話す。
「……と言うわけです。」
「…マジかよ。コンヨウっち、これからどうするんだよ。」
「取り敢えず金策ですね。返済金が手元にあれば向こうも手を出せません。」
「そうですね。でも今のペースではひと月後に120万フルールは難しいです。なにかいい案はございませんか?」
「ぼくのガススキルでモンスター狩りをすれば可能ですけど。」
このパフィさんの一言を僕は反射的に咎める。
「それは僕が認めない。あくまでもこれは孤児院とスフィーダさんの問題だよ。
それにモンスター狩りはパフィさん一人でやるものじゃない。みんなに配分されるはずのお金をパフィさんが独り占めするのかい?」
キツメの口調にパフィさんが驚いた顔をする。分かるよ。確かにパフィさんはモンスター退治の主力だ。
自分が倒したんだから自分が報酬を貰う権利があると思うのは当然だ。確かに多く貰う権利はある。でも全部貰う権利はないんだ。
モンスターを退治してもその後、運んで解体をして売らなくてはいけない。そのどれか一つが欠けても報酬は手に入らない。
そしてこの全てをパフィさん一人でやるのは不可能だ。その事を淡々と言い聞かせるとパフィさんの表情がみるみる内に沈み込む。
「なぁ、コンヨウっち。そんなキツイ言い方しなくても。」
そこに割って入ったのがゼブラさんだ。だけど今回に関しては僕も引く気はない。
「いえ、これは必要な事です。仕事の成果が自分ひとりの功績だなんて言うバカげた勘違いをしているなら早めに修正しないと。
こういう認識の違いはいずれ大きな歪を生み、取返しの付かない事態を招きます。」
「コンヨウっち、お前がそれを言うか…」
「ゼブラさん、僕はそんな勘違いをした覚えはありませんよ。」
「はぁ~、逆なんだけどな…」
何故かため息をつくゼブラさんに思わず怪訝な表情を浮かべる僕。
それを見たゼブラさんが深呼吸をして話を切り替える。
「ふぅ、すまん。今のは無しだ。それよりも金策だ。今の話しぶりだとコンヨウっちは彼女達が稼いだお金以外はあてにしないつもりだろう。」
「当然です。ですのでゼブラさんの貯金を回すという案も却下です。当然僕やパフィさんのもです。」
「…じゃあ、借金の相手をゲッスから俺っちに移すと言うのは?」
「!!!」×2
「……」
ゼブラさんの殊更真剣な表情での提案に、パフィさんとスフィーダさんが目を見開き、僕も思わず息を呑み黙り込む。
「なぁ、コンヨウっち。これなら別にスフィーダさん達が借金を放棄した事にはならないし、スフィーダさんが身売りする必要もなくなる。
それに、今は干し芋売りで安定した収入があるから、返済されなくなる可能性も低い。」
「…つまり将来の収入を担保に融資をするわけですね。確かにこれなら実質貸し借り無しで問題が解決できます。」
「それじゃあ!!」
「はい、ゼブラさんの勝ちです。もう面倒なので、融資は僕とゼブラさんの共同で行いましょう。その方が早くお金も集まりますし。」
僕はひらひらと手を振りながら降参のポーズを取る。本当はスフィーダさんにこの考えに行きついて欲しかったけど、ゼブラさんにはスフィーダさんへの下心もあるし、まぁいいか。
実はもう一つ策はあるんだけど、それは僕が陰で実行するかな。その為にはスフィーダさんの協力が不可欠だしそっちで頑張ってもらうかな。




