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046_大きな買い物

「コンヨウのにいちゃん。エライもん頂いてしまって、ホンマおおきにな。」


これは、僕らがナプールから帰って来た次の日の朝の事。

ミルさんの旦那さんで狩人のバックルさんが、僕の家に訪れて少し申し訳なさそうにお礼を言って来た。

何故かと言えば、僕がバックルさんにとある贈り物をしていたからだ。


「いえ、お構いなく。それにそれは僕からじゃなくて3人のお子さんからですから。」


「あぁ…でもホンマおおきにな。」


その贈り物と言うのは、今バックルさんが右手に持っている人の大きさはあるんじゃないかと言うくらい巨大な金属製の盾である。



なんでこんなものを贈ったかと言うと、それは遡る事、ナプールへと出発する前日の事。


「ねぇ、お兄ちゃんにお願いがあるんよ。」


それはバックルさんの娘のルクちゃんの一言から始まった。

この場には僕以外にルクちゃんとその兄弟のバン君とラック君、合計4人がいた。

ルクちゃんは『殺菌・防腐』のスキルを持つ子で僕もたびたびお世話になっていて、この日も試供品のスイートポテトに防腐処理をお願いしていた。

僕としてはいつも頑張っている彼女のお願いならある程度聞いてあげようと思ったわけだけど、そのお願いと言うのが、


「実は、大きな盾が欲しいの。」


「えっ、どうして?」


余りに予想外のお願いに僕は思わず聞き返した。

するとルクちゃんだけじゃなく、バン君とラック君も僕に詰め寄って来てお願いを始める。

どうやらさっきの疑問を拒絶と捉えられてしまったようだ。僕はちょっと慌てながら再び聞き返す。


「えっと、別にダメってわけじゃなくて、理由を聞きたいだけなんだけど。」


その一言にホッとした兄弟はゆっくりと質問に答え始める。


「実は、ウチのオトンやけど元は凄い騎士さんやったの。」


「へぇ~、そうなんだ。確かにみんなに一目置かれている感じだしね。」


「せやろ、でも今のオトンは狩人やろ。」


「うん、そうだね。」


「やから、今使こうてる武器は手斧なんやけども、本来の武器は盾なんよ。」


「もし、あのイノシシが現れた時に盾を持っていたら怪我なんてせえへんかったと思うん。」


なるほど、確かにそうかもしれない。それでこの後街に行く僕のお使いをお願いしたいと、でも、


「うん、事情は分かったよ。僕も村を守ってくれている人達の装備を強化したいという意見には賛成だよ。」


「なら!」


「しかし!」


ここで期待の表情を浮かべる兄弟の話を一旦遮る。


「盾とか武器って物凄くお金がかかるんだよ。きっと今使ってる手斧だってそれなりの値段がするし、狩人だから弓矢だって必要だ。

それに他の人の武器だって買わないといけない。バックルさんが凄い騎士さんだったって事は分かったけど、他の人より優先して武器を渡す事はできない。」


そう、大盾は他の武器に比べて値が張るんだよね。それを買うくらいなら他の人の武器を充実させた方が全体としての利益に繫がる。そう考える人が大半だし、僕もそう思う。

さて、これは試練だ。このまま素直に諦めるか、それとも、


「じゃあ、ウチが働いたお金ならオトンに盾を買ってあげてもええよね。」


「せやな、オレも牛さんの世話してるさかい、お金をもらう権利はあると思うし。」


「僕も今はむりやけど、『狙撃』スキルがあるから早く一人前の狩人になって返せるようにガンバルさかい。」


上出来だね。それからラック君って狙撃なんてスキルを持ってたんだ。これはもしかすると面白い組み合わせになるかも。ネイチャンさんにも協力して貰えば色々できそう。

僕は悪い笑みになるのを抑えながら彼等の熱意に返事をする。


「うん、合格だね。それじゃ、今回の焼き芋の売り上げで買える中で一番いい盾を買ってくるから。」


「ホンマ!!」×3


「うん。ただしルクちゃんはこれからたくさん『殺菌・防腐』のスキルのお願いをする事になると思うけど頑張れるかい?」


「うん!ウチ、ガンバル。」


「バン君も今まで以上に乳製品が必要になると思うから、牛さんのお世話頑張ってもらう事になると思うけどいいかな?」


「当然やろ、オレに任せときぃ。」


「ラック君はこれからたくさん弓矢の練習をして早く一人前になって貰わないといけない。大変かもしれないけど、頑張れるかい?」


「うん!僕、早く一人前になる!」


「よし!みんないい子だ。絶対にとびっきりの盾を買ってくるからね。」



そして日付は飛んで、買い出しの日。

僕はコービット商会でラビリさんに大盾を見立てて貰っていた。


「ラビリさん。大盾を探しているんですけど、なんかいいやつありませんか?」


「大盾ですか?ご予算は?」


「50万程で何とか。」


「ちょっと厳しいですわね。『軽量化』と『硬質化』の両方のスキル強化を行ったものですと100万は下りませんし。」


「そうですか…何とかバックルさんに良い盾を買ってあげたかったんですけど。」


「えっ!今なんと?」


「いえ、実は…」


ここで驚いたような顔をしながら質問をしてきたラビリさんに僕は事情を説明する。すると、


「ではこちらはどうでしょう。重さ50キロの鋼鉄製の盾にありったけの『硬質化』スキルを掛けたロマン仕様。重すぎて誰も使えない為、売れ残ってしまい今ではそのお値段40万。頑丈さだけは折り紙付きですわ。」


「えっと、そんなもの誰が使うんですか?」


「ご心配には及びません。あなたが盾をお渡ししようとしている方ならきっと使えますので。」


「はぁ…使えなかった時は返品効きますか?」


「はい、その時は全額ご返金いたしますわ。」


「支払いは小切手で。」


「ありがとうございます。」


という経緯があって鋼鉄製のバカでかい、やたらと頑丈でクソ重い盾を買わされたところで、話は現在に戻る。


「どうですか?結構軽々と持っていますけど、使い心地は?」


「おう、俺はこのくらいの重さが無いと持ってる感じが無くて逆に不安やから。ホンマええもんやわ、これ。」


「そうですか…喜んで貰えたなら何よりです。」


巨大な盾を軽々と扱うバックルさんの姿に思わずドン引きする僕。

こうしてバックルさんがフルスペックで動けるようになり、集落の防衛力は更に向上するのであった。



一方、その頃。ナプールのコービット商会では、


「はぁ~。」


「どうされましたか?お嬢様。」


「ねぇ、ヒヨリちゃん。ちょっと聞いてよ。」


「お姉ちゃん、今は仕事中ですよ。」


「いいじゃない。どうせ二人きりなんだから。それよりもあのコンヨウさんの周りよ。」


「また何かあったんですか?昨日のメンツだけでもうお腹いっぱいなんですけど。」


「そうなのよ。あの子昨日大盾を買っていったでしょう。」


「はい、それが?」


「その使用者なんだけど、元グレプ王国近衛兵上級隊士『バルクフェルド=カウズ』よ。」


「はぁ!今度はあの『グレプの大盾』ですか!」


「まぁ、あのエレフさんがいた時点で可能性としてはあったんだけどね。」


「全く、今度は何が出るやら…ですね。」


「ちょっと縁起でもない事言わないでよ!」


こうして商売相手であるラビリの苦悩はますます大きなものになるのであった。

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