004_仲直りは甘い焼き芋で
「コンヨウさん。ここがぼくが見つけた水場です。」
僕とパフィさんが焼き芋を片手にやって来たのは先ほどパフィさんの話で上がっていた水場である。
あの後パフィさんが水場の情報を共有しておいた方が何かと便利だからという事で案内してくれた。
しかしこの子は本当にお人好しだ。なんで水場の情報を教えた瞬間に切り捨てられる可能性について考えないのだろうか?
その事について聞いてみると、
「そんな事を聞く人は、実際にそういう事は出来ませんよ。」
の一言である。僕がビビりの小市民だと見極めての事だったか。そう考えると中々侮れない。
だが、水場を知れたという事は色々と好都合だ。僕はパフィさんへの評価を少し上方修正しつつ話を切り出す。
「パフィさん。人が文化的な生活を送る上で重要な3要素とは何だと思う?」
「えっ?文化的って…何ですか?」
「……」
うぉい!そこからかよ!この子は鋭いくせになんていうか、物を知らな過ぎる。ダメだ、今までに出会った事の無いタイプだ。僕ってアドリブに弱いんだよな。
僕の周りって基本ウチのクソ親父にたかるハエ共ばっかりだったから、こういうのに耐性無いんだよね。よし、ここは協力者として色々教えていかないとな。頑張れ僕、負けるな僕。
「パフィさん。衣食住って言葉は知っているかな。」
「はい、それなら。」
「着る事、食べる事、住む事が十分になって人は初めてゆとりある生活を送れる。
このゆとりある生活の事を文化的な生活と言うんだよ。」
「へぇ~~、コンヨウさんは物知りなんですね。とても記憶が欠けているとは思えません。」
「うん、欠けているのは一部、常識とかそんな部分かな。知識の大部分は大丈夫だったみたい。
それよりも僕らに必要な物は何だと思うかね、パフィさん。」
「う~ん?なんでしょう?」
OK、何とか誤魔化せた。まぁ、文化的って言葉がすぐに分からなかった子だからこの質問に答えれなくても無理はない。ここは僕が主導権を握らせてもらおうかな。
「まず、住む所、つまり家だね。食べ物は芋と水があるから緊急性はないし、服だって着ている。いずれ新調する必要があるにしても今すぐじゃない。
だけど家だけは違う。急に雨が降ってくるかも知れないし、夜は冷えるだろうから風を遮る壁も欲しい。取り敢えず立派な家である必要はないけど雨風を凌げる場所は必要だと思うんだ。」
「う~ん、手っ取り早いのは洞穴とか洞窟を探す事でしょうか。」
「そうだね。取り敢えずこの水場を拠点にそういうものを探していこう。」
こうして、僕とパフィさんは水場周辺の探索を開始した。
どうやらこの水場は森の入り口にあるようで、この森はかなり大きいようだ。
奥に進み過ぎると戻って来れなくなる可能性があるので、無理をせずを心がける。
水さえ尽きなければ、食べ物は焼き芋を出せるし、取り敢えずすぐに死ぬことはないだろう。
一度死んでいるとなんか変な度胸がついてしまうので、自分で自分が怖い気分になる。
そんな益体もない事を考えながら進む事暫し、なんか人が通ったような道を発見した。
「よし!ビンゴだ!」
「えっ?どうしたんですか?」
水場があるって事はそれを使う生き物がいる可能性が高い。つまり人に会える可能性も高い。
僕がいきなり歓喜の声を上げた事にパフィさんが驚き、こちらに奇異の目を向けて来る。
確かに急に声を上げた僕がいけないけど、そんな『こいつ頭大丈夫か?』みたいな目で見なくてもいいと思うな。
ガラスのハートを持つ僕がちょっと折れそうになる心を奮い立たせ、言葉を紡ぐ。
「えっとね。ここ道っぽくない?もしかすると人がいるかも。」
「あっ!言われて見えればそうですね。でも人に会ってどうするんですか?」
「それはね…情報収集だよ。僕らはこの辺に疎い。じゃあどうするか。知っている人に聞けばいいんだよ。」
「う~ん、でも教えてくれるでしょうか?その…ぼくっておならが匂うって追い出されましたし…」
なるほど、この子にとっておならでイジメられた事はトラウマなんだね。
そりゃ女の子だから当然か。でも僕はこの件に関しては問題ないと思っている。
「ねぇ、パフィさん。もしかしたらなんだけど、君のスキル『ガス操作』でおならを出したくない時は出さないって出来るかも知れないよ。」
「えっ!本当ですか!」
「うん、スキルの使い方なんだけど、スキルを使いたいと思えば発動するみたいなんだ。
僕の場合、焼き芋を出したいって思えば出せるから。」
「そうなんですね。今、ちょうどおならが出そうだったので試してみますね。」
あっ!そういえばパフィさんに焼き芋4つ上げたんだった。そして既に3つ食べ終えている。
こりゃいつ出てもおかしくないな。危なかった。下手したら至近距離でスカンクのガスを喰らう所だった。
「あっ!出る…出るな~出るな~…」
「どう?効いてる感じする?」
「出るな~~…出ない!出ないです!スキルが発動するような感じがしました。成功です!!」
よし、成功だ。でもガスをそのままため込むのは良くないな。
何かいい方法は…そうだ!
「よし、スキルは使えるみたいだね。じゃあちょっと僕が思いついた事を試して欲しいんだけどいいかな?」
「はい、なんでしょうか?」
「あそこを見てくれるかな。」
そう言って僕は前方の木の枝の一つを指差す。
「あれは…大雀ですね。小さいですけど焼いて食べると美味しいんですよ。」
そこには掌サイズの鳥が一羽いた。どうやら食べれるらしい。
「そう、あの鳥だ。『ガス操作』であそこにピンポイントにおなら…て言い方はカッコ悪いな。そうだな…ガスを送り込んでもらえないか。」
「えっと、やってみます。飛んでけ~飛んでけ~。」
パフィさんは先ほどと同じように何か呟きながらスキルを発動させる。すると、
「ピピッ……ピッ!!!」
小鳥が断末魔の悲鳴?を上げて枝から地上に落下する。
どうやら実験は成功の様だ。僕は思わず我を忘れてパフィさんの手を取る。
「成功だ!凄いよ、パフィさん!」
「エッ!あれ、ぼくがやったんですか?」
「そうだよ、あの距離の獲物を気づかれる事無く仕留めるなんて、本当に凄いよ!」
僕は握ったパフィさんを手を喜びのまま、上下にブンブンと振り回す。
それには流石にパフィさんも驚いたようで、少し困った表情になっているようだ。
しまった、今までの友達と言う人種がろくでなしばっかりだったからこういう時どう対処すればいいか分からない。
取り敢えず手を放して謝罪かな。
「あっ!ゴメン。ちょっとはしゃぎ過ぎたみたいだね。」
「いえ、大丈夫です。ちょっと驚いただけですから。それより大雀の回収ですね。」
「あっ!そうだね…って、くっさ!これはちょっときつい。」
「えっ…」
あっ!しまった。この子自分のおならが匂う事を気にしてたんだった。凄いショックを受けた顔をしている。つい反射で言ってしまったけど、これは完全に失言だ。これは協力者して最低だ。
「ゴメン!今のは失言だったよ。」
僕はすぐに頭を下げる。
「えっ?」
「だってそうだろう。君のスキルを試したんだから少しくらい匂うのは当然だ。
なのにそれを悪いみたいに言ってしまった。謝るから許してくれないかな。
もし許せないって言うなら何かしらの償いをするから。」
「………」
沈黙がこの場を支配する。僕ってこういうとこがダメなんだよな。せっかく利害関係が一致した良い関係を築けそうな子だったのに。相手の嫌な事は絶対にしない。そう約束したはずなのに。本当にどうしようもないな。もしかしたら許してくれないかも。
そんな事を考え、暗澹とした気持ちになる僕にパフィさんが言葉を紡ぐ。
「あの…ぼくの事、嫌いにならないんですか?」
「えっ!なんで?今のは僕が悪かったんだ。君が僕の事を嫌いになる事はあっても、僕が君の事を嫌いになるなんておかしいだろう。」
よく分からない事を言うパフィさんに僕は至極当たり前の事を言う。
すると、
「…よがっだ…ぼぐ…嫌われで…ないんでずね。」
えっ!どうしよう。パフィさんが急に泣き出しちゃった。
僕がパフィさんを嫌う?意味が分からない。でもこの感じだと別に僕を嫌っているわけじゃないみたいだな。
よし、取り敢えずパフィさんが落ち着いたら焼き芋を渡して仲直りしよう。
今度は蜜芋に挑戦だ。確か甘納芋みたいな糖度の高いサツマイモを完熟させて特殊な焼き方をするんだったと思うんだけど。
そうすると汁が滴り落ちるほどの極甘、極旨の焼き芋に仕上がるんだったね。
これで仲直り間違いなしだ。